「ただいま」
夕暮れ時、彼女は誰もいない家へと帰宅した。
今日もテーブルの上には書き置きとラップがしてある夕食が置いてあった。
「『ママとパパは今日は帰りが遅くなりそうだから、先に御飯を食べていてください。』、だって。『今日は』じゃなくて、『今日も』のくせに」
くちゃくちゃ、と読み終えた紙を丸め、ゴミ箱へと投げ入れた。
何気なしにテレビをつける。特に見たいものはないが、何か音がないと寂しかった。
彼女は現在小学六年生で、受験生。十二月の終わりも近づき、最後の追いこみを行っている。別に行きたい学校があると言うわけでもなく、ただ両親に言われ塾へと通っていた。
ふあぁ、と小さなあくびをし、カレンダーを見た。
十二月二十四日、クリスマスイブ。
(クリスマス、ね……)
昔はサンタクロースというものを信じていたが、学年が上がるにつれてそんな心は消えていった。幼い頃信じていた
絵本の架空上の動物達もその対象だ。
テレビを見続け一時間。
何気なしに立ち上がると、ラップに包まれた皿をレンジへと入れた。適当な時間に合わせ、おかずを温める。炊飯ジャーから御飯を茶碗へつぎ、皿をテーブルの上へ置いてゆく。
手馴れた作業だった。
テレビを見ながら夕食を取る。
画面には、街中に立った、大きなクリスマスツリーが映っていた。その前にアナウンサーが立ち、色々とこちらに向かいしゃべっている。
今、彼女の家にクリスマスツリーは出ていない。理由は出すのが面倒だから、だ。
と、テレビの前に、もじゃもじゃの白い髭をたくわえ、さえる赤い服と帽子をかぶり、大きな袋を持った老人が現れた。アナウンサーがその老人に向かいマイクを向けている。多分どこかのケーキ店か何かの宣伝だろうと、聞き流した。
夕食をとり終わり、部屋へと戻る。
彼女はベッドへと転がりこんだ。
ベッドの上に転がっている犬のぬいぐるみを引き寄せ、ポフポフと頭を叩く。サンタクロースがいると信じていた幼稚園の頃、両親がクリスマスのプレゼントとして枕元に置いたものだ。
「おまえも、けっこう汚れちゃったね」
白かった毛並みが少し黒ずんできていた。
小さい頃はよく洗ってやったが、最近はめったに洗おうとも思わない。ただのぬいぐるみなのだから。
そういえば、と彼女は窓へと顔を向けた。小学生一年生の時のクリスマスイブ、不思議な夢を見た。 空を飛ぶ架空上の動物、ペガサスに乗った少年が目の前に立っていた、という不思議な夢。ありえるはずもないのに、あの頃は本当の出来事だったと信じていた自分がおかしく、今でも笑えた。
その窓を開け放つと、冷たい夜の空気が部屋に流れこんでくる。
外へ顔を覗かし、星空を見つめた。今年はどうもホワイトクリスマスにはならないようだ。そう思い、首を引っ込めようとした彼女の鼻先に、白いものがとまった。
「雪……?」
彼女の体温で溶けてしまったそれと同じものが、次々と空から降ってきた。どうりで寒いわけだ、と彼女は右手を外へと伸ばす。次々と手の上に舞い降りては、溶けてゆく雪達を見つめ、彼女は小さくため息をついた。
一つの雪が彼女の額に落ちた時、ドクン、と心臓が嫌な音をたてる。
彼女はすぐに上半身を部屋へ戻すと、胸を押さえ込んだ。息が荒くなり、鼓動も早まる。
(な、なんなのよ、一体……!!)
声にならない声を上げ、もがく。
怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い、
コワイ。
約一分後、彼女の心臓は平常を取り戻した。額の脂汗を袖でぬぐう。
「どうしちゃったのよ、私」
まだ震える手を見、彼女は苦笑した。
なんなのだ、一体。クリスマスイヴに限って変なことばかり起こる。
頭上から植木鉢が落ちてきたり、犬に追い駆け回されたり、あげくの果てには自転車に乗っていて骨折したこともある。
今年こそは何もなく終わると思っていたのに、突然起こったことのない発作が起こる。
彼女にとって十二月二十四日は厄日として扱われていた。
夜九時。
彼女の両親はまだ帰っては来ない。彼女は自分で沸かした風呂に入り終わり、居間でジュース片手にまたテレビを見ていた。洗った髪はまだ少し湿っていた。
ソファに座っていた彼女の耳にゴン、と妙な音が届いた。
「玄関……?」
続いて耳障りな呼び鈴が何度か聞こえた。
「何よ、こんな時間に」
少々腹を立てつつ、玄関へと向かう。
どうせ回覧板か何かだろう。少しだけドアを開け、外の様子を覗った。
「あれ?誰もいな……いぃ?!」
足元に、少年が転がっていた。
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