星まで届け

春が来て、夏になって、いつのまにか秋が来て、その秋もあっと言う間に 過ぎ去って、また冬になって、春が来る。季節は永遠に巡り続けるのでしょうか。



★★ 春の歌 ★★

五時過ぎの 明るさにふと 春の気配

  でも風はまだ 北風のまま

雨さえも 何かうれしい この季節

  一雨ごとに 暖かくなる

ザーザーと 屋根打つ雨の 音を聞く

  春を跳び越え 梅雨が来たのか

雨の中 ホーホケキョーと 声がして

  心の中は 清少納言

★★ 夏の歌 ★★

エアコンの 除湿をしても じめじめと

  やる気を落とす しつこい湿気

蒸し暑い 雨でも降れば まだましだ

  何だか本当に 梅雨らしくない

橋の上 アスファルト打つ 白杖の

  音を消し去る 6月の川

雨が降る 水不足だと 泣いていた

  去年のぶんも 降っているのか

雷の 大きな音に 悲鳴あげ

  歳を忘れて 母のところへ

梅雨明けを 待つ人の声 無視をして

  降り続く雨 降り続く雨

ぎらぎらと 夏の太陽 照る下で

  水鉄砲の 水が最高

短冊に 大きく書いた 願い事

  わたしの願い 星まで届け

夏の日の プールサイドで うつむいて

  女の我を 一人で憎む

潮風を 胸いっぱいに 吸い込んで

  心の中に 夏があふれる

千羽鶴 平和の祈り 乗せて飛べ

  あの日再び やって来ぬよう

暑かった あの日のままで 立っている

  戦争遺産 原爆ドーム

核兵器 この世界から 消えるまで

  消えること無き 「平和の灯火」

公園の 被曝青桐 思い出す

 54年目 8月六日

甲子園 テレビの前の わたしまで

  いつか心は スタンドの中

ピッチャーを 必死になって 応援し

  ラジオの向こうと 一緒に泣いた

広島の 初出場の 高校を

  応援しつつ おやつを食べる

自転車の 後ろに乗って 揺れながら

  夏の日差しに 汗が流れる

海の中 海月で遊ぶ 子らがいる

  大崎島の 海月ハンター

河泳ぎ 「河童」と母に 呼ばれつつ

  それでも泳ぐ 聞こえぬふりで

夏の日は いつか短く なっていく

  皆がつぶやく 「秋が来るね」と

「残暑」という 漢字のとおり いつまでも

  居残っている 真夏の余韻

夏らしい ことを何にも しないまま

  過ぎ去っていく 我が夏休み

「宿題は 終わったのか?」と せかすように

  つくつくぼうし 「宿題」と鳴く

夏と秋 二つが混ざる この季節

  かなかなが鳴く こおろぎが鳴く

★★ 秋の歌 ★★

朝夕の 涼しき時が 増え始め

  秋が来たなと 思うこのごろ

蝉たちの 声がだんだん 弱くなる

  静かに眠れ 夏はまた来る

外に出て 秋が来たなと 感じると

  なぜか寂しい 静かな夜が

久々に 母と二人で 散歩する

  風が涼しい 秋は来にけり

また今年 紫式部の 実が実る

  小さき庭の 秋の深まり

悪戯に 紫式部 靴に入れ

  母に怒られ 一人で泣いた

朝顔も オシロイバナも 鶏頭も

  皆種ができ 皆枯れていく

沢山の 拾ったくりと 秋詰めた

  袋を持って 近所の家へ

秋はきぬ 生き物のごと さらさらと

  枯葉の群れが 走りゆきけり

こつこつと 硬い地面を 打つ杖の

  音に驚き 跳ぶバッタたち

グランドに はいつくばって 石拾い

  天気になあれ みんなの願い

ピストルの 音が大きく こだまする

  グランドの空 秋晴れの空

秋風の 中を飛び交う 赤とんぼ

  稲の切り株 真っ赤な木の実

虫篭の こおろぎたちが 死んでいく

  自分の命 子供に託し

暑き日の 思い出たちを 刻み込む

  水着の跡は 夏のアルバム

どんぐりが ほとんどみんな 割れていた

  ここからいつか 芽が出るのかな

掘りたての 芋を落ち葉に 包み込み

  胸弾ませて たき火を囲む

鉄棒を 持っている手が かじかんで

  もうすぐ冬と 感じてしまう

★★ 冬の歌 ★★

カメムシは 嫌いだけれど カメムシが

  多いときには 大雪である

カメムシを 見つけて我が家は 大騒ぎ

  カメムシハンター うちの母さん

カメムシを 沢山捕って 「楽しい」と

  言う父親に 顔をしかめる

カメムシを 袋の中に 追い込んで

  「もう来るなよ」と 心で思う

もう冬が 近いというのに 暖かい

  今年も暖冬? 雪は降るかな

「暖房を これから入れる」 事務からの

  放送を聞く ああ冬が来た

バスを降り 冷たい風を 感じると

  一人つぶやく 「冬が来たね」と

県北は 明日雪かも しれないと

  ラジオが言った もう冬なんだ

震えつつ 冷たい廊下 歩き来て

  ドアを開ければ 部屋は暖か

真夜中に 本を読もうと 手を出せば

  指がかじかむ 冬は来にけり

暖冬と 騒いだ去年 どこへやら

11月に 初雪が降る

友達が トナカイの歌 口ずさむ

  期末試験が あるというのに

年の暮れ 忘年会に 行く母を

  「何食べるの?」と 少しうらやむ

ああ寒い 今にも雪が 降りそうだ

  だけど本当は 雪はまだだよ

177 電話してまで 聞く予報

  銀の世界を 思い浮かべて

窓の外 なぜにこんなに 暗いのか

  今にも雪が 降ってきそうだ

静けさと 寒さと暗さ 三拍子

  揃えば雪の 夜の訪れ

雪が降る 音も立てずに しんしんと

  白い色すら 映らぬこの目

音すべて 積もりし雪の 下となり

  雪踏む音の 響く町角

雪の朝 静かな中に 音がある

  雪踏む音に 心ときめく

県北に 行く母たちに 頼み込む

  「雪が踏みたい 雪が踏みたい」

バレンタイン 義理チョコ五つ 購いぬ

  本当の恋い 夢に見ながら

バレンタイン カードの中身 考える

  ハートのシール そっと眺めて

大好きな あの子にチョコを あげたいが

  チョコの嫌いな ときはどうする?

溶けてゆく 雪を追いかけ 北国へ

  飛んで行きたい 我は雪んこ

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