雪の降る季節〜ノエル〜
それから数日が経ちました。 リチルは、暖炉の前に座り、はらはらと降る雪を眺めながら、 イヴくんのことを考えていました。 あの日以来、イヴくんがリチルの前に姿を表す事はありませんでした。 新しい年が始まっても、 今日よりももっともっとたくさんの雪が降った日でも、 イヴくんの姿どころか、足音すら聞こえません。 「はぁ・・・。 イヴくん、どうしているのかなぁ・・・?」 リチルはごろんと横たわりました。 暖炉の炎が心地よいのか、まぶたがだんだん重くなり、そしてそのまま眠りにつきました。 あの日から、夢は毎日同じでした。 イヴくんとリチルが、雪の降る町を眺めている光景。 色とりどりの屋根を真っ白に染める光景を最後まで見届けた後、 最後に鐘の音を聞いてイヴくんとさよならする夢。 ただ、今だけは違いました。 さよならをする前に、イヴくんがリチルに何かを渡してくれました。 「もし叶うなら、また来年、一緒にこの光景を見られるといいな。」 目の前が白い輝きに包まれ、そして、それと同時に目が覚める。 どれくらい時間が経ったのだろう・・・? ふと目が覚めると、あたりはもう真っ暗で、部屋の明かりが窓を通して見ることができました。 リチルの家も例外ではありませんでした。 「眠っちゃったの・・・?」 大きなあくびをしながら言いました。 「よく眠れたかい?」 あたりに気をとられていて、リチルに毛布がかけられているのにも気が付きませんでした。 「イヴ・・・くん?」 かがんで、リチルの顔を見つめているのは、紛れもないイヴくんでした。 だけど、いつもと様子が変でした。 うっすらと、向こうにある暖炉の炎が見えるくらい透けていたので、 目を凝らさなければ、イヴくんの姿を捕らえる事ができませんでした。 「イヴ・・・くん?」 もう一度、名前を呼びました。 「手紙、受け取ってくれたね。 ありがとう。 リチルは、ボクの最初のトモダチだ。」 「イヴ・・・くん・・・」 遠くから、鐘の音が聞こえてきました。 一つ、二つ・・・ 鐘の音が増えるにつれて、イヴくんの身体が見えなくなっていきます。 「もう行かないとな・・・。 じゃな、リチル。楽しかったよ・・・」 六つ目の鐘の音が聞こえた時、もうそこにはイヴくんはいませんでした。 「イヴくん・・・。イヴくん!イヴくんっ!!!!」 リチルは泣きました。 どんなに泣いても逢いにきてくれないのは分かっていました。 わかっていたけれど、涙がとまりませんでした。 鐘の音が七つ目を数えたとき、リチルは泣くのをやめました。 そして、イヴくんがいた場所にあった手紙を読みました。 所々、雪の結晶をかたどった真っ白な便箋には何も書かれてはいませんでした。 いいえ。 正確には、イヴくんの心が描かれていました。 リチルが真っ白な便箋を開けると、イヴくんの声が頭に響いてきたのです。 「リチルへ。 雪の精霊になりたてのボクにかまってくれてありがとう。 リチルのおかげで、他の精霊達にも認められてさ、 今度、新しい土地で仕事をすることになったんだ。 今度はいつ会えるか分からないけれど、リチルのこと、忘れないよ。 雪の精霊 イヴより 追伸:雪のブローチ、リチルにあげるよ。 ボクにはこれくらいの事しかできないけど、大事にしてくれよな。 追追伸:今度会う時は、泣き虫じゃないリチルになってろよ。」 雪が解けるように、この手紙も役目を終えるとリチルの手から溶けてなくなりました。 リチルは手紙のそばにあった小さな雪の結晶のブローチを手のひらにのせ、それを眺めました。 ブローチは、氷でできたかのように固く、そして冷たいものでした。 リチルは、それを胸につけました。 「イヴくん、また会おうね。イヴくんはリチルのはじめての”ともだち”だもん。 リチル、泣かないで待ってるからね。」 リチルの目に涙はありませんでした。 イヴくんという”ともだち”の為に。 ”イヴくん・・・。また遊ぼうね・・・。” こうして一日が終わり、また新しい一日が始まろうとしていました。 おしまい
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