朝晩が寒くなってきた頃から、望美の就寝時間が遅くなってきた。
これまで望美は、その日の気分でリビングのソファベッドで寝てしまったり、ヒノエのベッドを我が物顔で占領していたりして、いつもヒノエよりも早く眠りについていた。
それが日々の気温が下がるにつれ、夜が更けてもなかなか眠る素振りをみせなくなった。
しかしそれは眠くなくて、眠らないのではない。
いつもの就寝時間を越える頃から、望美は眠そうな素振りを見せ始めるのだ。
少しだけ機嫌も悪くなって。
でも眠ろうとはしない。
ヒノエが苦笑して眠いのなら早く寝ればいいと言っても、望美は小さく首を振って嫌がるのだ。
そしてやっと望美が眠る為に体を伸ばすのは、ヒノエがベッドに入ってからになった。
ヒノエは黙って何日か望美の行動を見守っていたが、その理由にすぐに気がつき、それから望美が眠そうになると自分も出来るだけ早く眠るようになったのだった。
「望美、寝るぞ?」
「にゃ…」
とろんと眠そうな目を擦りながら、ホットカーペットの上でごろごろしている望美に声をかけ、ヒノエはリビングのエアコンを切ると望美を置いて寝室に向かった。
望美がついてくる気配は無い。
望美に声をかけたわりには彼女を気にするでもなく、ヒノエは羽織っていた上着を脱ぎ捨て、さっさとベッドに入る。
ベッドの中で心地よい位置に体を落ち着かせると、ヒノエはほっと息を吐いた。
フットランプのみが幽かに灯る夜の帳の中で、目を閉じてうとうとし始める頃、寝室の扉がゆっくりと開く音がした。
「なぁ〜」
寝室を覗き込んで小さく鳴いた望美が、とてとてと足早にベッドに近づき、ごそごそ潜り込んでくる。
少しだけ冷えた体がベッドに進入してくるのを、ヒノエは吐息だけで笑って迎えた。
甘えるようにヒノエに擦り寄ってくる望美の細くしなやかな体を、そっと抱き寄せる。
望美はヒノエの温もりに包まれて、寒さで強張っていた体から力を抜いた。
寒くなってからというもの、望美はヒノエの体温で温まったベッドでしか眠らなくなったのだ。
冷たいベッドには入らないし、ソファでも眠らない。
夜中にヒノエが寝返りをうって望美から離れれば、眠っているのに無意識でヒノエの体温を追いかけてくる。
猫の望美は、極度の寒がりだったのだ。
「寒くないかい?」
ベッドの中に外気が入らないよう、毛布で望美を包みながら、ヒノエが自分の胸元に顔を埋める彼女を覗き込む。
「ん……」
眠気の限界なのか、望美は目を閉じたまま微かに頷いた。
「おやすみ…」
腕の中で小さな寝息を零し始めたかわいい猫に、ヒノエはおやすみのキスを送って静かに目を閉じた。
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