雪の降る季節〜ノエル〜
雪光(ゆきひかり)の月。 今日は、パパと一緒にリンさんの家に行く事になりました。 今日は”聖夜の日”と言う日で、何かは知らないけれど、お祝いをする日らしいのです。 リチルはリンさんがご馳走を作ってくれる日と聞きました。 パパがご馳走がでるって言ったから。 「リチル、早く準備しなさい。」 「はーい、パパ。」 ドアの外からパパの声が聞こえたので元気に返事をしました。 けれど、元気に返事をしたのはいいけれど、パパから貰った服をうまく着れません。 ビーズやフリルがいっぱいあるピンク色の綺麗な服なのですが、 後ろの紐が、どうしても結べないのです。 「パパー、パパー!」 仕方が無いのでパパを呼んで結んでもらおうと思いました。 リチルが後ろの紐を3度結ぼうとやってみたところでパパが来てくれました。 「どうしたんだい、リチル。ああ、紐が結べないのか。よし、後ろをむいてごらん。」 パパはリチルの様子をみて、して欲しい事がすぐに分かってくれたみたいでした。 リチルはパパに背中を向けました。 その時、上からはらはらと落ちる”もの”が窓から見えたのです。 「パパ、あれなあに?」 「ん、ああ、ちょっとまって。はい、これで終わり。で、何だい、リチル。」 リチルは窓まで行って窓を開けました。 風が冷たいのも気にしないで、上から降ってくるものを見つめていました。 「寒いと思ったら、雪が降っていたんだ。」 「ゆき?」 「そうだよ。これは雪っていうんだよ。さてと、それは後で説明してあげるから、 今は窓を閉めて、リンさんの家に行く準備をしなさい。」 「はーい。」 服を着るだけだったので、もう準備はできました。 リチルは、パパの後にしっかりとくっついて、おとなりのリンさんの家に行きました。 「いらっしゃい。もう、準備はできてるから、早く上がって!」 エプロンをつけたまま、リンさんは言いました。 リンさんの料理はとってもおいしいの。 パパには悪いけれど、リンさんにはかなわない。 リチルはリンさんの料理をわくわくしながら、居間に向かいました。 居間には、ベルや綿で飾り付けされていて、その真中にある料理が豪華に見えました。 真っ白なケーキ、鳥さん、そして、リチルが大好きなグラタンがテーブルに綺麗に並んでいました。 リンさんは、全員に(リチルとリンさんとパパ)飲み物を配って乾杯をした後、 料理を食べていきました。 リチルはもちろん、グラタン。 フォークでマカロニを刺してふぅふぅして食べるのが大好き! 「おいしいー!」 「ふふっ、ありがと。おいしく食べてもらえると、私も作りがいがあるわ。 あ、そうだ。ラルド、もらい物だけど、赤ワインあるのよ。飲む?」 パパが頷くと、リンさんはキッチンに行きました。 いつもと同じ曲をハミングしながら。 そんなリンさんの姿をじっと追っていると、窓からまた雪がみえました。 「パパ、また雪。」 リチルはパパの袖をつかんで言いました。 「ああ、そうだな。」 そう一言言って、また料理を食べ始めました。 パパは料理に夢中になって、ぜんぜんかまってくれません。 リチル一人だけが、グラタンのお皿を持って窓の外を見つめていました。 「・・・あれ?」 わずかですが、窓の隅のほうで、動くものを見つけました。 グラタンの皿を置いて、様子を見に行こうとしましたが、 丁度リンさんが瓶を持って戻ってきました。 あとケーキのおかわりもです。 リチルがそのケーキを食べ終わるまで、雪は降り続いていました。 雪が降り終わっても、リチルは窓の外を見つめていました。 動くものが気になったのです。 でも、雪も止んだ今では、それが何なのかすぐにわかりました。 人です。 真っ白なふわふわのコートを着ていて、髪は空のように透き通った空色、 殆ど日に照らしていないような真っ白な肌に、 深い青色の瞳を持ったリチルと同じくらいの男の子です。 リチルはあの子の綺麗さにうっとりし、また、気になってもいたので手を振ってみました。 男の子はきょろきょろしていましたが、すぐにリチルがわかってくれました。 でも、ツンとそっぽをむいて窓の枠からいなくなりました。 「パパ、お庭に行っていい?」 行ったのは、庭のほう。 だったら、リチルもそこに行けばその子に会える。 でも、パパは反対しました。 「外は寒いだろう。家にいなさい。」 「でも・・・。」 「いいじゃない。リチルちゃんにとって、初めての雪なんでしょう? だったら、遊ばせてあげなさいよ。」 リンさんに言われて、パパは困った顔をしました。 けれど、お庭に行っていいよ、と言いません。 リンさんはパパほうをちらりと見て、リチルに言いました。 「リチルちゃん、だったら、私とお庭に行きましょう。 それとも、私じゃ嫌?」 「おい・・・。」 パパは何か言おうとしたのですが、リンさんに睨まれたら、何も言わなくなりました。 「・・・はぁ。いいよ、リチル。行ってきなさい。 パパは窓から見ているから、くれぐれもリンさんに迷惑をかけないように。」 「はぁい!」 パパに元気に返事を返した後、リチルはリンさんについていきました。 玄関をでて、所々、雪と言うのが積もっている芝生を通り抜けて庭に出ました。 庭に出た後、リンさんは”スコップを取りに行く”と言ってどこかに行ってしまいました。 なので、今はリチル一人です。 リチルは、庭の真中で周りを見渡してみました。 庭には、大きな木が2本あって、 その内一つにさっきまで降っていた雪と言うのが少し積もっていました。 なんだか、緑の葉っぱがお化粧をしたみたいで綺麗です。 リチルが、他には目もくれず、それを眺めていると、 地面から一番近い大きな枝に、一人の男の子が座っているのに気がつきました。 さっきの男の子です。 リチルは男の子に向かってまた手を振りました。 今度は、そっぽを向かないでリチルに向かって手を振ってくれました。 「キミには、ボクがみえるのかい?」 男の子の問いかけに、リチルは頷きました。 すると、男の子はリチルの何倍もある高さから飛び降りたのです。 そして、綺麗に着地をして、リチルのほうにやってきました。 「ふぅん・・・。珍しいね。ボクを見ることができるなんて。」 男の子はリチルを上から下までじろじろと見ています。 「それ、人間の?動きづらくない?」 なんなのよっ! いきなり近くに来たと思ったら、リチルの格好を見て好き勝手言って! 「パパの買ってくれた服に文句を言わないでよ!」 大声で言って、リチルは泣きたくなりました。 確かに動きづらいけど、綺麗だし、お気に入りの服です。 そしてなにより、パパの買ってくれた服です。 そこまで言わなくても、って思いました。 リチルは涙をいっぱい溜めて、今にも泣き出しそうです。 「・・・悪かったよ。だから泣くなよな。」 リチルに向かって、ぶっきらぼうに言いました。 そういってまたそっぽを向きましたが、 ちらちらとリチルの様子をうかがっているのが見えました。 「もうっ、泣くなよ!いいものを見せてやるから、機嫌直せって。」 そう言って、男の子はコートのポケットから、小さな枝を出しました。 それを頭の上に掲げて、勢いよく振り下ろしました。 すると、どうでしょう。 さっきまで少ししかなかった雪が、一瞬であたりの土一面を覆い尽くしたのです。 「うわあ!すごーいっ!」 「へへっ。」 男の子は、得意げにして鼻をこすりました。 「ボクはイヴ。雪の精霊だよ。キミは?」 「リチルは、リチルって言います。」 リチルはイヴくんに向かって丁寧にお辞儀をしました。 「よろしくな、リチル。」 「ウンッ。よろしくね、イヴくん。」 リチル達は、握手をしました。 イヴくんの手は、氷のように冷たくて、ちょっと固かったです。 「あ、もうこんな時間だ。じゃーな、リチル。また後で遊んでやるよ。」 11回目の鐘の音が終わると同時に、イヴくんの姿は見えなくなりました。 「うん、またね。イヴくん。」 リチルはイヴくんがいた場所に向かってそう言い、なかなか来ないリンさんを待つことにしました。 ただ待つのも退屈だったので、イヴくんが出してくれた雪の上を走ったり転がったりしました。 リンさんが来た時、リチルは、お気に入りの服を雪解け水と泥でべちゃべちゃにしていました。 けれど、リチルは笑顔です。 だって、イヴくんという”ともだち”を見つけることができたのですから。
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