雪の降る季節〜ノエル〜




その日の午後、また雪が降り始めました。 リチルは真っ白なワンピースに着替えて、 暖炉の傍で雪を眺めながらパパにご本を読んでもらっています。 「パパ、雪ってどうして降るの?」 パパの方を振り返って聞いてみました。 「うーん・・・。  きっと、雪の精霊さんが降らしてくれてるんだよ。リチルがいい子だからってね。」 「ふぅん。  じゃあ、リチルがもっといい子だったら、たくさん雪の精霊さんが遊びに来てくれるかな?  あっ・・・。」 パパの後ろの窓から、雪を見ていると、雪とは違う白く大きな物がすっと横切りました。 もちろん、それには心当たりがあります。 イヴくんが着ていたふわふわのコートの袖です。 「イヴくんだっ!」 間違いなく、それはイヴくんのでした。 イヴくんは窓のふちからひょっこり顔をだして、手招きをしています。 「ねえ、パパ。またお外に遊びに行ってもいい?」 リチルはパパに言いました。 「ダメ・・・?お庭だけだから・・・」 リチルがどんなにお願いしても、パパは聞き入れてくれません。 仕方がありません。 リチルはパパの膝から降りて玄関へと向かいました。 「こら、リチル!外に出たらダメだって・・・」 パパの声が聞こえますが、今だけはしらんぷりです。 そのまま玄関のドアを開けて、イヴくんのいる庭にダッシュしました。 「こんにちわ、イヴくん!」 イヴくんは朝と同じ木に座っていました。 「やっ!リチル。あ、待ってな。いまそこに行くから。」 そう言ってまたそこから飛び降りました。 痛くないかな?と思いましたが、どうやら平気のようです。 「約束どおり、遊んでやるよ。そらっ!」 そう言って、また枝を振りました。 「えっ!?えっ!?」 また雪が一面に積もるものかと思っていたのに、 今度は、リチルの身体が宙に浮き始めたのです。 どんどん、どんどん、地面から離れていきます。 とうとう、リンさんの家の屋根が指先くらいの大きさになってしまいました。 浮くのには慣れていましたが、こんなに高く浮いたのは初めてです。 これ以上見たくない。怖くなって両手で顔を覆いました。 「怖がらなくてもいいって。これからいい所へ連れて行ってやるよ。ほら。」 イヴくんは手を差し出しましたが、震えて両手を動かす事ができません。 「イヴくん、怖いよっ!降ろしてよっ!!」 リチルは泣き叫びました。 「パパーッ!!パパーッ!!!」 「ったく!わかった、わかった。降ろしてやるから。そら!」 泣いている間、何が起こったかよく分かりません。 けれど、落ち着いて目を開けたとき、リンさんの家の屋根の上にいました。 イヴくんは、リチルの目の前(でも浮いていました)で枝をくるくる回して遊んでいました。 「弱虫!あれくらいで泣くなよな。」 「っ・・・うぐっ・・・」 「ああ、もう!悪かったよ。だから泣くなって!まったく・・・。」 手のひらでくるくる枝を回しながら言いました。 「じゃあ、ボクがいいって言うまで目を開けたらダメだぞ。じゃあ、いくぞ。」 イヴくんが何かをしたと思ったら、また身体が軽くなった気がしました。 けれど、我慢です。 目を開けるなと言われたから。 10分たったかな?20分たったかな? 目を閉じていると時間の感覚がまったく感じられません。 とにかく、リチルにとって長い時間でした。 「リチル、目を開けてもいいぞ。」 「うん。」 リチルが目を開けたとき、そこはさっきまでいた屋根の上ではなく、 雪の結晶を目の前で見ることができる夜空にいました。 「ここは・・・?」 気になってあたりを見回しました。 周りに降っている雪の向こうに、小さな光の粒が見えました。 リチルは正確にはわかりませんでしたが、 あの光はきっとどこかの町の光なんだなと思いました。 「きれい・・・」 「そうだろ、そうだろ。  あそこは、ボクがよく行く町の明かり。ボクはあそこに一年中雪を降らしているんだよ。  あ、真下を見たらダメ!リチルはまた泣くから。」 イヴくんは、調子に乗って下を見ようとしたリチルを止めました。 「そして、ここがボクの住んでいる世界だよ。  滅多な事では招待しないけど、リチルは特別。なんてったって大事なお客さんだもんな。」 そう言って、イヴくんはリチルに手を差し出しました。 リチルは何も言わす、その手をそっと握りました。 「きれいだな・・・」 「うん、きれいだね・・・」 リチル達はその場に足を伸ばして座りました。 座ったのではなく、座ったようにしたのですけども。 雪の降る町を眺めながら、イヴくんのかすかな腕の温かさを感じていました。

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  lute@do7.enjoy.ne.jp 虎神 竜斗(こがみ りゅうと)

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