目が覚めた。
まるで、悪い夢を見ていた。
世界全てが俺の敵になったかのようだった。
だが、一定に響く次第に強くなる痛みが夢ではないことを教えていた。
nao PRESENTS
生命の崩壊と復活の過程 後編
(俺は……生きているのか?)
ただ、それだけしか考えられなかった。
起きあがろうとしたが、激痛がそれを防いだ。
(全治何ヶ月なんだ、こいつは……?)
他人事のように、そんなことを考えていた。
天井は白かった。
天使の羽根があるならば、こんな色をしているだろう。
そう考えた自分が、なんだか矮小に思えた。
(俺は……生きているのか。)
心の中で、そんなことをつぶやいた。
(せっかくの別れと出会いが、無駄になったかな……?)
何かを見たような気がする。
それが何なのか、思い出すことができない。
ただ、なにか、もう会えない、なつかしい感じだった。
だから、そんなことを思ったのだろう。
( 、か……。)
一瞬前に考えたことも、もう思い出せなかった。
もう一度体を動かしてみる。
再び激痛が全身を貫いたが、わかったことがあった。
「激痛が全身を覆った」こと、すなわち、満身創痍であること。
「激痛が全身を覆った」こと、すなわち、四肢は欠けたところがないこと。
「激痛が全身を覆った」こと、すなわち、(しばらく、ジョートショップの手伝いはできないな。)と思えたこと。
そして、
顔には包帯がかかってないらしいこと。
そこまで認識したとき、だれか人の気配がした。
目だけをそちらにやると、誰かが立っていた。
その誰かは、何かにひどく驚いたらしく、すぐに気配がなくなった。
それだけで疲れた。
俺は目を閉じた。
急に耳元がうるさくなってきた。
どうお世辞に考えても、『怒鳴り声』としか表現しようがなかった。
無視したかったが、なんとなくいやな予感もしたので、再び目を開いた。
ドクターの顔。
最初に見たものはそれだった。
ちょっと後悔した。
(なんでドクターを最初に見なきゃならんのだ。)
そう、切実に思った。
ドクターの口が開く。
「目を覚ましたようだな。」
何かを言ったようだが、何を言ったかは聞こえなかった。
(重傷だな。)
そう思った。
ドクターの姿が消えた。
変わって俺の目に映ったのはアリサさんの姿だった。
「公クン……生きていてくれたのね……。」
アリサさんの言葉も聞こえなかった。
俺はアリサさんの目が赤いのに気づいた。
もう一つのことにも。
俺は、安心させるために何かを言おうとした。
だが、何も出てこなかった。
(本気で重傷だな。)
また、思った。
アリサさんの涙は止まらない。
そして、アリサさんの姿も消える。
天井が闇に溶ける。
そして、再び白を取り戻す。
気がつくと、三人がいた。
まだ薄目だったからかもしれない。
だけど、ほんのわずかだが、何かが聞こえてきた。
三人が何かを言っているようだった。
「公……目を開けていたんだって……? ねえ……あたしたちにも見せてよ、公の起きているところ……。」
「公……。アタシたち、あんたに謝りたいんだよ……。はやく言わせておくれよ、公……。」
「起きてよ、公……。マリア、公に何も言ってないのよ……。公、公……。」
なんだか、胸を締めつけられる顔をしている。安心させたい。
目を、見開いた。
三人が、目を剥いて俺を見ている。正確には、俺の顔を。
せめて、一言。
「おはよう、みんな。」
言葉にならなくてもよかった。そして、微笑んだ。
俺の起きている顔を見、
俺の声にならない声を聞き、
俺の笑顔を見て感極まったのだろう。
「「「公!!!」」」
三人が一斉に抱きついてきた。
「いってええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
クラウド医院に、奇跡が起きた男の、心からの叫びが上がった。