93日の宵の口をすぎたころ、私はある人と待ち合わせのために名古屋駅に降り立っていた。20数年ぶりに訪れる名古屋駅は以前数度訪れ抱いた“薄汚れたちょっと暗い”イメージとはかけ離れた明るい瀟洒な様相に改装されていた。

約束の時間より少し早くに到着したため、時間つぶしに構内をうろつくと、駅という構造そのものは変えられなかったらしくところどころに昔の面影が残っていて、若かりし日に人の多さと駅のかっての悪さに辟易としながら構内をさまよい歩いたのを思い出していた。

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しかし、相変わらずの人の多さだ!1度に10人以上網膜に入れることの少ない私にはこんなに多量の人が流れ込むとそれだけで眩暈をおこしそうだ!

 

1時間ほどしてから待ち合わせ相手の井元氏からの知らせがあり、ほどなく太閤通りで氏と合流し、氏の車で一路今回の目的地である輪島へ向かった。

輪島へのルートは東海北陸道か名神から北陸道を通って金沢まで行きそこから能登有料道を通り穴水を経て輪島へとなる。

今回は名神から北陸道を通るルートで行くことにして金沢まで順調に進み3時間くらいで着いた。そこから先は当初有料道に乗る予定だったのだが、数時間前の業務連絡で予定が変更になっていてあわてて輪島まで行かなくても良い状態になっていたので、早朝でもあることだから一般道を通ってもさほど混んではいないだろうと一般道を通ることにした。

しかし、これがまずかった。井元氏のカーナビは地図の更新をしていなかったのでナビどおりに従うと、昨年こちらに来て能登へと向かった私の通ったルートとは違う方向へと・・・

「それでも、いずれは目的地に着くだろう?時間に余裕もあることだから・・」

しかし・・突然ナビの案内が止まり、道なりに進むとナビ上には無い道へと入り込み・・その先は行き止まりに!

きた道を引き返しナビのルート表示の赤いラインが途中で切れているところまで戻るとそこは十字路に・・・

困った!ナビには左右、前後、どちらの方向へ行くかを示していない!輪島は北にあるはずだ、それに最後にナビが指示したのは左だった、左に行こう!

と、左に曲がりしばらくするとナビのルート検索が働き新しいルートにそって指示をだしだした。それに従いハンドルを切っていくとだんだんと狭く寂しい道へと・・ナビは「この先カーブです!」を連発するし、挙句は農道のようなところに入り、海沿いを北上する予定なのに山の中へと突き進みまるで狐に誘われているような感覚に!

あまりにおかしいので隣で寝ている井元氏に相談しようと考えたが、氏は仕事で疲れているのか完全に熟睡しているので、起こすのは忍びなくそのままにしておくと、やがて車幅ぎりぎりの道へたどり着き、恐る恐るそこを通り過ぎるとようやくR159へと出ることができた。

ナビの残距離を見ると輪島までまだ90km以上、高速を降りたときが108kmだったのだから1時間ほど走ってまだ20kmも進んでいない、なんと遠回りしたものか?

国道に出ると順調に進み、2時間ほどで輪島市内に入りそこから今日の宿で一足先に到着している平野、船附両氏が宿泊している「民宿 いろは」を目指し、到着したのは7時を過ぎたころだった。

普通宿泊は早くても午後からが常識なのだろうが、宿の主人の岩坂氏は「凪紗丸」という釣り船も行っているのでこのようなことにも理解があり、7時過ぎだというのに部屋に通してくれた。部屋の窓からは宿の由来と思われる「いろは橋」が

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(この橋を渡ったところから朝市が並んでいる)

隣には4カ月ぶりに会う平野氏、それに初対面の船附氏がおり、それぞれに再開&自己紹介をし、近況や次の日の見通しなどを話した。

 

しばらくして、コーヒーでも飲みに行こう!せっかく輪島まで来たことだし時間もあるからついでに“朝市”も!

と、宿の前にある“いろは橋”の向かいにある朝市通りに繰り出し、出店を一通り見てからコーヒーショップへ

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コーヒーを飲みながら波照間の島人だった船附さんの話術にのせられて、島のこと、釣りのこと、現在ハワイで行われている事業のことなど、だらだらとしかし有意義な会話をしていると、我々の入った後から来たお客が何組も入れ替わり店の回転を気にしてか、暗に退出を即すようにマスターが何度も何度も水を注ぎにやってくるほど時間が経っていた。

時間を見ると10時過ぎ、小一時間ほどここに居座っていたのだろうか、あまりに頻繁にやってくるマスターに気まずくなったのと、朝市で見た魚介が気になって再び朝市見物をすることにして、平野氏と2人で先に店を出た。

再び見て歩いていると、威勢のよいおばちゃん達があちらこちらで行きかうお客を呼びとめている。その声が先ほどより心なしか大きくなっているように思え、ふと店先で足を止めると、おばちゃんは慣れた物言いで物を買わそうと商いをしてくる。聞いていると最初に聞いた値段よりも金額は高くなっているけれど、“おまけ”や“数”を増やして結果的には最初の値から大幅値引きをしたようになっている。

これを見ていて、最初一通り見たときに「なぜ、値札が付いていないのか?値段がわからないと買いにくいな!」と思っていたが、朝市の終了が近くなると、利益から考えると売るほうとしては売れ残りが無いようにしたいし、大幅値引きにより買うほうは得をした気になり(たとえ最終値が本当の売値だとしても)、どちらも得をしたという“HAPPY END”のシステムになるように値段が付いていないのだとわかった。上手く考えられたものだ!

 

朝市には魚介、野菜のほか「こんな物までも?」と思うようないろんなモノが並んでいて、なかに数軒で“えがら饅頭”という黄色い食べ物が売られていた。その鮮やかな色と表面の粒粒に惹かれて足を止めよく見てみると、どこかで見たことがある、何かに似ている・・「そうだ“いが餅”だ!」「ありゃ、“いが餅”とおんなじじゃね?」と平野氏に言うと「“いが餅”かぁ〜、言われてみるとそっくりじゃねぇ、懐かしいなぁ〜・・っていうか、“いが餅”って言っても誰もわからんじゃろうね?」と、それでそばにいた船附氏に聞くと「“いが餅”なにそれ?」、やはり“いが餅”は呉地域限定のモノだから分からないのは当然だろう。それにしても、遠く離れた輪島で同じような食べ物があるのにはちょっと驚いた。

 

朝市を見て宿に帰り、時間がたっぷりあるので次の日の準備をすることにして、宿にある作業スペースで各々タックルを広げてロッドにリールをセット&ドラグ調整をしながらタックル談義をして時間を過ごした。

今回はTUNA CASTINGということでリールはFin-Nor OFS75PENN 850SS、ロッドは10年前に買ったけれど1度も使っていないダイワ パスフィックファントムと平野氏から借りたRECORD

他の人のを見ると船附氏のソルティガよりほかは奇しくも全てFin-Nor OFSシリーズとなっていた。このリールは日本未発売のもので性能的には同クラスの日本メーカー品より格段落ちるが、コストパフォーマンスには優れていて海外では実績があるので、輪島でどんな仕事をしてくれるか楽しみであった。

 

タックルのセッティングを終え部屋に帰り、明日の天気を気にし海を眺めるがまだ風が強く明日出船できるか微妙な様相で、一同、風が収まってくれるように祈りながら夜を過ごした。

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明けて95

昨夜のうちに今日お世話になる諏訪丸の船長から出船OKの電話をもらっていたので6時の出船に合わせて5時過ぎに起き、身支度を整えて乗船場所へと向かった。

指定された場所にはまだ船が来ていなくて、我々が場所を間違えてしまったのかと戸惑ってしまったが、ほどなく諏訪丸が姿を現し岸壁へ接岸すると、船長へ挨拶してタックルを積み込み、いざマグロを求めて港を後にした。メンバーは平野、船附、井元、名古屋からやってきた長谷川さん、そして私の5人。

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港を出ると波がまだ残っているのか、それともこちらでは普通の凪なのか瀬戸内では考えられないような波長の長い波がある。そのため、ポイントに着くまで少し横になっておこうと考えていたのだが、波による飛沫が飛び散りどこも濡れていてなかなか横になれる場所が無く、キャビンの後方のごくわずかな場所に身をひそめるように佇んでいるしかなかった。

40分ほど経って最初のポイントの七ッ島へ着き、マグロのナブラor海鳥の舞いを探したがそれらしきモノ、気配も無く次のポイントの舳倉島を目指した。

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舳倉島まで七ッ島からまだ20km以上あるけれど、海の上での20kmは天気が良ければ見えない距離じゃないはずなのになぜか島が見えない、なぜなのか?

中間あたりまで来て初めて舳倉島が見えるようになり、その姿を見て何となく見えなかったことが理解できた。舳倉島は私が想像していた瀬戸内海の島のような山がありその麓に集落があるのではなく、山の無い平地の島だったので島自体が低いのと丸い地球の曲線による影響で遠くからは見ることができない仕組みになっていたのだ。後でわかったことだがこの島は海抜12,4mで、七ッ島よりも低いのだ。

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舳倉島を通り過ぎてマグロのナブラがよく現われるポイントに赴くも、そこでもナブラや海鳥の乱舞は無く、船長の「時期的にもう終わりだからねぇ〜」という言葉が虚しく聞こえ、それでもここまで来たからには僅かな可能性にすがるようにマグロの現われるのを待つことにした。

その間何もせずに“ぼぉ〜”としているのももったいないからと、あらかじめ船長の指示で用意をしていたインチク&鯛ラバで鯛を釣ることにした。

インチクは輪島が発祥らしく地元の船長には思い入れがあるようだが、私はインチクでホゴしか釣ったことが無くむしろ鯛ラバでの実績のほうが良く、少し自信もあったので鯛ラバで釣ってみた。しかし、自作の鯛ラバがよくないのかそれとも釣り方が悪いのか全くアタリが無く、他の釣り人も同じであることから鯛はいないのかも?と思えていた。

そこへ長谷川氏にアタリがあり、FLYマンの長谷川氏にはこの釣りは初めてらしく、慣れていないのかしばらくやりとりした挙句バラしてしまった。

鯛はいる!皆がそう確信してリールを巻くが反応が無い!

しばらくアタリがないとまた皆だれてきて諦めムードが漂いだし、するとなぜかそのような雰囲気になると長谷川氏にだけバイトがあり、そしてなぜかいつもバラしてしまう。そのつど一同からため息と「どうして彼だけにアタリがあり、そしてバレるのか?」と言う疑問の声が出ていた。

私は釣りを始める前に彼の鯛ラバ仕掛けを見たときに、以前同じ物を持っていて何度もバラシを経験していたので同じようなことになるのではないかと心配していた。それが現実のこととなったので、バレルのは「腕が悪いのか」と悩んでいた彼に原因は鯛ラバにあるのではないかと助言した。しかし、対処法についてはまだ分からないので教えることはできなかった。

 

11時ちかくまで舳倉島周辺でマグロが出現するのを待ったが一向に現れる気配が無いうえ、インチク&鯛ラバでの釣りも全く釣れないのでマグロを求めて別の場所へ移動することにした。

舳倉島を横切り七ッ島のほうへと向かっていると突然“ガタッガタッガタッ”という激しい音とともに船足が止まった。

一瞬、“暗礁”に乗り上げたのかと思ったがそうでもなさそうで、舳でマグロを探していた船附氏が「ロープが流れていた!たぶん巻きついたのだろう!」と言い、船長もそれが見えたので避けてけれど間に合わなかったと言い、どうやら流れていたロープがスクリュウに巻きついたようだった。

船底の覗き窓から覗いてみるとまさしくロープが巻きついている。それも一辺が10cm近くもある太いロープがグルグルに巻きついているので容易に外すことができない。

前進で巻きついたのだからその逆に回せば外せるかもしれないとスクリュウを後進に回してみると巻き付きが少し弱くなり、船長の体を張った努力も手伝って30分ほど経って何とか1mほどはずすことができた。しかし、それ以上外すことができず、あとどれくらい巻きついているのかさえ判らないうえに、潮流と風によって船が岸へと流されていて、このまま時間をかけて外していると船が座礁する恐れが出てきたために、外すことができた1mのロープが再びスクリュウに巻きつくリスクがあるけれど、座礁するよりは被害が少ないだろうと船長が判断し、せっかく外した1mのロープが再び巻き付くと“元の木阿弥”になるから、私と船附氏が巻きつかないようにロープを引っ張り、船長が微速前進で舳倉島へ接岸することにした。

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舳倉島に着くと船の漂着の心配がなくなり、みんなの安全が確保できたことから船長も安心して海に入れると自らが潜ってロープを外した。

はずして船に上げてみると、結局ロープは2m以上あり、それがプロペラシャフトに縛るように巻きついていたので半分近くを外しても、なかなかすべてが外れなかった原因になっていたようだった。

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このトラブルに1時間半ほど費やし、予定ではもう納竿の時間になっているから「このまま帰港しても仕方ないな!」と考えていたら、船長が申し訳なく思ったのか時間延長をして再びマグロを狙うことにしてくれ、ポイントへと向かうことになった。

30分ほど経ってポイントに着くと魚のナブラと海鳥のダイブが現れ、そのナブラの中へ船を入れて全員がルアーを一斉にキャストした。

海にはマグロと思わしき魚に襲われてパニック状態になったがために剥がれたカタクチイワシの数千の鱗が夜空の星のごとくキラキラと煌めき漂い、おびただしい数が襲われたことを物語っていた。逆に考えればそれだけ多くを襲う数の捕食者がいたことの証である。

「これだけいれば誰かにアタリがあるかも?」と周りを見渡すと、ちょうど平野氏のロッドがグッと喰い込んでいる。「ヒットした!」と他人のことながら一瞬喜んだのだが、次の瞬間にロッドが跳ね返り、うまく掛からなかったことがわかった。

誰かにアタリが来たということは私を含めた他の誰かにもアタル可能性があるということなので、皆真剣にナブラめがけてキャスト&フォールを繰り返し、船長も何とか釣らせようと細かく指示し激を飛ばしていた。しかし、以後誰にもアタリが無く、そのうちナブラもおさまってしまった。

「残念じゃったねぇ〜、せっかくバイトしたのに上手く掛からんかったね!ルアーは何じゃったん?」

と平野氏に聞くと

「“セグロのファーストシンキング”深江さん(開発者)のアドバイスどおりカウントダウンを20数えたころに、ギュゥン!と・・合わせを入れたけど駄目でした!」と、せっかくのチャンスを逃した悔しさを滲ませながら話した。

「一度でもアタッたのだから、まだ可能性がありますよ!」と言い、平野氏の勧めで私もルアーを“セグロ”のスローシンキングに替え、次のナブラが立つのを待った。

しばらくして遠くでナブラが立つのを見つけそこへ接近して船長の合図で一斉にキャストを始めた。私もナブラの前にキャストしてカウントダウンを数えそしてジャークしてカウントダウンを繰り返すが一向にアタリが無い。

ナブラの飛沫が思っていたマグロのそれよりもなんだか小さいような気がするが、まだ目の前でたっている。

そこへ「これはマグロじゃないかも?ガンド(ブリの幼魚)だ!」と船長の声が聞こえ、ナブラの正体がヤズだと判った。

「わざわざここまで来てヤズなんか釣っても・・・」という気になり急に私のテンションは下がりキャストするのも適当になってしまっていた。けれど、船長にしてみれば“坊主”で帰すわけにもいかないので何とか魚を釣らそうと、やきもきしながら必死に指示を飛ばしていた。

しかし、皆マグロを釣りに来ていて、ルアーもマグロ用しかも輪島用にフォールで喰わせるようなモノばかり用意している。他の魚を釣るようにリトリーブしていてもアクションをすることもなく、このルアーで釣ることはかなり難しいと思われた。

それでも、なんとか釣らそうとナブラを見つけては船を寄せてキャストを繰り返していたが、どのナブラもヤズばかりだったので私と平野氏は全く萎えてしまい、また、船長が我々に気を使って予定時間をオーバーしてまで釣らせようとしてくれていたのを感じていたので、頃合いを見て

「船長!もういいですよ!釣れなくてもしょうがないです。我々の腕が未熟なんだから!」と話し納竿を申し出た。

船長も申し入れを受け、帰路の途中の七ッ島あたりでナブラが見つかれば釣ってみるということで輪島への帰路についた。

しかし、七ッ島周辺にはナブラが無く、そのまま納竿ということになった。

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今回の同行メンバー(左から船附氏、井元氏、平野氏)の皆さんお疲れ様でした。