差し込む朝日が眩しくて、ヒノエは顔をしかめつつ目を覚ました。
煌く光が部屋を満たしている。
ヒノエは朝の爽やかな日差しを肌で感じながら、そういえば昨夜はカーテンを閉め忘れたな、とぼんやり思った。
せっかくの休日なのに、朝寝を楽しみ損ねてしまった。
ヒノエは苦笑しながら、自分の肩にかかる重みへと目を移した。
素肌を覆うブランケットが、まろやかな曲線を描いている。
そのブランケットから覗く明るい色の髪。
ヒノエはふわりと笑みをこぼし、その髪に指を絡めた。
「…ふにゃ…」
髪に触れられて気づいたのか、赤子のような鳴き声があがる。
そしてまだ眠りの中にいる柔らかい身体が、甘えるようにヒノエの身体に擦り寄ってきた。
張りのあるさらりと気持ちのいい肌が、ヒノエの肌に直接触れてくる。
ベッドの中でゆるく絡まったままの足が、昨夜の濃密な情事の名残を感じさせた。
自分の腕の中で、安心しきって眠る猫の女の子。
愛しいその重みが、ヒノエの心を優しく満たしてくれる。
ヒノエは鼻先を彼女の髪に潜らせ、ふわふわの白い耳の根元に軽いキスを落とす。
その感触に気づいたのか、可愛い白い耳がふるると揺れた。
「にゃ…」
今度ははっきりと意志のある声がし、ヒノエの腕の中で猫がもぞもぞと動き出す。
彼女が瞬きをすると、長い睫毛がヒノエの裸の胸をくすぐった。
「望美?起きちゃった?」
「うにゃあ…」
いつもは寝起きのいい望美も、今朝は激しい情事の余韻のせいか、動きが鈍い。
望美に向けられたヒノエの問いには、彼の逞しい胸に額を擦り付けるように首を振った。
「くすぐったいよ、望美」
望美の綺麗な髪が、ヒノエの素肌をさらさらと悪戯する。
ヒノエは笑いながら、望美の頭を抱きしめた。
ヒノエに抱きしめられて、しばらく大人しくしていた望美だが、やがて起き上がる気配を見せた。
ヒノエが腕を解くと、しなやかに頭を振り上げ身を起こす。
ブランケットを身体に纏わりつかせたまま膝をつき、ベッドに腕をまっすぐ伸ばし肩までつけて背伸びした。
柔軟で滑らかな動きに、ヒノエはいつも見惚れてしまう。
思いっきり伸びをした後、望美はベッドの上にぺたりと座り込んだ。
なだらかな肩からブランケットが滑り落ち、望美の足元に波を描く。
眩しい朝日に浮かび上がる、一糸纏わぬ抜けるように白い肢体。
ヒノエはベッドに寝転がったまま、望美の行動を見ていた。
望美は寝ぼけ眼を擦りつつ、自分の体を見下ろす。
そこにあるのは象牙色の肌に咲く、赤い華。
「に…」
小さく鳴いた望美が、細く長い指先でその赤い華をひとつひとつ撫で下ろしていく。
まるでヒノエに愛された時間を辿るかのごとく、順々に…。
綺麗に浮き上がっている鎖骨、ヒノエを目も触り心地も味も楽しませてくれる張りのある胸。可愛らしい窪みとふっくらとしたお腹。
散らばる華を摘むように、望美が仄かな微笑を湛えて触れていく。
ヒノエは爽やかな朝日の中で、艶やかに輝く望美から目を離せなかった。
望美を初めて抱いた日から、薄くなることはあっても消えたことのない紅の華。
ヒノエの執着を示すタトゥーのように、それは望美の肌に数多く咲いていた。
無意識で色香を醸し出す白猫。
その白く薄い肌に誘われるように、ヒノエは望美の内腿に手を置いた。
弾力のある柔らかいそこにも、隠微な華は咲いている。
「望美…」
「にゃ?」
望美はヒノエに呼ばれ、目を細めて素直に応えた。
膝をついて身体を倒し、横たわったままのヒノエの顔の横に腕をつく。
ヒノエを覗き込むように覆いかぶさった望美は、お互いの鼻先を触れ合わせた。
望美の甘い吐息が、ヒノエを誘うように唇にかかる。
ヒノエは軽く顎をあげ、間近にある望美の唇に己のそれを触れさせた。
そして彼女の内腿に触れていた手で、その細い足を掬った。
「なぁ?」
望美はヒノエへ問いかけるように鳴いたが、ヒノエの手に逆らわず導かれるまま彼の身体を跨いだ。
「望美…」
「んにゃぁぁ……ん」
するりと望美の足を撫で上げたヒノエの手が、燻っていた望美の熱に火をつける。
望美は驚いて目を見開いた後、すぐにぎゅっと瞼を閉じた。
「にゃぁぁん」
一番敏感なところに触れてくるヒノエの指先から逃げをうって、望美の背が弓なりに反り返る。
ヒノエの手に素直に反応し、甘い啼き声を上げる望美を、彼は弄ぶように追い上げていく。
「お前、可愛すぎ」
ヒノエは楽しそうに喉の奥で笑いながら、馨しく咲き誇る望美の体を再び堪能し始めた。
朝日の中で愛しい猫を愛したヒノエは、息が整うといつものように仰臥した自分の上に、白く柔らかいしなやかな身体をひきあげた。
まだ望美は強い快楽の余韻に浸っているのか、乱れた息のまま舌先で乾きがちの唇を舐めている。
ヒノエは愛撫とは違う優しさで、望美の肩にかかる髪を首筋に触れながらそっと払った。
肌に触れられて望美は気持ちよさ気に喉を鳴らし、ヒノエの肩に唇を寄せる。
可憐な果実のような唇が、ヒノエの肌に吸い付きながら触れていく。
それは情欲を掻き立てるようなものではなく、余韻を楽しみながら甘えているだけ。
男は頂点を極めれば、急速に熱が醒めるものだが、女は違う。
身体にくすぶる熱さを、望美はいつもヒノエに甘えながら冷やしていくのだ。
以前ならば行為の後、しつこく女に甘えられるのは苦手だった。
しかし望美を抱くようになってから、彼女の戯れが可愛くてたまらない。
普段、なかなか素直に自分から身を寄せてこない彼女が、一身にヒノエにしなだれかかる様は目にも楽しかった。
「ん、なあ〜」
甘ったるい小さな鳴き声と同時に、ヒノエの唇が望美にぺろりと舐め上げられた。
ヒノエは、ふっと笑い望美の後ろ頭に手を回して、ゆっくりと手入れの行き届いた髪を梳いた。
この一時を、ヒノエから壊すことは無い。
望美の甘えたいまま、触りたいまま、好きにさせるだけだ。
望美はヒノエにたくさんのキスを落とす。
目蓋に、額に、頬に、そして唇に…。
ヒノエを求めて舌先が差し出されれば、それを優しく絡みとって吸ってやる。
望美とのキスは心地よい。
なんの打算も無い、純粋な彼女の気持ちが流れ込んでくるから。
ピュアな想いは、ヒノエの心を優しく包んでくれる。
ベッドの上で優しいキスを繰り返しながら、二人は目を合わせて微笑み合っていた。
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