平成2511月、小中の後輩I君・K君との釣り談義のなかで

「高知に行けば大型のカンパチが釣れるぞ!行ってみようよ!!」ということになり24日の土佐釣行が決まった。

3年ぶりの釣行で今の釣況がどうなのかわからないので天光丸のキャプテン中野さんにうかがうとぼちぼち釣れているとのことなので期待していたのだが・・・

今回は後輩2人にK村さんを誘い計4人での釣行となり、朝3時に入野港に着き漁協での氷の買い出しやタックルの船への積み込みなどをして3時半ころに出船した。

ポイントまで約3時間の道中では良型カンパチやハタ類など瀬戸内海では釣れない魚との出会いに期待が膨らみ、早起きしたのに仮眠することも無くまだ見ぬ魚との“格闘”話にはずんだ。

夜がしらけ始めた7時前ころに最初のポイントに着き一流しめでK君にすぐにアタリがあり

「おっ!一投目から!・・・」と一同が注目したが餌を取られただけでHITはしなかった。

←良型カンパチのアタリを待つK,K,Iの各氏

その後は皆の期待もむなしくアタリすら無くポイントを次々に移動しながら、仕掛けの投入と回収の単純作業が続いた。

何か所目かの移動の時すれ違う船がカンパチを釣り上げているのをK村さんが見つけ近くにカンパチがいることがわかり期待が膨らんだ直後にK村さんにHITがあり、その引きからすると10sオーバーの良型ではないようだがカンパチらしい魚なので一同が注視していると、抵抗はあるけどわりとスムーズに上がってきていたのがあと少しのところで突然ドラグを引き出す抵抗を始めた。その様子から「もしかしたら10sオーバーかも?」と沸き立つ中キャプテンだけが怪訝な顔をしていた。ドラグを出して数m回収する攻防をなんどかしているうちに“パチッ”と撓った竿が弾きリールが軽く巻き上げだした。

「あれっ、ばれた?」と一同が見ているなかハリスが切れた仕掛けだけが上がってきた。キャプテンは切れたハリスを確かめながら「やっぱり・・・サメにやられている。」と・・

キャプテンの話では途中で急に引きだしたとのは魚が抵抗したのではなくサメに襲われそのサメが引っ張ったからドラグが引き出されその歯によってハリスが切れたのだということだった。釣り始めて3時間で初めてのHITだったモノがよりによってサメに喰われるとは・・・

それでもHITがあったということは魚がいる証しなので「まだ次があるはず」と少し弛みかけていた気持ちを立て直すことができたがその後すぐにはアタリがなく再び仕掛けの投入と回収の単純作業に入った。

アタリの無い時間が3時間くらい経った午後2時前ころになり、キャプテンはそれまでの水深100m〜150mラインの釣りをあきらめ一発逆転を期して300mラインで釣ることにしてそちらへ移動した。

300mラインでの釣り一投目からK君にアタリがあり上手くHITし、数m巻き上げたところで急に軽くなり「ばれたのか?」と仕掛けを回収してみるとハリスが切れていた。これもサメに切られたのだろうと思っていたら、その切り口を見たキャプテン曰はく「サメではなくイシナギだろう?」とのことだった。

実際のところその魚の特定はできないけど、サメに切られた場合はハリスの切れた個所から少し離れたところまで口から吻までの間の肌(サメ肌)に擦ったざらつきが残るけど今回の場合それが無かったのでサメでないことだけははっきりとしていたので、次の流しに期待が持てた。すると今度もすぐにK君にアタリがあり、すかさず合わせるとまた上手くHITした。

HITで少しにやけるK

今度は先ほどのような手ごたえは無いけど魚が付いていることだけは確かで、途中ばれることもなく300mの海底から上がってきたのは・・・

しかし上がってきたのはユメカサゴ?

お目当てのカンパチではなかったが瀬戸内ではお目にかかることは無い、キャプテン曰はく、喉が黒いから高知では“ノドクロガシラ”と呼ばれているカサゴの仲間だった。

二流し続けてアタリがあったので魚の活性が少しは高いのだろうと本命のカンパチが来るかもしれないとかなり期待したがその後はK君にバラシが1度あっただけで他の人にはアタリすらなく、3時過ぎに納竿し、3時間かけて帰港した。

帰路に見た足摺岬に落ちる夕日

 

 

平成2264日午前250分、けたたましいアラームに目を覚まし同室で寝ている釣竿職人の平野氏の反応を窺うと彼も目覚めているみたいで、おもむろに起き上がり身支度を始めた。一足先に土佐入りした平野氏だけれど海況が悪くこの日が5日ぶりの釣りとなる。

階下に降りると中野キャプテンも起きてきて目ざめのコーヒーを飲んでいた。

「おはようございます!今日はよろしくお願いします!」と挨拶をして、我々もコーヒーをいただき、目を覚ました。

キャプテンに今日も海況がよくないのか尋ねると、風は無いようなので釣行予定の最終になる我々のためにとりあえずは出船しようと言い、それから港に向かった。

港に着きタックルを天光丸に積み込み、漁協にて釣った魚を冷やすための氷を買うなどの準備を済ませて、港を出たのは4時前だった。

岸壁を離れるとともに私はキャビン下にある2畳くらいの部屋へ降り、きたるべきファイトのために鋭気を養うつもりで仮眠をとった。しかし、釣り師の性か、これから釣れるやもしれないまだ見ぬ大物のことを考えるとなかなか眠ることができず、しばらくすると夜が白けだし部屋の小窓から太平洋に上る朝日が見えてきた。

「そうだ、日の出は“縁起物”だから写真を撮ろう!」と起き上がり、カメラを用意して外に出ると、もうすでに太陽は水平線上に出ていた。

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それからしばらくすると右前方に足摺岬灯台が見え出し、これも一応写真を撮っておくことにした。

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前回来た時は足摺を過ぎてしばらくのところまだかすかに岬が見える辺りで餌となるメジカ(マルソウダ)を釣ったので、今回もそろそろ餌釣りの準備に入るのかなと心構えをしていたが、その気配は無く船は速度を落とさず牧場へと向かって進んだ。

足摺をすぎてから1時間ほど経ってメジカの良い群れを見つけたのか、それとも元からこのポイントで餌を釣るつもりだったのか、船は速度を落としゆっくりと左旋回させながらキャビンからキャプテンが出てきておもむろに仕掛けを流し始めた。

2mほどの竿に小型の潜航板と疑似針が付いただけのシンプルな仕掛けだけど、潜航板の微妙な動きの違いによって喰いが違うのかキャプテンはその動きを確かめていた。

変換 〜 tenkou220604 (5).jpg←メジカ(マルソウダ)を釣っている

ほどなくすると仕掛けにメジカが掛かりだし、我々2人はそれを殺さぬように急いでバケツでカンコと呼ばれる生け簀へと運ぶのだが、小さいとは言えカツオ類直進癖があるらしく上手く生け簀に入れてやらないと生け簀の壁に当たっていとも簡単に死んでしまうから、運んだ数が餌の数となるのでは無かった。

小一時間ほど経って、メジカを釣りながら時折生け簀を確認していたキャプテンがおおよそ必要数の餌を確保できたとみて「もういいだろう!」と仕掛けを回収するとともに再びポイントへと船を進め出した。

 

1時間ほどたってようやく目的ポイントに着くと、当初予想していたのとは違い数日前からばったりと喰いが悪くなっていたためか魚影を感じさせるモノが無く、土佐入りをした時に平野氏から

「来るのが遅かったです。釣況はかなり厳しく、全く何も釣れないかもしれません」と言われたことが頭をよぎった。

キャビンではキャプテンと平野氏が

「少し釣ってみて釣れなかったら港近くに帰ってなにか他のモノを釣ることにしよう?」と話し、とりあえずはここまで来たのだから仕掛けを流して釣ってみることにした。

メジカを針に掛け仕掛けを流しアタリを待つが一向にそれらしい反応は無い!「やはりキハダはいないのか?」はるばる高知沖まで来たけど諦めて帰るしかないのかと思い始めていたころ、“バシャッ”とメジクラスが跳ねた。それは、手持ちの餌では釣れる望みがないほど小さいけれどまだキハダがいることがわかり一縷の望みが出てきた。

すると、潮が変わったのか所々でさらにキハダのライズが見られるようになった。大小は別として思っていたよりキハダがいることがわかりさらに望みが湧いてきた。

そのうち餌釣りと並行してジギングしていたキャプテンにキメジが釣れなんとか船全体のボウズは免れた。けれど、肝心の餌釣りにはアタリが全く無い。それでも時折ライズするキハダを見て、「これだけいるのだからいつかはアタルだろう?」と、キャプテンの真似をしてメジカを150mくらい泳がせてはラインを数十m手繰り寄せながらライブベイトであるメジカにリアクションバイトをさせては再び150mくらいまで泳がせていた。それを数回行っているうちに突然手繰り寄せるラインに“コツッ!”とテンションが掛かった。

「来た!」そう言うとすかさず手を離しフリーでラインを送りこんだ。

102030mとラインが出ていきそろそろ充分に銜えこんだだろうと、スプールをロックしフッキングのために大きくロッドをあおった、と、同時にロッドが大きくしなりヒットを実感した。あわてて、しかし慎重に素早くリールを巻き上げると20mも巻かないうちに急にテンションが軽くなり、獲物がこちらに向かってきているから軽くなったのかとさらにすばやく巻き上げる、けれど一向にテンションが掛からない・・・バレてしまったのだ・・

仕掛けを回収してみると胸鰭から後方に噛まれた痕がのこるメジカが上がってきた。痕から察するに十分に銜えこませることができずアワセが早すぎてまだ針まで口の中に入っていなかったようだった。

変換 〜 marusouda (2).jpg←キハダに噛まれたメジカ

もしかしたら最初で最後のアタリだったかもしれないチャンスをモノにできなくて落胆したが、落ち込んでいるわけにはいかずすぐに次の餌を付けて仕掛けを流した。しかし、しばらく経っても一向にアタリは無く、先ほどの“早アワセ”による失敗がじわじわと後悔として沁みだしていた。

1時間ほど経って無線からキャプテンを呼ぶ声がして、応答するキャプテンから「誰かの仕掛けがあの船に絡んだらしい、確かめてみろ」との指示があり確かめてみると、絡んでいたのは私の仕掛けだった。幸いその船はキャプテンの仲間らしく仕掛けを切ること無く丁寧に外してくれたのではあるがとんでもないミスをしてしまい、先ほどの“早アワセ”に続いての失敗に少し落ち込んでしまった。

変換 〜 tenkou220604 (9).jpg←この日一番の大物?

 

それからまた1時間ほど経ったころ、だんだんと慣れてきたラインの手繰り寄せを行っているとまたしてもラインにテンションが掛かり、とっさに「来た!」と言ってラインを離すとスルスルスルーと手繰り寄せていた20mくらいのラインが出ていき、それが無くなるとスプールから引き出されていくのだが、バックラッシュをしないようにかつラインによけいなテンションをかけないようにと、102030mと送りこんでやった。

初めの時には30m送りこんでも不十分だったので、こんどは失敗しないように呑み込ますつもりでさらにラインを送りこみ計70mくらいでクラッチを入れてロッドを大きくあおった。

と、同時にロッドが大きくしなり、魚のノリを確かめて「掛かりました!」と言って慎重に素早くリールを巻き上げ出した。

魚も突然わけのわからないところから引っ張られることに我を忘れているのか、102030mと重みはあるが抵抗無く寄ってくる。

「あまり大きくは無いかも?」と余裕をかましていると、魚も我にかえったのかいきなり走り出した。それからはロッドとドラグで耐えては少し巻き上げ、また走られての一進一退を繰り返しながら徐々に徐々に引き寄せてフックアップから20分がかりでようやく20kg弱のキハダを取り込むことができた。

変換 〜 tenkou220604 (11).jpg←キハダを〆ている中野キャプテン

 

一時は“完全ボウズ”も覚悟し“早上がり”も考えていたのが20kgクラスを1尾釣りあげたことで皆テンションが高くなり真剣に仕掛けを流していた。が、それもしばらくアタリがこないとともにテンションは下がり、ただ黙々と仕掛けの手繰り寄せ&リリースを繰り返すようになっていた。

「腹減ったなぁ〜・・いま何時くらいだろうか?そう言えばまだパンが残っていたな。それを食べようかなぁ、でも仕掛けをあげたらせっかくのメジカが死ぬからもったいないなぁ、この餌が死ぬまで釣ってそれからパンを食おう・・」と思いながら、いつもなら横へ走るメジカが下へ下へと突っ込んでいくのを不思議に思いつつも仕掛けを流し、ある程度ラインが出るとお決まりのように手繰り寄せようとすると、“ツンツン”とラインを小突くような反応が、

「あっ!アタリか?」とラインをリリースするがアタリとわかるような明確な引きは無く、メジカがひょろひょろと泳ぐようにスルスルっと少しラインが出ては止まり、また出ては止まるの繰り返ししか無い。

「しまったぁ、離したか?」と先ほどの“ツンツン”をキハダのアタリとみてその時の違和感でメジカを離したものと、少し落胆した。それでも念のためにラインが出るままにリリースしていて、アタリから100m以上ラインが出たところで大きくロッドをあわせてみた。

すると下を向いていたラインが船尾のほうに張りだし、同時に遥か後方で魚が大きく跳ねた!

ロッドにはHITを実感させる十分な重みが掛かり、フックアップを確認すると

「何かわかりませんが釣れました!」と言葉にした。それと同じくして無線で「カジキを掛けたぞ!」と報せが入った。

その時は確かに何がHITしたのかわからず、跳ねた魚がカジキだとも知らないままリールを巻いていると、目の前数十mのところを背鰭を出して魚が横切った。

「サメだぁぁ・・サメを掛けたみたい?」とその背鰭を見て平野氏が言うと

「サメ?厄介なモノを掛けたねぇ〜切るわけにもいかないしとりあえずは上げんといけんねぇ」と少し落胆し、それでも掛けた以上できる限り上げなければとファイトしていると、キャプテンが

「さっきのはカジキらしいぞ!お前が釣っていると無線で言いよった!」と言い、ラインの先を眺めていた平野氏も

「カジキだ!中野さんカジキが掛かっている!あの背鰭はカジキの背鰭だった!」と言う。

その言葉を聞いて俄然やる気が出てきたのはいいけれど、いままでに何人もの釣り人がカジキを掛けてはその走りこむ引きにドラグを焼かれラインブレイクされているので、私も同じ運命になるのではないかと心配になっていた。

HITしたのがカジキとわかりキャプテンも平野氏もなんとか私にキャッチさせてやろうとフォローに入り、私はリーリング、平野氏はカジキの走りをキャプテンに指示しキャプテンは操船でフォローしてくれた。

それでキハダよりは抵抗はあったけれど、想像よりは易くあと50mくらいまで寄せることができたが、それからカジキが本領を発揮し、数十mラインを引きだしては数m回収する“イタチゴッコ”のようなやりとりが続き、次第にカジキも疲れてきたが私も疲れてハーネスをしてはいるものの慣れないから腕がパンパンになっていた。それでも徐々に巻き上げが勝ってきて水面下にカジキが見えるところまで引き寄せることができると、

「ストライプドマーリン、マカジキだぁ!」平野氏がその魚体を見てキャプテンに言う。

水面下に魚体を横にして必死に抵抗するその姿に紫に光る奇麗な横縞模様が見えている。この模様からその英名が付いているらしい。

魚体が見えてもそれ以上なかなか上がってこない状態が続き、さらにロッドのテンションはそのままなのにジワリジワリとラインが滑り出してきた。

「おかしい?これぐらいの引きではラインが出ることは無いはず!少し締めてみるか?」とドラグノブに手をやると火傷をしそうに熱くなっている。

やっぱりカジキは凄い!ドラグが焼けて熱を出しているようだ。これ以上走られるとドラグが全く効かなくなり取り込みもできなくなる怖れもある。そうならないように早く取り込むために小刻みにポンピングしてはラインを巻きとるけど、なかなか思うように上がってこない。しかし、カジキも疲れてきたのか一気に数十mも走りだす力もなく、一進一退を繰り返しながらHITから20数分後にようやく船縁にその姿を現した。

それでもなお抵抗する魚体にタイミングをはかってキャプテンが用意した銛で仕留め、ギャフを掛けて3人がかりで船に取り込んだ。

その瞬間初めてのカジキに思わず「やったぁぁっ!」と叫び、フォローしてくれたキャプテン、それから平野氏と握手を交わした。

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予期せぬマカジキのHITで少しダレ気味になっていた気持ちが引き締まり、キハダのほかカジキまで視野に入れて淡々と仕掛けを流したが、それまでの渋い喰いが改善することは無く、約1時間後にキャプテンに20kgクラスがHITして、あとちょっとで取り込めるところまで引き寄せたのに、最後の抵抗で痛恨の口切れをしてしまい、そのご4時間キャプテンに2度、平野氏に1度、私に1度アタリらしい反応はあったけれど何も釣れずに5時半に納竿した。

 

平成20418

415日午前2時半、けたたましいアラーム音にあわてて携帯のストップを押し、同室で寝ている釣竿職人の平野氏の様子を窺うとどうやら氏も目覚めたみたいで、眠くだるそうな体を起こし携帯で時間を確かめていた。

就寝についたのは11時過ぎだっただろうか、およそ3時間しか寝てないから頭がぼぉーとしていて、起き上がってはいるけれど布団の上に座り込み二人で会話をかわして徐々に目を覚ましていると、階下でこの家の主で天光丸のキャプテンの中野氏が起きて何やら支度をしている気配感じ、我々もかるい支度をして階下に降りるとキャプテンがテーブルの前に座って目覚めのコーヒーを入れてくれていた。

平野氏はキャプテンとは旧知の仲だとは言え、私は昨夜初めてお会いしてそのままこの家に人生初めての民泊をしたのだった。

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コーヒーを飲みある程度目がさめて時計を見ると3時を回っていた。キャプテンの「そろそろ行こうか?」との言葉で腰を上げ支度をして港に向かった。

港でタックルを船に積み込んでいると、平野氏と会話をしていたキャプテンが再び車に乗り暗闇の中へ消えていき、氏が私の元へと来て、

「予定変更、今日はキハダを狙って“牧場(黒潮)”へ行くそうです。キャプテンも今タックルを取りに帰りました。」と話した。

この時点になって今日のメインターゲットがキハダに絞られたことを知り、タックルをキハダ用にシステムを組み替えた。

ほどなくキャプテンが戻ってきて、燃料給油や氷の準備をすませ暗闇の土佐湾へと出港した。

 

2時間後夜がしらけだしたころに足摺灯台が薄っすらと望めるところまでたどり着き、餌の地元ではメジカと呼んでいるマルソウダガツオを釣るためキャプテンが潜行板と竿を持ち出し海につけてその動きを微妙に調整し始めた。

潜行板を引く船はゆっくりと左旋回しながらメジカが喰いつくのを待ち、喰いついたメジカは死なないように素早く水を張ったバケツに入れてカンコと呼ばれる生簀に運ぶのだが、釣りあげるのを平野氏、運び役を私がすることに。

この作業のことは以前平野氏のレポートにも書かれていて、「もたもたしているとキャプテンの怒声が飛んでくる」と言うことだったので、初めての経験ではあるが下手をしないようにちょっと気を引き締めて行った。それでも慣れない初めての作業だから時折下手をするし、運んだ魚をカンコに入れるコツがあるらしくただ移し入れていただけの私のやり方では、メジカが上手くカンコの中を泳ぐことができず船側に当たって脳震盪をおこしてしまい、釣った量の半分を殺してしまったのだが、なぜかキャプテンは穏やかに「仕方無いわいなぁ〜」と言うだけで、平野氏のレポートとは違う反応をしていた。おそらくキャプテンはかなり私に気を使ってくれていたのだろう。

左旋回しながらメジカを釣っていて気が付くと足摺岬がだんだんと遠のいている。キャプテンは釣り場までの移動時間を考えて少しでも近づいて行くようにと旋回角を調整しながら釣っていたのだった。

8時過ぎになりカンコのメジカを確かめてみると、釣った量の半数以上が死んでしまい生き残ったメジカは3人で釣りをするにはちょっと不安な数しかいなかった。

それでも、釣り場までの移動時間を考えるとこれ以上ここで餌を釣っているわけにはいかず、餌が足らなければルアーでもするしかないとポイントのに向かった。

 

牧場まで1時間以上かかるから再び仮眠を取ることにしてキャビン入口で寝入っていると、次第に波が高くなり時折船が横波に押されて滑るように大きく揺れ、それにつられて転寝で力の入っていない体も大きく揺れその衝撃で目を覚ますことが度々あり、普段穏やかな瀬戸内の海に慣れている私は「この波、大丈夫なのか?」と少し不安になってきていた。(後で聞くと中止か続行のぎりぎりのところだったらしい)

あまりの揺れで仮眠できないので操舵室を覗きこむと、魚探にそれまでは映っていなかった海底が出てきて水深は100mくらいとなっているのが見えた。ここまで深かったのに急に浅くなっているからにはこの辺りに“根()”があるのだろうな?と思いつつ見ていたが次に深くなるまで残念ながら魚群は映らなかった。後日そのことは聞くとそこが“六の瀬”と言うところだったらしい。

 

その“六の瀬”を過ぎたあたりから船の揺れがだんだんと小さくなり寝やすくなったので再び転寝を始め、次に目を覚ましたのはエンジンの回転音が若干スローダウンしたときで、起き上がり周囲を見ると周りに数隻の船が集まっていた。ここがポイントかぁ?。

船の間をぬって潮上へと進むと飛び跳ねる魚がいたるところに見え、遠くなのではっきりとはしないのと泳いでいるマグロを見るのは初めてなので確信は持てないがそれがマグロでかなり活性が高いのだろうと胸が高鳴った。

 

船は仕掛けを投入するためにゆっくりと潮上に進み、いよいよ釣り開始となった。

ところが、私は長い時間の移動中の慣れない揺れに尿意を我慢していたので揺れの少なくなったこの時にと、小用をまずたすことにして仕掛けを投入せずに艫に立っていた。

そこへ側ですぐに仕掛けを入れていたキャプテンが

「来たよ!・・・あっ!離した!」と

餌さのメジカを投入してすぐ、キャプテン自身思いもよらぬ速さでの喰いつきにタックルの準備も間に合わず、ちょっとしたテンション(異変)にも敏感に警戒して銜えた獲物を吐き出すキハダの疑心に触れたのか、針掛かりする前にメジカを吐き出されてしまった。

すると、前で釣っていた平野氏から「HIT!! キャプテン、掛ったよ!」との声、行ってみると氏のロッドはすでに弧を描いていた。

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氏のタックルはロッドMOON CRAFT 661TUNAP、リールはダイワシーライン900H、ラインはナイロンlbにリーダー130lbの組み合わせで、数年前にもこのタックルで50kgのキハダをキャッチしているとのこと。(その時はおすそ分けを有難うございました)

ちなみにキャプテンはロッド661TUNAPキャプテンオリジナルロッドにリールは某D社の初期の電動リール、ラインはPE8号にリーダー80lb、針はアジ針16号、私はロッドMOON CRAFT 661TUNAP KVG仕様、リールはシーラインLD20‐U、ラインはPE8号にリーダー70lb、針はリングドゴリラ16号でくしくも皆661TUNAPを使っていた。

 

キャプテン、そして氏へのフックアップを見て、「こんなに簡単に釣れるのかよぉ〜」と思いつつ、初めてのことで何もできないまま氏が取り込むのを見ていると、時折ドラグを滑らしはするけれど、ゆっくりとていねいに引きよせてくると船の下で円を描くようにキハダが回りだした。弱ってきた証拠らしい。

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それでも最後の力をふりだして懸命に逃げようとするキハダに、氏は引導をわたすために丁寧にリフトアップして引き寄せ最後にキャプテンのギャフの餌食に!

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取りこんでみると前日のモノからすると意外に大きく20kg前後はあるのではないかとキャプテン&平野氏は言っていた。

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ファイトに要した時間は10数分程度だと思ったが以外にかかったのか、はたまた潮流が速いためなのかいつのまにかブイははるか潮上になり、仕掛け投入のために潮上へと移動することに。

移動をする間に、釣りあげたキハダから素早く血抜きをして、魚体が傷まないように注意をしながら、それでもビジターアングラーの楽しみの記念撮影をして、キャビン後部にある保冷箱の氷海水に浸け込む作業をしていると、ほどなく仕掛け投入ポイントへと到着した。

そこで私は再び焦ってしまった。平野氏のファイトにみとれ、その後の魚体の処理に夢中になりロッドベルトやハーネスの着用など自分が釣るための用意をまだ済ませていなかったのである。そのためまた仕掛けを投入すること無く次の流しのための用意をしていた。

するとまたしても餌を投入してすぐに2人にバイト&HITがあり、キャプテンの方はバレたけれど平野氏は強い引きに耐えながらのファイトで今回も20kg前後を釣りあげた。

 

再び船が潮上へと移動し、今度は私も準備が整っていて3人で釣れる体制になっていたが、ほぼ入れ喰い状態の現状と餌のメジカ不足から、もう2匹釣った平野氏は初挑戦の私に優先的に釣らせようと思われて、メジカでの泳がせ釣りを一旦休憩して昨日ノーヒットだったジギングでの釣りをすることにしたので、仕掛け投入は私とキャプテンの2人になった。

私がメジカを投入するのとほぼ同じにキャプテンも投入すると、キャプテンにはすぐにアタリがあり、メジカを銜えたキハダが吐き出さないように注意しながら確実にフックアップさせるために十分にキハダを走らせ、そしてころ合いを見てリールのクラッチを入れ、キハダの走る(逃げる)速さとクラッチを入れた時のラインにかかるブレーキのような作用によってフックアップさせ、電動リールをONにした。あとはドラグ調整されたリールが勝手にキハダを引きよせてくれるのを待っていた。

そのキャプテンが私の元へきて

「おかしいなぁ〜?アタリが無い?もしかしたらアタッテいても気づかなかっただけかも?」と言って私のラインを手に取りメジカの反応を確かめていた。

「おかしい・・・いっぺん銜えて離したのかもしれない!上げてみて!」との指示で仕掛けを回収すると、メジカはキハダに無残につぶされていた。

この釣りは餌のメジカの泳ぎに合わせてラインを出し、キハダがそれを銜えるとそのまま走りだすからそこでラインのでるスピードが変わってくるので、出るスピードのチェックをしていれば餌を銜えたことが分かるらしい。それに対して釣り人はキハダに異変を感じさせないように注意を払ってラインを送りこんでやらなければ一旦銜えた餌を吐き出してしまうのだ。

しかし、その時の私にはその変化を感じることができず、ラインの送りこみに失敗してみすみすバイトしたものを見逃してしまったのだった。

 

そうこうしているうちにキャプテンの掛けたキハダが上がってきて、今度はロッド操作をするキャプテンの代わりに平野氏がギャフ掛けをすることになり、水面にでてきたキハダの魚体に傷をつけるとよくないので頭部を狙ってギャフを打ちこむのだけれど、慣れない作業なのでなかなか上手く打ちこめず少し手間取ったが、なんとか取り込んだ。

 

潮上にのぼり仕掛けを投入すると、なんとか私に釣らせようとキャプテンが傍に来てアドバイスをしてくれ、それを聞きながらラインの出を見ているとキハダがメジカを銜えた瞬間の変化が見え、同時に

「今、銜えた!」とキャプテンの言葉、そして「バックラッシュしないように走らせろ!・・・まだまだ・・・」

と言い、その指示に従うままにPEライン特有のくいこみによるバックラッシュに注意しながら80mほど走らせた。

「もういいだろう?クラッチを入れてみて?」との指示でクラッチをONにしてロッドを大きくあおると、メジカの重さとは違うテンションがかかりHITを確信した。

HITしました!」そう云ってリールを巻き上げると思っていたよりに軽く寄ってくるから、もしかしてバレたのかと不安になってきたが、数十m巻いたところで急に重たくなりまだ掛かっていることを確信し、そこからキハダとの真のファイトが始まった。

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巻き上げているうちに次第にラインが船尾のほうへと向かっていきなんだか嫌な予感がしてきたときに、この時すでに艫でHITさせていたキャプテンが

「ラインが絡んだ!」と言い、互いの絡みを解消するために私が艫へと移動して、ラインの絡みを確認しロッドとロッドを入れ替えて、キハダに曳かれるままさらに船尾へと移動してポンピングをしていると、あと少しでリーダーというところまで来て最後の足掻きでキハダがロッドを締め込むと、“プチッ!”と言う音とともにそのままロッドが跳ね上がった。

ブレイクしたのだと思い仕掛けを回収してみると、針はそのまま付いているからどうやら口切れしたようだった。

ドラグはあらかじめ8kgにセットしていたのでキハダならばそれほど硬いわけではないから、口切れは考えられないのだが現実には針が残っているので口切れをおこしたモノとみなし以後はレバードラグのレバーをストライクより少し手前で止めてドラグ力を落として釣ることにした。

 

船が潮上にのぼり5流し目になってようやく釣り方が少し理解でき、メジカを投入してからキハダが銜え、そして走り出し充分走らせてからクラッチレバーをセットしてロッドをあおり一気に巻き上げる、セオリー通りの操作をすると、“ズシリ”とキハダの重みがかかってきた。

今度は先ほどのような口切れをおこさないようにとドラグを少し弱めにしてのファイトを心がけ、慎重に引き寄せると舟縁にきて特有の旋回を始めだし、弱ってきたところで水面まで引き上げたけど、人の姿が見えるからなのかギャフが見えるからなのか水面にでてはまた潜りを繰り返していた。しかし最後にはキャプテンがギャフをかけて取り込んでくれた。

人生初のマグロを釣りあげたのと、なんとか私に釣らせようと親身になっていたキャプテンと平野氏の心遣いとに感激し、キャプテンも釣らせることができてすこし安堵の顔になっていた。

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めちゃくちゃ嬉しい気持ちを抑え、まずは魚体を傷めないように素早く血抜き処理をして、初マグロなので記念写真を撮って氷海水の中へと一連の作業をこなしていると、船は間もなく潮上に着きすぐに6流しめの釣りを始めた。

この日のキハダの群れはまだスレていないのだろ、この流しでもキャプテンとダブルHITして以後も“入れ喰い”状態が続いた。それをすべてキャッチしていればかなりの数になるはずなのだが、相手はキハダとは言えマグロ、なかなか簡単には釣りあげられない。

その後、私はハリス(リーダー)切れやラインの送りこみの失敗などで6バイト3キャッチと5分の捕獲率で、キャプテンも最後のギャフ掛けの時に我々のホローが悪くて水面まで来て逃がすなど捕獲率を下げていた。やはりこのくらいの魚になるといかにベテランでもホローがなければ捕獲は難しいみたいだ。

平野氏は最初の2尾から釣りをルアー釣りに替えていたがなかなかバイトが無く結局NOバイトだった。

4尾目を釣った私は充足感と疲れからいったん休憩をすることにし、それまでルアーをしていた平野氏にバトンタッチした。

すると、さすがに慣れたモノでメジカを投入するとすぐにHITさせた。同時に艫で釣っているキャプテンにも釣れてダブルHITとなったが、ファイトの途中でキハダが走り、ラインが二重に絡みバラシの危険が出てきた。

それをキャプテンの指示に従いロッドを交わし交わししてなんとか両方をキャッチすることができ、もうこの頃には慣れた血抜き処理をして氷海水に放り込み、次の釣りの準備をしていると、

「いかん・・活きた餌が無い!」の言葉・・

生簀を覗いてみると泳いでいるメジカはもう無くなっていた。この釣りは活き餌がなければ釣りにならない!

「・・・もう4時か、仕方ない帰ろうか・・」とキャプテンの言葉で納竿して帰路についた。

 

帰路は、初めてのキハダ、それに初めての太平洋の波の洗礼を受け、心地よい充足感と揺れに身体の芯までふわふわと揺れている感じに眠気が襲い、3時間もの行程は長くは感じず、ただ夕日が落ちるとともにアタリが暗くなっていくことで時間の経過を感じていた。

港に着くとそのままキハダを市場に出荷するとのことなので付いて行き、そこで正確な計測をするとどれも目測どおり20kg前後のモノだった。

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今回は運よくキハダの群れにあたり、考えてもいなかったキハダを釣ることができたことを、今回の釣りに誘ってくれた平野氏、それに都合3日も旧知のごとく自宅に泊めてくれた中野キャプテンとそのご家族にお礼を申し上げます。

大変お世話になり、有難うございました。

 

日美丸