エンフィールドの一年


記帳者:イヴ・ギャラガー


7月24日
くもり



 

「おめでとうございます!! 特賞、洋品店ローレライ・高級ゆかたたセットご当選〜〜〜〜!!」

そう言う声を聞いたのが、お昼の買い物に出かけた時。

夜鳴鳥雑貨店の「くじ引きセール」というものにつられたわけではなかった。

「ゆかた」という言葉にひかれたわけでもなかった。

けど、事実は事実。今、私の部屋には「ゆかた」というものがある。

ヴァネッサさんとトリーシャさんとローラさんがうらやましがっていた。

でも、このゆかたは「なぜか」私のサイズにぴったりだった。

だから、ヴァネッサさんにはウエストが「ほんの少し」きつく、

トリーシャさんには、胸元が「ほんの少し」ゆるいことを指摘しておいた。

ローラさんは「論外」だし。

さて、どこに「保存」しておこうかしら。




8月23日


今、私はすごく悩んでいる。

明日は夏祭り。私には関係ないはずだった。

図書館に主人公(2)さんが本を借りに来ていたので、少し話していた。

そのうち、夏祭りの話題になった。
 
 

その時の私には行く予定はなかった。

そのことを告げようとしたとき、先に来ていたトリーシャさんが口をはさんだ。

「イヴさん、こないだのくじ引きでゆかたを当てたんだよ!」

そのことをすっかり忘れていた私は、それでもその後の主人公(2)さんの台詞がはっきりと予測できた。だから、

『イヴ、それだったら、ゆかたを着て一緒に行こうよ』

タイミングまでぴったりだった。

主人公(2)さんはすごくあわてていた。まさか、同じ台詞を言われるとは思わなかったのだろう。

いや、私がそういうことをするとは思わなかった、が正しいのかも。

その後、私と主人公(2)さんはトリーシャさんにからかわれてしまったが。
 
 

でも……どうしよう。





8月 24日
晴れ


「案ずるより産むが安し」だった。
 
 

今日は夏祭り。私はゆかたを着ていくことにした。

この方が、主人公(2)さんも喜ぶに違いないから。

でも、着付けの仕方がわからなかった。

図書館で調べようと思ったが、「もしかしたら一人で着ることはできないんじゃ?」と考え、

ローレライへ行くことにした。
 
 

ローレライのおばさんに頼んだのは正解だった。

私一人で着付けることも不可能ではなさそうだが、

ぴったりと着こなすのは難しそうだ。

そして私は、待ち合わせ場所へ向かった。
 
 

「い、イヴ!?」

それが彼の最初の言葉だった。

そんなに違って見えたのだろうか?

しかし、待ち合わせまで後10分もあったのに、もう来ているとは思わなかった。

私のゆかたを見たかったからだろう。
 
 

「あら、なにを驚いているのかしら。」

私は、全く予期しない言葉を述べていた。

なんで、こんなに平然と反応を返していたのだろうか?

いつもの私ならば、そっけなく「〜かしら?」と言っていたであろうに。
 
 

「え、えーと、その、き、き、き……。」

何を言いたいのかがわかる。不思議だ。

さらに、何かを言いたくなってくる。不思議だ。

そして、言葉を発していた。

本当に、

不思議だ。
 
 

「主人公(2)さん……綺麗、かしら……?」
 
 

自分の胸が締め付けられる感覚。

返答が、なぜかたまらなく怖い。

そんなことがあるはずはないのに。

だけど、自分を信じられない。
 
 

「……綺麗、だよ。イヴ……。」
 
 

でも、主人公(2)さんは、私の希望に答えてくれた。

だからかもしれない。私があんな衝動的な行動に出たのは。

そっと、主人公(2)さんの顔に手を当て、
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

キスをした。
 
 

「い、イヴ……?」

私の顔は、真っ赤になっていたかもしれない。

でも、別にいいと思っている。

今日という、たぶん今一番いい思い出ができた日の、

一番最初の出来事だから……。


 後書き

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