
肛門疾患のデイー・サージエリー
今日、医療経済では国民医療費の高騰が国家財政を圧迫する危機感から医療費の削減がさけばれており、患者さん側からも世の中の多忙化や不況によるリストラの心配からか、入院での治療を敬遠もしくは期間の短縮を望まれる傾向が現れている。
肛門疾患の手術は、以前から痛みがひどいため自宅での療養は不可能であり、手術・麻酔・入院はあたりまえと考えられていた。
近年、手術法の変化や麻酔法の改良により日帰り手術や短期入院手術が次第に普及してきている。
今回はそうした肛門領域のデイ・サージエリーについて説明したい。
痔瘻に対するSeton法
この治療の原理である痔瘻の瘻管に紐を通して治す方法は、古くはインドで紀元前600年には薬物を沁み込ませたクシャラ・スートラを使用したものに始まる。
その後、ヨーロッパではヒポクラテスの医学書には馬のたてがみで作った紐を使って痔瘻の治療をしている。
中国では掛線(桂綫)と称して、古来から行われてきた治療法であった。
日本でも中国から伝播され、江戸時代以前から紐通し法と呼ばれ、紐の材料に動物の毛・蜘蛛の糸などを使っていた。
さらにいろいろな材料に腐食性の薬剤を染み込ませての薬線療法として、医者の秘伝として伝承されてきた。
1933年、畑 嘉聞が痔瘻の結紮療法にゴムバンドを提唱した。
残念ながら昭和40年代以後は西洋医学に対する古典的療法は、懐疑的で非科学的であるという理由から肛門外科の領域から排除されていた。
しかし、中国や日本で伝承された古典的な外科療法は結紮や腐食で病変部を除去することを原則としており中には排除しがたい論理にあった合目的な方法もある。
その、1つが痔瘻に対する結紮療法であり、欧米でSeton法といわれている方法である。
Seton法の実際
手術は短時間で済むが、筋肉の弛緩が必要であり仙骨硬膜外麻酔か脊椎麻酔が必要である。
2から3時間で麻酔が覚め、歩行可能となれば帰宅できる。
肛門の膿の出口である2次孔と直腸と肛門の境目の歯状線にある1次孔との間の瘻孔にゴムを通す。
膿が出る時期はドレナージとして役立ち、1週間後からゴムを少しずつ緊縛していく。ゴムが瘻管を徐々に時間をかけて切断すると同時に切られた組織は癒合していくため、出血がまったくない。
ゴムは緩むと圧迫壊死を起こさないので、1週間間隔で緩んだゴムを絞めていき、1ヶ月から2ヶ月かけてゴムが脱落すれば痔瘻の治療は終了する。
当院では3年間に22例の痔瘻の患者さんにこのSeton法を採用した。
全例成功し、現在まで再発はない。21例が男性で平均年齢は35.6歳、皆さん働き盛りの方である。
ゴムの掛かっている期間は平均51.8日でしたが、最長141日の方が3ヶ月間忙しく来院されなかったために平均期間が永くなった。
期間中、皆さん平常道理に勤務され、外来通院を週1回で過ごされ、入浴や運動もふだんのままで食事の制限もまったくなしであった。
これまでの経験から痔瘻に対するデイー・サージエリーとしてこのSeton法が最良と考える。
デイー・サージエリーは痔核や裂肛にも、術式を改良して行っており、今後はますます増えると予想されるが、安全性がまだ絶対ではなく、対象患者の背景・疾患を良く判断して施行されるべきである。