Freeze
「ビンタのかわりに……キスでいいか?」
「えっ……? う、うん……。」
そしてそっと目を閉じるパティ。
それを見た俺は、パティの頬に手を当てて、くちづけを……。
とは言っても、どーせ何かの邪魔が入るんだろうなぁ……。
がささっ!
びくぅっ!
一瞬、完全に硬直する俺とパティ。そのままの体勢で音のした方に顔を向け……向け?
「二人とも……こんなところで何をやってるっスか?」
邪魔物はやっぱりテディだった。どうせ姿が見えなくなったんでおせっかいにも探しに来たんだろう。
と言っても、今現在の俺たちには声でしか判別かつかない……らしい。
「あやしいっス! とてもあやしいっス! さては……。」
何やらテディがわめいているが、俺はそれどころではなかった。パティもそうだろう。
何故か、体が完全に硬直してしまっていて、言葉を紡ぐことすらできなくなっているのだ。
さっきの「びくぅっ!」が原因なんだろう、おそらく。……ってそんなので納得できるかい!
というわけで、今テディの台詞を聞き流してまで体を動かそうとしているが、全っ然動かねえ……。
そして、悪いときには悪いことが重なるもので……。
「テディくん? そこに公くんとパティちゃんがいるの?」
こ……この声はシーラ!?
くそっ! 動けっ! 俺の体っ! 何の為にン年も育てたと思っているっ! まだ男にすらなってないだろーがっ!!
そう心の中で体をなじっても、ウンともスンとも言わない我が体。
表情すら変わってないが、目の前のパティも同じ考えをしているらしく、汗だけが流れている。
「おーい、公の奴見つかったのか?」←アレフ
「公さん、せっかく無罪になったのに、どこに行ったんでしょうかね?」←クリス
「オレ、まだお祝いの料理食い足りねーってのによー!」←ピート
「全く、どこほっつき歩いているんだろうね? アタシらをほっといて。」←エル
「そうですね。私、今日はもう少し公さんと話していたいんです。」←シェリル
「マリアも、どっか〜ん☆と魔法の花火を打ち上げたいのに、ぶ〜☆」←マリア
「うにぃ、メロディだって公ちゃんとおいわいしたいのぉ……。」←メロディ
「もしかしてパティの奴、ボウヤと一緒にこっそりデートしてるんじゃないだろうね?」←リサ
「ふん! そんな甲斐性があのヤロウにあるはずがない!」←アルベルト
「そうだよね〜。あの仕事に対する情熱を恋愛に回せば、アレフ君よりもプレイボーイになってると思うしね。」←トリーシャ
「うんうん! 恋愛アドバイサーのあたしから見てもそれは確かよねっ!」←ローラ
だああああっ!! なんで関係者がわらわらやってくるんだあああっ!!
おらあっ! うごくぁんかぁいっ! まい・ぼでーっ! こんままでは人間サンドバッグ確定ぢゃーっ!
言葉使いが変わるほどの魂の叫びも、我が肉体には一片の感動すらも与えなかったらしい。がっでむっ!
そんなことをやっているうちに、がさがさという音はだんだん近づいて来ている。さ、最悪だ……。
「「「「「「「「「「「「「あ(お)、いた。そこで何……。」」」」」」」」」」」」
全員の動きが止まったのが雰囲気でわかった。
終わったな……。
さあ、最初の一撃はマリアの大爆発か?
それとも、エルとリサの必殺拳か?
もしかして大穴でシーラとシェリルのタッグアタックか?
……………………。
ん? 攻撃が来ない……。
目の前のパティも「?」とした目で(かろうじて目だけはまともに動いていた)こちらを見つめている。
ちらりと横目で見ると……。
全員、完全に動きを止めている。
はて? 驚いたにしては、やけに長い……。
ん? もしかして、俺たちと同じ症状か!? とすると、これは伝染性があるのかっ!?
って、そんなわきゃないだろう。
どっちにせよ、これだけ時間が経っても動かないということは、まず俺たちと同じハメになったと考えていいだろう。
もう一度ちらりと目を向けると……向けなきゃ良かった。
なんか、女性陣+αからの視線がものすごく凶悪なものになっているぅ……。
などと思っていると、まともに動いている約一匹がなにやらほざいている。
「皆さん、何を固まっているっスか? 公さんにどぎついお仕置きをやらないんスか?」
テディ……分かって言ってやがるな。てめぇ後で食ってやる。絶対食らってやる。焼き肉にしてバリバリと食してくれる。
とか考えていると、またもやガサガサという音が……。
「テディ? そこにいるの?」
「あ、ご主人様〜! こっちっス〜!」
あ、あ、あ、アリサさん!?
こ、こりはヒジョーにまずいっ! アリサさんまで凍ったら、もう打つ手はほとんどなくなりそうだっ!!
そして、運命の女神は――
選択肢(笑)
1.あら……。→笑えるバッドエンド
2.まあ……。→シリアスなハッピーエンド
1.あら……。
「あら……。」
確かにそう聞こえた。
アリサさんも、一応は驚いた、ということだ。てことは……。
「ご主人様? ご主人様まで動かなくなったっスか?」
うわああああっ!! 最後の砦のアリサさんまで固まってしまったあああっ!!
こ、こんな結末は認めーんっ!!
やりなおしだっ! やりなおしを要求するーっ!!
(かなえてさしあげやう。)
え?
「主人 公っ! フェニックス美術館における美術品窃盗容疑で逮捕するっ!」
へ?
……目の前には、殺気立ったアルベルトが立っている。
その後ろでは、アリサさんとテディがはらはらした目でこちらを見ている。
そして、今立っている場所は、ジョートショップの入口だ。
……てことは、本っ当にやりなおし、てことか?
クライマックスのやりなおし、じゃなくて?
「くっくっくっ……ついに尻尾を出しやがったな、この犯罪者がっ! この日を俺は一日千秋の思いで待っていたぞっ!」
……俺は、確かにやりなおしを要求した。が、ここまで戻してくれ、とは言いたくなかったんだが……。
(リセットしかなかったのよん。しかもノーセーブだったしね。)
……ぶち。
どこかから聞こえてきた天の声に、俺はあっさり切れた。
「さあさあ、おとなしくお縄につきやがれ! それとも何か弁解でもあるのかっ?」
「……ふ……。」
「ふ?」
「ふざけるなあああっ!!」
どぎゅるるるるっ!! ごっ! ばきべきゃあああっ!
「ぎゃああああっ!?」
腰の乗ったコークスクリューが、見事にアルベルトを捕らえ、ジョートショップの扉をブチ破って飛んで行きました……。
その後、俺は再びパティとクライマックスを迎え、テディをタッグで排除して悲願を達成したのは、まあ、別の話ということで。
「まあ……。」
お、終わった……。
トリーシャとローラ、エンフィールドのサラウンドスピーカーに見られた時点で結果は決まっていたかもしれないけど、それ以前にアリサさんに直接見られてしまうとは……。
これで二人とも、一生からかわれまくりの運命かぁ……。
「やっぱり若いっていいわね……。一目を気にせずにラブシーンなんて……。」
気にしてないんじゃなくて、気にできなくなってんですよぉ……。
「でも、動けないんじゃ興ざめよね?」
へ?
ふぉん……
がくっ!
「どわっ!?」
「きゃあっ!?」
な、なんでいきなり動けるように……?
「さあ、みんなも動けるようになりましょうね?」
ぞわっ!
「パティ、逃げるぞ!」
「え、あ、きゃあっ!?」
「あっ、公クン!? パティちゃん!?」
アリサさんの驚く声を尻目に、俺はパティを、いわゆる「お嬢様だっこ」して逃げ出した……。
「ふう、ふう、ふう……。」
「だ、大丈夫……?」
大丈夫なはずがない。
とにもかくにも全力ダッシュしてエンフィールドを駆け抜けたのだから、体力が一気になくなった。
もう安全だと思った瞬間に、俺はパティを抱えたまま、あおむけにひっくり返ってしまった。
「それにしても、あんな風に抱きかかえるなんて……。結構恥ずかしかったわよ……。」
それでもまんざらでもなさそうな表情で、パティがつぶやいた。
「本当なら……ぜい、ぜい、結婚式で……ぜえ、ぜえ、やりたかったけどな……。」
思わず、本音が口をついて出る。
「ば……バカっ! そんな恥ずかしいこと言わないでよっ!」
本当なのに。
「でも……。」
「ふう……ん?」
「結婚式……かぁ……。」
「……なんなら、今、やるか?」
「……え?」
懐から青紫色のビロードのかかった小箱を取り出す。
それを見て、目を見開いたパティ。
「……それって……。」
「ホントは婚約指輪、とか言って渡そうとしたんだよな。この1年間のお礼に。」
でも、あんなことがあったんじゃ、ご破算だよなぁ……。
「……て。」
「え?」
「貸して!」
「あ、ああ。」
横に寝そべっているパティに箱を渡す。
そして、箱の中から……えーと……その……ゆ、指輪……(っふう)指輪を、取り出して、
俺の方に突き出して、
「これ、はめて。」
「……は?」
「好きな指に、はめてみて。」
俺はそのまま、指輪を受け取り、
少し考え、
パティの左の薬指に、そっとはめた。
「……これでいいか?」
「……これだけ?」
何を言いたいかはわかる。
わかるが、確認だけはやりたい。
「……いいのか?」
「……バカ。」
顔を真っ赤にして、伏せてしまった。
それを見た俺は、パティの頬に手を当てて……。
十数秒後、完熟トマトとなった俺とパティがいたことを、ここに記しておく……。