オハグロベラについて思う(24日)

 20年前まで、雑魚釣りと云えば倉橋ではギザミ(ベラとかキュウセン)釣りの事を指していた。ハゲ(ウマズラ)とかアイナメ、メバルが混ざっているが、まさに釣れる魚の90%はギザミでした。

 15年ほど前からギザミに混ざりイソベラが釣れだした。このイソベラは倉橋ではフチギザと言っており、340年前まで普通に釣れていたのだが、時とともにいなくなり、20年ほど前には見ることも出来ないほど珍しくなっていた。そのため、再び釣れだしたときには貴重なので大事にしようとリリースしていた。

 しかし、いまや雑魚釣りはおろかメバルを狙っていても、鯛を釣っていてもこのイソベラが釣れるほど増え、対照的にギザミが減ってきている。

 瀬戸内はドンブリのようなもので、その中で生息できる“パイ”は限られていて、ある一つの種が増えれば、それだけ他の種の生息が脅かされ減少していくのではないかと思われます。そして、イソベラの急増に伴ってギザミが減ったのは事実だと思います。これを魚種交代と呼ぶのかもしれません。

 ここ数年は温暖化に伴い平均海水温があがってきていると言われています。そのせいなのかどうか、56年前から、オハグロベラと言う瀬戸内では珍しい魚が見られだしました。初めは年に12匹程度見るぐらいで、珍しかったのですが、年を追うごとに見る回数が多くなり、最近では漁に出ると必ず出会えるほど増えてきています。

 近頃は、先に記したイソベラのことを考え、このままではあと数年後には釣りの邪魔になるほど増えるのではないかと心配になってきています。

そこで、今のうちにこのオハグロベラを退治しておかなければならないのではと考え、獲れたオハグロベラをそのままリリースせずに殺しているのだが、食べるでもなく、人に譲るでもないのに、ただ殺していていいものかと思い考えている。私1人がそんなことをしても、結局はこのオハグロベラは増えてしまい、ただ、無駄な殺生をしただけに終わるのでは?

 

 平成14427日 梶原氏 『タイノエ』釣る

 昔の人から噂にはきいていたが、まさか我が日美丸でこんな記録ができるとは!

10時過ぎころから、引潮の釣にかかり、まだ潮が順調に流れ出していないときに、潮が流れ出したら食いがたってくるだろうと半ば諦め気分で潮待ちをしていると、傍で釣をしていた梶原氏が突然大きくシャクリを入れた。

しかし、顔がさえない、

「かかりませんでしたか?」と聞くと、氏は、

「雑魚です。かかりませんでした。」と答えた。

それを聞いて落胆したが、少しすると氏は、

「もしかすると素人みたいで恥ずかしいかも、小さな奴が釣れているかも。」

と言いながら糸を手繰り寄せていた。

あげた仕掛けを見てみると針に繭のような白い物が突き刺さっている。それをようく見てみるとそれは、タイノエである。鯛釣をする人なら見たことがあると思いますが、鯛の口の中に居る寄生虫です。害は無いそうですが、口の中から出てくると少し気味が悪くなる、三葉虫に似た生き物です。

 口の中に居るものですが、釣をしていて口に針が掛からずに、タイノエだけを掛けて釣り上げるのを人から話として聞いたことはありますが、見たのは始めてです。聞いた話では何度かやり取りをした後にスッポ抜けるように鯛をバラしたそうです。かなり大きかったようで落胆しながら仕掛けを上げるとそこにタイノエが付いていたそうで、その人は鯛を掛けたと思っていたけれど、本当はタイノエを掛けただけでそれの吸着力で大鯛とやり取りをしていただけだったのだ。大鯛を逃がして悔しがった釣り人に、

「鯛を掛けて逃がしたら悔しがってもいいが、自分が掛けたのはタイノエだからちゃんと釣り上げたじゃないか!」

と、皆に笑われたそうです。

今回、梶原氏はアタリに反応しただけで、やりとりもせず、悔しがることも無かったので、笑い者にはならなかったけれど、タイノエだけを釣ると言う記録だけはつくりました。

 

 倉橋のフカセ釣の始まりは定かではないが、実しやかに話されている事によれば、昭和二十年の後半から三十年の初めころ、ある漁師が西五番灯台に上がり(なんで上がったのかは判らないが)周囲を見渡していると、海が鯛で紅く染まっているのを見つけこれを釣り上げようとしたのが始まりだそうです。

 

 倉橋では春の産卵時期を狙ってフカセ釣をするのですが、この釣には多量の活きたエビが必要です。

しかし、初期のころは地元倉橋では充分な量のエビを確保することができず、大畠から買っていました。そのため大畠からのエサ舟が来ると、どんなに鯛が釣れていても釣るのを止めてでもエサを買いに行ったそうです。エサ舟にはかなりの量のエビが積んでいたそうですが、それを買おうとする釣り船も相当数いたので、皆が先を争ってエサを求めていたそうだ。遅くなるとエビを買うことができずに、次の機会まで釣ができないこともあったそうです。

 今では、釣り船も数が減り、エサを求めて競争することは無くなったけれども、エビの絶対数が減ったのか確保には相変わらず苦労しています。

 漁師の間では、鯛がいなくてフカセを止めることは考えられないが、エビが無い為に止めざるをえないことは十分ありえると、実しやかに話されています。

 

 それほどまでにエビが重要なこの釣で、想像もできない釣果を出した人が一人います。

 もう7.8年前のことですが、倉敷から釣に来られていた中田氏が作った記録です。

その日は、朝少し早い時間に良い時合いがあるので、まだ暗い内に釣り場に着き一投目を投入した。

慣れた釣師は仕掛けを解きながら餌を付けて一投目の釣に入るのですが、中田氏はまだ入門したてで仕掛け捌

きに自信が無く手元も暗いため餌を付けずに、仕掛けを解きながら海に投入した。ある程度道糸を延ばした

ところで中田氏は餌を付けて再投入しようと道糸を手繰ろうとすると、途中で根掛かりしたように糸が手繰れ

なくなった。中田氏は、根掛かりしたと思い無理やり糸を引っ張ろうとしたが、逆に糸を引きずり出された。

そうNさんの仕掛けに鯛が釣れたのです。それも80センチオーバーの良型だった。私たちは餌を付けていな

かったと言う彼の言を信じられなかったが、彼は正真正銘付けていないと言い張るので信じざるをえない。

もしこれが本当なら、ルアーならまだしも針だけに鯛が釣れるのはまさに奇跡と言えよう。倉橋のフカセでは

初めての、エビ餌無しで鯛を釣った唯一の記録だと思います。