のぞみの会-講演会・勉強会
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講演会 1997.01.18 尾道
「乳癌の再発予防」

公立みつぎ総合病院外科
向井 憲重 先生
はじめに
 中世までは不治の病とされていた乳癌に対して、今日、日本では80%という高い10年生存率を得ており、さらに早期乳癌に限れば95%の10年生存率が実証されている。近年早期乳癌の比率は増加傾向にあるが、その背景には、乳癌に対する意識を昴め、知識を普及させ、自己検診を広め、集団検診システムを充実させた社会的啓蒙活動の功績と、そして何よりも診断技術の進歩であろうと考えられる。

乳癌の予防
 一次予防

  ・脂肪・カロリーの過剰摂取、肥満を避ける。
  ・結婚した場合はできるだけ早く第1子を出産する。
 二次予防
  ・定期的に乳癌検診を受け、早期発見・早期治療に努める。

高危険群(乳癌研究会)
 年令:40歳以上
 未婚:30歳以上
 初産年令:30歳以上(未婚女性を含む)
 閉経年令:55歳以上
 肥満:標準体重の+20%以上
 良性乳腺疾患の既往
 乳癌の既往
 乳癌の家族歴
   最近、飲酒習慣のある女性はそうでない人に比べ1.5倍の発癌率
   外国では喫煙も関係しているとの報告あり。

乳癌検診
 検診の問題点(触診のみでよいか)

診断法
 視診、触診、エコー、CT、マンモグラフィー、細胞診、サーモグラフィー、生検その他

再発と生検の関係(現時点での結論)
 1)生検は切除生検が好ましい
 2)生検後の間隔は予後に関係しないが一ヶ月以内の手術が望ましい。
 3)良性と考えられて生検された症例の予後はあまり良くなし。
 4)術直前生検は必ずしも良好な成績を残していない。(?)
 5)生検なしで直接手術する症例の予後は、生検例より不良である。(?)
 6)以上の所見はいずれもまだ決定的結論ではない。

手術の変遷
 標準術式
   定型的乳房切断術
   非定型的乳房切断術
 縮小手術
   乳房温存術(適応の慎重な検討が必要)
 術式による予後

再発予防のための術後内分泌及び化学療法
 内分泌療法
 科学療法
 放射線療法

術後の諸問題
 1)術後追跡
   術後10年までの追跡が必要である。
   再発例のうち70%が3年以内に再発し、5年以内に85%が再発している。
 2)通院の仕方
 3)タモキシフェンの投与期間
   2年以上投与する場合は子宮癌のチェック、静脈血栓症の発生に注意。
   子宮内膜症が6.4倍発生する
 4)術後の妊娠
   3年は妊娠を控える。

乳癌治療の基本はどうあるべきか?

 乳癌治療後にも乳房の美しさを競う、これこそは究極のQOL追求だろうと我々は考えてきた。しかし最近私は、患者の求める真のQOLというのはもっと形の違ったもの、精神のやすらぎといったような心の問題ではないかと感じている。癌の告知を受けて死を意識し、生きることの意味を模索している患者にとっては、確かな安全が保証されて将来に対する光明が見えてきた時、初めて前向きの人生観が生まれるのではないか。我々が求められているQOLは生活の質というより、人生の質であり、患者に精神の安らぎが訪れたとき、初めて美容的QOLも評価されるのであろう。自分も医者として、患者の人生の質の向上に力を貸すことができたら素晴らしいと思う。

三浦重人(愛知県がんセンター乳腺外科)
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