お別れの日
ついに出発の朝を迎えた。

年越しパーティーの頃から僕の中に芽生えていた感情が、心一杯にひろがっていた。

この気持ちはなんだろうか、過ぎ去った夏休みの日々を想うような空しい気持と、家族との別れの寂しさが 入り混じったような気持・・・。

コシネンコ家では、客を送り出すとき、何も言わないで、ただ座って、時間を過ごすという儀式が あるという。(ロシアで一般的なものなかどうかは不明)

時間にして一分くらいだろうか、丸く向かい合って、みんな無言のまま椅子に座っている。 この儀式って、客と過ごした時間に敬意を表し、その時間を偲ぶっていうようなところから 来てるのかなーと思った。

この異国から来た者にも、この儀式で、彼らの普通の客と同じように、送り出してもらったことがとても 嬉しかった。
ステイ参加者とホストのお別れの場所は、初めてマーマチカに出会った場所と同じ、ナホトカの ホテルの前であった。集合場所に送ってもらう車の中では何を考えていたのだろう。殆ど記憶がない。

ホテルの前に到着すると、先に到着している家族たちがそれぞれに別れを惜しみながら、最後の時間を 過ごしていた。みんな涙交じりだった。

段々、出発の時間が迫ってきて、ステイ参加者は、家族と最後の言葉を交わし、次々とバスに乗り込んで 行った。

バスの中でも余韻が続く。なんだろうね、この涙は、ほんの一週間、同じ家の中で一緒に過ごした だけなのに・・・、こんなに気持になるなんて思ってもみなかった。
ステイ参加者は皆、ホストからもらった土産で膨らんだ荷物の詰め込みも後回しにして、 くもったバスの窓ガラスを手で拭き、ホストに手を振っている。バスが発車しても尚、 精一杯手を振りながら、ホストとの別れを惜しんだ。 

ダスビダーニャ!!・また会う日まで

「僕は、日本人として日本の本当の両親のもとに生まれたのだが、このコシネンコ家の子供として 生まれていてもイヤじゃなかったな。」恥ずかしいのだが、ステイ中そんな空想もした。

そんなことを考えさせるほどコシネンコ家の人々は僕に優しく接してくれたのだと思う。

こうして、僕たちのひと時の、非日常の日々は終わったのでした。 (了)
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