――…チュン、チュンチュンッ……
 朝9時30分。部屋のカーテンのすきまから、やわらかな朝日が差し込んでくる。
「ふわあぁぁぁぁ〜…よく寝たぁ…」
 いつもに比べ、気持ち良く目覚めたシオンは大きなあくびをした。
 このなかなかにぎやかな街――クロクス――に来てから2日目の朝。これまでずっと野宿だったのだから、気持ち良く眠れて当たり前か。
 ふと、隣のベッドに目をやる。いつもなら彼がまだ寝ているはずだ。
「…ん?ウリック、もう起きたのか…?」
『ウリックならもう出かけたわよ、お寝坊さんっ』
 シオンの前にフッと突然現れたのは、妖精のレムだ。
 思いもよらぬ不意打ちに彼は慌てふためき、言葉になっていない言葉を発する。
 レムはその様子を見、不気味な笑みを浮かべると1mきっかり彼から離れる。
『朝一番でもちゃんと反応するのね〜。やっぱりおもしろいわ〜♪』
「ゼェ………ゼェ………、人を見て面白がるなぁぁぁぁ!!」
 レムのせいでせっかくの良い目覚めが最悪な目覚めになってしまった。頭を抱えたシオンは忘れかけていたウリックことを思い出す。
「おいレム、ウリックはどこに行ったんだ?」
『わ、私は知らないわよ。ウリックの行くところなんて』
 いつもに比べリアクションが激しい気がするのだが、気のせいだろうか。
「そーかい……俺様は着替えるから出てけ出てけ」
 彼はレムを部屋から追い出した。
 出て行く際に彼女は
『きっとウリックは彼女でもできたのよ〜』
 と謎な去りゼリフを言い残したが気にしなくていいだろう。
 パジャマのボタンをはずしながら一人シオンはつぶやいた。
「彼女なんているわけねーじゃねえか…だってあいつは……はぁ、俺様は何を言ってるんだ?」
 深くため息をつくといつもの服に腕を通し、部屋のドアを開けた。
「さーて、ウリックを探しに行くか…。どうせ迷子になってそうだしな」
『さーて、ウリックに言われた通り、やりますか…』
 宿を出た彼を、彼女は上空から偵察を開始した。


「はー、重たかったぁ」
 はちきれそうな紙袋をベンチに置いた少年は倒れこむようにその横へ座り込むと、おおきくため息をついた。
「ちょっと調子に乗って買いすぎちゃったかなぁ。…まぁいっか」
 生まれつき能天気な彼はポケットにしまいこんでいたメモを取り出した。昨日の晩レムと考えたものだ。
 買っていないのはあと1つ。
「さて、これが一番むずかしいんだよね…」
 周りに見える露店には、いろいろなものが置いてある。キレイな織物や服、キラキラ光るアクセサリー。そして裏通りにはいると謎な薬みたいなものもあったり。
 少年の澄んだ瞳は、とある一店の露店に向けられた。
 なんだかおもしろそうなものがたくさん置いてありそうだ。
 少年は荷物を持ちなおすと、店へと近づき、1つの首飾りを手に取った。
 が、
(た、高っ!!)
 到底少年の手元にある金では買えそうになかったので、そそくさと立ち去る彼。
「う〜ん…合いそうなもの、合いそうなもの…」
 キョロキョロとあたりを見まわしたが、なかなか良いものが見当たらない。
 と、後ろから声をかけられた。
「なにかお探しかい?ちいさな旅人さん」
 振り向くと、そこには一人の老婆が座っていた。その前には小さな手作りらしいアクセサリーが並んでいる。
「おばあさん。なんで僕が旅人だってわかったの?」
 不思議そうに近寄ってきた少年に、老婆はやさしく微笑んだ。
「簡単なことだよ。服がちょっとほつれてるし、くつもだいぶ履き慣らされてる。街じゅうこんなくつを持ってる人間なんてそういないからね」
「へぇぇ〜。すごいね、おばあさん」
「ここでいろんな人を見てきたからねぇ」
「おばあさんはここでずっとアクセサリーを売ってるの?」
 老婆の前にしゃがみこみ、アクセサリーをじっと眺める少年。シンプルだけど、かわいらしい。
「あぁ、旅人さんぐらいのころからずっとここで売っているのさ…」
「すごいね…あっ」 
 少年の瞳に飛び込んできたのは、ひとつの首飾りだった。先端にエメラルドグリーンの石がつけてある、シンプルなもの。
「これはね、元気のでるおまじないがかけてある首飾りだよ」
「元気のでる、おまじない…」
老婆が言った事を繰り返した少年は、老婆の前にその首飾りを差し出した。
「おばあさん、これください!」


『は〜、どうにかはちあわせしなくてすんだわネ…』
 上空からシオンとウリックの様子を観察していたレムは、安堵の息をもらした。
 あの二人が会ってしまえば今まで立てた計画全てパーだ。
『今からウリックは宿に帰って準備を始めるでしょ。で、シオンは今から街でウリックを探す。2時ぐらいにシオンを私が引っ張って宿につれて帰れば……』
 ブツブツとレムは一人つぶやいた。そして我に戻る。
『あー!!いっけない、シオンが2時までに宿に帰らないようにしないとっ!!』
 レムは街に向かい急降下を開始した。

「…ったく、どこ行きやがったんだ、ウリックは?」
 美しい金髪をかきあげながらシオンは街をぶらぶらと歩いていた。気がつけばもう12時、正午だ。
 突然おなかが鳴る。
「そう言えば、朝飯も食ってなかったな…」
 いつもならウリックが用意してくれているはずだった。
「ホント、いきなりどうしちまったんだよ…」
 何気なく青い空を見上げる。と、何かが降ってくる。そしてそのままの勢いで通りに突っ込む。ベチャッという嫌な音。
「………レムか?」
 道に敷き詰められている石の上でピクピクと身体を振るわせるそれに、シオンの声は届いているのかいないのか。
(――…なんでレムが降ってくるんだ?)
『――…ハアァァァァァァ?!』
 突然レムが妖精とは思えない声をあげ起きあがった。
 けげんそうな顔をしているシオンに気づくと、一つせきをし、何事もなかったかのように宙へと舞い上がった。
『あら、シオン。こんなところで会うなんて奇遇ネ』
「おまえなぁ、本気で言ってるのか?」
 トンボでも採るかのように彼に羽をつままれたレムは、シオンに噛み付かんばかりにもがき出す。
『ちょっとぉっ!私のうつくしーい羽が折れちゃうじゃないのよ!!また髪引っ張るワヨ?!』
「まったく…そう言う性格は会ったときからひとっつも変わってねーな」
「ハァ〜」と嘆息しているシオンを見ながら、まだつままれたままのレムの怒声はまだまだ続く。
『何よぉ!シオンだって会った時から何一つだって変わってないじゃない』
「俺様はカンペキだから変えなくちゃいけないところなんてないんだよーだ」
『そんな性格してるからウリックに夜逃げされちゃうんじゃない!!』
「なんで夜逃げなんだヨ?!それより少しは女らしくしねーと彼氏できねーゾ?!」
 道の端で無茶苦茶なことを言い合っている二人を街の通行人たちは<けんかするほど中が良い>とでも見えるようで、その二人の様子を見ながら微妙に和みつつその場を通り過ぎて行く。
「あーーー!!ウリックどこに行きやがったんだぁぁぁぁぁぁ!!」
 シオンの叫び声が空へと響いて行った。

 

「うわぁっ?!」
「を?」
 道端にバラバラと飴玉が転がる。どうも子供がシオンの足につまずき転んだようだ。
「ぅ……うぅ……うわぁ〜ん!うわぁ〜んっ!!」
 転げた子供はその場で泣きはじめてしまった。
『ちょっとぉ、シオン。この坊やどうするのよ?』
「あめさん〜」
「なんで俺なんだよ?」
『そりゃぁ、もちろん、あんたの足が長いせいでこの子が転んじゃったからよ』
「うわ〜〜んっ!うわ〜〜んっ!!」
 じょじょに泣き声がでかくなっていることに気づくレムとシオン。
『……まず、泣きやますことが先決のようね』
「そうだな……」
 めずらしく意見が合う二人。
「オレはこのガキが落とした飴のかわりの飴の買ってくるから、おまえはどうにかそのガキの相手をしとけ」
 その場を立ち去ろうとしたシオンの前にレムが立ちはだかる。
『そんなこと言って逃げようなんて思ってるんじゃないんでしょうね?!』
「んなわけねーだろっ!」
『いーや、その目は厄介事はゴメンだ、って目をしてるわっ!!』
 また言い争いが始まる。
 「お兄ちゃんと妖精さんって仲よしなんだね〜」
 少年は何気に泣き止んでいる。そして何気に笑っていた。
 突然謎なことを言われた二人は、再度顔を見合わせ、同時に叫んだ。
『「ぜんっぜん仲良しなんかじゃなーーーーいっ!!!」』
 その様子を見、少年は一度ぽかんとしたが、
「やっぱり仲良しだよ。息もピッタリだし」
 ニコニコと笑顔を返してくる始末。
 頭をふったシオンはムスッとした顔で少年へと近づいた。
「もうどこも痛くねぇか?」
『…シオン…その言い方、ゼンゼン心配してるって感じじゃないわよ』
「えーいうるさい!ミジンコどチビ!!」
『キー!!なんですってぇ?!』
「やっぱり仲良しだね、お兄ちゃん達」
 二人の低レベルな言い争いは少年によって終止符を打たれた。
『ねえねえ僕、すりむいちゃったりとかしてない?』
 レムは顔を心配そうにさせながら近寄った
「ウン、この辺をガリガリっと」
 膝からふくらはぎの中間ぐらいまですりむけていた。
『……ねぇ、痛くない?』
「ううん、すんごく痛い」
 笑いながら答える少年。ある意味怖い。
「……レム、治してやれよ…」
 少々圧倒され気味のシオンは喉から声を絞り出した。
『わ、わかってるわよ……』
 そう言ってレムが傷口に手をやり何やらぶつぶつと唱え始めた。
 それに合わせ少年の傷が治ってゆく。
「――…すごいね、妖精さん」
『こんなの朝飯前よ♪』
 治療し終えたレムは、胸をそり返し言った。しかし小さいのであまり威張っているようには見えない。
 レムを見ていたシオンは、少年が握り締めている飴玉袋に気がついた。
「さってと、あとは飴だな…。おいガキンチョ、その飴玉どこで買ったんだ?」
『ガキンチョはやめなさいよ…。僕、お名前は?』
「僕はクーン。妖精さんは?」
『私はレム。あれはシオンね』
いらいら顔で壁にもたれかかっていたシオンは一人歩き出した。
「レム、クーン!さっさと飴買って帰るゾッ!!」
『待ちなさいよ、シオン!』
「待ってよぉ、お兄ちゃん〜」
 近くのお菓子屋に向かい、三人は歩き出した。

 

「よっし、こんなところでいいかなぁ?ねぇシオ……そっか、秘密でやってるんだもんね。シオンがいるわけないか」
 近くの椅子を引き寄せ、少年――ウリック――は小さくあくびをした。
 借りた部屋の中央には小さな丸机が置いてある。その上にはケーキだ。
 もう準備はカンペキ。後はレムがシオンを連れて帰ってくるのを待つだけだ。
「ふわあぁぁ…眠い…。少し寝ても大丈夫だよね…」
 ベッドが呼んでいる、ような気がした。
 ベッドにもぐりこんだ少年は、ゆっくりとまどろみの中に落ちていった――。

「――…本当はお前、女だろ?」
 突然の声に慌てる。
「えっ?!何言うんだよ?僕は男だよ」
 真っ白な世界。存在するのは、僕とシオンだけ。
 気づけば、長い紫紺色の髪をたらして、かわいい服を着て……
(なんで?!僕は男になったのに!!)
 どこか悲しそうで、怒っているようなシオン。
(どうしてそんな顔をするの?僕は、僕は……!!)
「なんで隠す?俺には本当のことが言えないのか?」
 彼が僕の腕を強く握る。
「い、痛いよ!離してよ!!」
 僕が振りほどこうとしても彼の手は離してくれなかった。
 シオンは、男だから。
(これが、男と女のちがい…?)
 急に悲しみが押し寄せてくる。
(そっか、僕は男になんか、なれやしないんだ…)
 シオンは聞こえそうにもない小さな声で僕にこう言った。
「イリア……オレはお前のことが……――」

「――…うわぁぁぁぁぁぁぁ?!」
 海老のようにベッドから跳ね上がるウリック。
 荒い息をし、目は血走っている。そして大粒の汗。
「ゆ、夢か……」
 自分の着ている服を確認し、彼は落ち着きを取り戻した。
 彼は自分に言い聞かせるように、
「そうだよ。シオンが僕のことを知ってるわけがないんだ……」
(そーだよ、僕の勘違いだ)
 一人の少年は、仲間の帰りを今か今かと待っていた。

 

「あ、あったよ、お兄ちゃん!」
 クーンは一つのたなの前に立つと、うれしそうにシオンを呼んだ。
『もうすっかりお兄ちゃんね、シオン?』
 シオンの横でふよふよ浮いているレムを無視し、シオンは背伸びをしている少年の元へ向かった。
「どれだ?クーン」
「えっとね、あれー」
 一生懸命指差したのは、シオンの頭より少々上のたなにある飴袋だった。
 それを軽々と取ってみせたシオン。
 その様子を見ていたクーンは、
「僕もいつかお兄ちゃんみたいになりたいなァ…」
 と、ボソリつぶやいた。
『クーン!だまされちゃぁだめよぉ!!こんな男になったら一生結婚できないわ!!!』
 横から口を挟むレム。が、また無視される。
 飴袋を店員へ渡しつつクーンの方へシオンは向いた。
「クーン、何でオレさまみたいになりたいんだ?」
 けげんそうにたずねたシオンに、クーンが返した言葉は、
「だってお兄ちゃんやさしいもん」
 ボーゼンとするシオン。その後、突然クーンの頭に大きな手をのせ、ごしごしと頭をなでる。
「クーン、俺みたいにならない方がいい。それよりも自分の道を行け」
 さびしそうに見える彼の顔は、何か言いたげだった。
「…さーて、クーンのアメの買ったし、オレは宿へ帰る」
「うん、アリガト、お兄ちゃん!!」
 飴袋を抱えた小さな少年は、大きな影の中に消えていった。

「さってと、俺も帰るか」
『シ〜オ〜ン〜。珍しく今日はやさしかったわねぇ』
 ねっとり口調でレム。多分無視された恨みがこめられているのだろう。
「気まぐれだ、気まぐれ。それよりウリックがもう帰ってるかもしれないな」
 レムの中で何かがはじける。
(――…ウリック?!)
「どーした?レム」
「な、なんでもないわ。それより急いで帰りましょ」
 赤い夕日に照らされた二人は、宿へと足を向かわせた。

 

「ウリック…いるのか?」
 帰って来た宿の部屋は真っ暗。
(誰もいないのか?)
 が、
「ハッピーバースディ、シオン!!」
 クラッカーのはじける音が響き、急に部屋の明かりがつく。
 クラッカーから飛び出した紙テープにからまったシオンの前に立っていたのは楽しそうに笑っているウリックだった。
「何のさわぎだ?これは」
 不思議そうにシオンは部屋を見回した。それをおかしそうに笑うウリックとレム。
『シオン、自分の誕生日ぐらい覚えときなさいよ』
「自分の誕生日忘れちゃダメじゃないか」
「オレサマの、誕生日……」
(そう言えば今日だったのか……異世界に行くことばっかりで忘れてたな)
「さぁ、座って座って!!シオンのためにたくさん料理作ったんだ!!」
 うれしそうにイスをすすめるウリックに従い、シオンは席についた。
 丸机の上にはたくさんの料理。3人では食べきれないほどだ。
「本当にこれ、全部お前が作ったのか?」
「うん。おかみさんに宿のキッチンかしてもらって作ったんだ」
『私も実はシオンが宿に戻らないようにしてたのよっ』
「そうそう、アリガト、レム」
 笑いあっている二人を見、シオンは小さくため息をついた。
(わざわざ俺のためだけに…)
 と、何かに気づいたのか。ウリックは
「シオン、目、つぶってて」
「な、なんでだよ?」
 一瞬変な重いが頭をよぎったが、ウリックにかぎってそんなことはないだろう。
「早く早く!僕がいいって言うまで開けちゃだめだよ?」
「つぶってりゃいいんだろ、つぶってりゃ…」
 シオンはしぶしぶ目をつぶる。
 そして数秒後。
「よし、シオン。もう目開けていいよ〜」
 何か首に重みがかかる。
 見てみると、自分の瞳と同じ色をした石がついている首飾りだった。
「なかなかプレゼント決まらなくて。それでね、その石、元気になるおまじないがかけてあるんだって。…僕、ずっとシオンに元気でいてほしいから……」
「ウリック……」
 顔を赤らめる二人。そこに口を挟むのはもちろん……
『何ラブコメみたいなことしてるのよ、男同士で』
 レムしかいない。
「そ、そだね、食べよっか」
「そういや今日、なんにも食べてなかったな」
『と、言う訳で皆さん合掌』
――いただきます!!――

 

 

おまけ
『ふぅ、おなかいっぱい!!』
「うむ、45点だな」
「ほら、最後のしめのケーキだよ!!」
 大きなケーキを持ち部屋にウリックが入ってきた。
 んが、
「う、うわぁっ?!」
 イスの脚にウリックがひっかかり、手からケーキが離れる。
 宙を飛ぶケーキ。そして…
 ベチャッ。
「…あ、シオン…ごめん…プッ」
 ウリックの目の前には生クリームたっぷりのシオンが…
『アハハハハハ!!生クリームお化けぇ!!』
 レムにばかうけだ。
「わ、笑ってんじゃねぇ!!」
「もぉ。で、お味の方は?」
「うむマズイ。90点!!」
END 

 

いいわけ
突然ですが、レヴァリのドリーム小説は初めてです!!(大暴露(ぇ
というか、ほとんど小説はオリジナルしか書かないんです!!
と言うわけで、もともとできているキャラを使って小説はまたもや初めて!
ついでにあのミジンコどチビは、
某マンガからいただきました(ぇ