「…イリア…生きて…く………」
――深い深い、闇の中へ落ちて行く。
2度と目覚めることのない、永遠の眠りの始まり。
誰も邪魔することのない、沈黙の世界
ゆっくりと目を開ける。
(ここが、天国ってところ、か?)
彼は本気でそう考えた。
しかし、妙に見覚えがあるような。
自分がベッドに横になっているのはわかる。身体が動かないのもわかった。
シオンは一つわからなかった。
「ここ、どこだ?」
『どこって、アドビス城じゃない』
「レム?!」
せきこむ。
大声を出したつもりなのに、実際に出てきたのは小さな喉の悲鳴だけだった。
『もぅ、まだ病み上がりなんだからムリしちゃだめよ』
「るせぇ……。で、なんでお前がここにいるんだ?俺は、生きてるのか?なんでアドビス城にいる?ウリックはどこだ?イールズオヴァは?」
『そんなに続けて質問浴びせないでヨッ!一気に答えられるわけないでしょ?』
シオンは一度ため息をつくと、横になったままレムの方へ再度顔だけを向けた。
「わかった。じゃ、まずその一に、俺は死んでないのか?」
マジメな顔をして言うシオンに、レムはあきれて少し笑った。
『うそだと思うんなら。ほっぺたひねってあげましょうか?』
「イヤ、いい…。それじゃその二。なんでアドビス城でこうやって寝てるんだ?」
レムが言うにはこうだった。
異世界でウリックとレムは最初シオンは死んでしまったと思ったらしい。が、ウリックが息を確かめてみるとシオンは息をしていたのだ。ウリックは彼を背負い、元の世界、オッツ・キイムへ戻り、眠りもせずアドビスまで走りつづけたという。
『ウリックたらすごかったのよぉ。休もうって言っても「シオンが先だよ」って言って、飲まず食わずで走ったんだから』
「…そーだったのか…。で、ウリックは?」
彼を背負って走ってきた少年の姿が見つからなかった。
『何言ってるのよ。すぐそこにいるじゃない』
そう言い、レムはシオンのベッドの近くのイスを指差した。そのイスにすわり、眠ってしまっているのは、一目でウリックだとわかる。
『お城の人が休めって言うのにウリックったらシオンから離れようとしなかったのよ。自分がボロボロで、今にも倒れそうだったのに』
「ホント、ムリしやがって」
悲鳴をあげる上半身をムリヤリ起きあがらせ、ウリックの寝顔を覗きこんだ。
『ウリック、起きるまで寝させといてあげて。十日間、君の様子を見ててほとんどねむってないのよ』
「あぁ。俺、本当に十日も眠ってたのか?」
近くの棚に腰掛けたレムは、ほうっと息をもらす。
『死んだみたいに起きないからどうしようかと思ったわよ。王様だってオロオロ部屋の前でズ――っとしてたし』
「陛下が……」
そう言えば異世界で死にかけたとき、何か言ってたような。憶えていない。
そんな時、
「――…うぅん…?…シオン!?」
目をごしごしこすり、ウリックは自分の見間違いでないか確かめていた。自分が寝ぼけていないのではないと分かると、ウリックはボロズタのシオンへとすばらしい勢いで抱きついた。
「よかったぁ。よかったよぉ…。ずっと目がさめなかったらどうしようって…ホントに、
ホントに…よかったぁ」
シオンの腕の中で泣きしゃぐるウリックの肩は、なんだかいつもより小さく見えた。
「そりゃ悪かったな…」
「ゼンゼン、悪かったとか、思って、ないでしょ?」
目を赤くしながらも顔を膨らますウリックとこちらも顔を赤くするシオン。
『うふふ…ダ・イ・タ・ン♪』
いつの間にやら部屋のすみにこっそり隠れたレムは、二人を見て、怪しげな様子でほくそえんでいた。
またもやそんな時、
「シォォォォォォーーーーーン!!!!」
すごい音をたててシオンの部屋に入ってきたのは…
「へ、陛下?!」
シオンとウリックの様子を見た陛下は…
「…わしゃ、入るべきじゃなかったの」
すごすごと退散して行った。
「なんだったんだろ?」
「さぁ…」
シオンは適当にごまかした。
ウリックはもちろん何故陛下が退散したか分かっていない。
(あ〜…絶対あとでなんか言ってくるぞ…)
シオンは大きなため息をついた。
「そう言えば、王様がシオンが目を覚ましたらパーティーするって言ってたんだ!…でも、まだ無理だよね、こんな身体じゃ…」
そう言いウリックは包帯だらけの腕をじぃっと見つめた。
「大丈夫だ…と言いたいところだが、まだちょっといてぇな」
手を握ったり閉じたりしてみた。やっぱり痛い。
「じゃぁ、これから僕が看病してあげるよ!」
すっくと立ちあがったウリックが、突然よろめいた。
「ウリック?!」
傷だらけの身体でウリックを受け止めるシオン。
「ご、ごめん…。ちょっとふらついた、だけ」
弱々しい笑みを返したウリックは、自力で立ちあがろうとした。足に力が入らないようだった。
「無理すんな…お前こそ寝とかなきゃならねーじゃねーか」
「えへへ…ごめんね……なんだか突然疲れちゃったぁ……――」
ウリックはシオンの腕の中で静かな寝息を立て、寝始めてしまった。
「…ゆっくり寝ろ……」
赤面しながらもシオンは優しくウリックを抱きしめた。
『あ〜、もう。見てられないわね…』
レムはきゃらきゃらと笑いながら、自分の顔を隠した。
そのときは気づかなかった。その様子を部屋のドアの隙間から、覗いていた二人の影に。
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