「『やってやろうじゃねぇか!!』とか勢い良く言ったが……。」
「完全に迷子、だよね?」
「言うな………。」
俺はチャット・クロック。先にイオンに言われちまったが、どーも学園から落とされた森で迷子になってるらしい。どっちに進んでも木、木、木。
おうぞ…、いや、なんでもない。まぁ、こうゆーのに俺は慣れてないんだよなぁ。
「うーん…、なんにもみえないー。」
木に登っているイオン・ハーティアはぼけた声をあげている。まだ眠いらしい。
そろそろ起きろよ。
失火し何も見えないとなると…、ヤバイ。どっかに山小屋とかないのか?この森は。
「よっと。」
スルスルと木から降りてきたイオン。いや、器用なもんだ。
「ごくろーさん。さーてと、あっちにでも行ってみるか…。」
そう言って俺は歩き出そうとするが、イオンはその場を動こうとしない。
「どうした?イオン。」
「しっ。何か聞こえる………。うん、こっちだ。」
そう言って一人森の奥へ駆けて行ってしまった。
「お、おい!待てよ!!」
仕方なく慌てて彼女の背を追いかけたのだった。
(これは……、兄さんに教えてもらった歌の旋律?!)
イオンは驚くしかなかった。あれはずっと兄さんが考えたものだと思っていたのに。
「うぉ――い。イオン、どこ行くんだぁ〜?」
ゼェゼェと後ろで息を荒げているチャット。だけど僕はそれどころじゃなかった。
「こっちなんだ……、こっち…。」
地を這っている木の根を巧みに避けながら森の奥へ進んで行く。
いつもの彼女の顔にはない、なにか戦闘の時のような、無表情の顔……。
森の奥へ奥へと進む。そこには大きな木が現れた。
頼りだった曲もいつの間にやら聞こえなくなっていた。
天高くそびえ立つ木。
(あれ?僕が木に登った時、こんな木はなかった…。)
「も、もうマラソンは、終わり、か?」
やっと後ろから追いついてきたチャット。以外に体力なかったんだ。
イオンが木に近づこうとしたその時。
「この、上だ。」
また、笛の音が森中に響きわたる。
それに合わす様にまわりの小鳥たちも歌いだした。
「お、おい。どうなってんだ?」
戸惑いを隠せないチャット。が、
「静かに…。終わるまで、聞こう………。」
彼女の顔にはいつものころころ変わる表情はなかった。
冷たい、人形。そう呼ぶのがふさわしい感じである。
チャットがそう感じたとき、彼女は小さくつぶやいた。
「りょく……りゅう……。」
「えっ?」
(今緑龍って、言わなかったか?!なんでほとんど学習も受けてないイオンがしってるんだ?!普通の庶民は知らないはずの龍神の名前を!!)
彼女の横顔を食い入るように見つめるチャット。その顔は驚きととまどいでいっぱいだ。
しかし彼女は何も気付いていない。ずっと木の上を見つめている。
ポロポロと、涙をこぼしながら……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『とおさま、かあさま。どこへ行くの?』
『大丈夫。すぐ帰ってくるよ…。』
父様の大きくて温かい手。私の頭をなでてくれた。
『いい子に、しててね……。』
ぎゅっと僕を抱きしめてくれた、母様。とても優しかった。
だけど、父様と母様は…………!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「――――ン!イオン!しっかりしろっ!!」
「………え?」
顔に温かい何かが落ちてきた。
僕はゆっくりと目を開けた。そこにはチャットの姿。なんだか、泣いてるみたいだ。
「チャット…泣いてるの?」
「な、泣いてなんかねーよ!目から汗が出ただけだっ!」
ごしごしと服の裾で、彼の言う目から出た汗をふき取っている。
むくりと起きあがった僕に、彼は詰め寄って来た。
「なんで笛が止まると同時にぶっ倒れるんだよ?!」
「へ?僕って倒れたの?」
「あぁ、いきなりパタッとな!それから全然起きるけはいもなくって…死んじまったかと思ったゼ…。」
「ゴメンゴメン。なんでいきなり倒れたんだろうね?」
「俺に聞くなよ。俺がお前に聞いたんだし。」
少しまだチャットは僕を心配そうに見ている。とっても心配けかてしまったらしい。
頭のなかでぐるぐると回る記憶を思い出す。
「ん〜。なんだかフッとね、いろいろ思い出しちゃって。それからはなんにも思い出せなくて…。」
「ふーん。で、なんで倒れる前に『緑龍』って言ったんだ?」
まじまじと僕を見るチャット。そんな見方しないでよね。
「僕って『緑龍』なんて言ったのかな?」
「ゼッタイ言った!さぁ、さっさとはけ!」
いきなりそんなこと言われても…。
「ちょ、ちょっと待ってよぉ。あ、そーだ。あの木を見てていろいろ思い出しちゃったんだ……。」
僕が指差したのは目の前の葉が青々としげる大木。
とてとてと近づくと僕は上を見上げた。そして気がついた。
「あれ?誰かいる?」
僕の目には少年が座っているように見えた。
で、いきなり消えた。
そして背中に風を感じた瞬間。
「やっ♪」
「う、うわぁぁぁぁ!!」
いきなり肩をたたかれ、しりもちをついてしまった。うぅ、かっこ悪いよぉ…。
「立てる?」
スッと腕を出したのはチャットじゃない。ダークグリーンの髪の少年。
僕と同じぐらいの年。とってもやさしそうな顔つき。
で、チャットはというと…。
「そこの緑髪ヤロウ!!イオンから離れろー!」
なぜかキレていた。どうしたんだろ、チャット。
だが、
「何を怒ってるんだろうね?」
僕の手を取り起こしてくれた。余計に怒り狂うチャット。顔が赤くなっている。き、キケンだ…。
「あーありがとう。」
ぱんぱんとついた土を払い落とした僕は彼が手に持っているものに目が行った。
「あ、あの…それ…。」
彼は木でできた笛を持っていたのだ。
「あー、これ?今さっき吹いてたの聞いてくれたんだ。」
ニコニコと笑っている。しかしそれを蛇のようににらみ続けるチャット。早くどうにかしなければ…。
が、しかし笛をもった少年は余計にチャットを挑発するような行動をしでかした。
「あ、こんなところすりむいてる。」
「だ、大丈夫だよ、これくらい。」
しかし彼は僕の腕を取ると、ぴっと人差し指と中指を傷口へ当てた。
すると……。
「はい、これで大丈夫。」
いつの間にやら傷がふさがっている。はじめて見るが治癒能力を持っているらしい。
で…もちろんチャットはと言うと…。
真っ赤になっていた。風船みたいにふらんでるみたい。あ、頭からも湯気が上がりそうだ。
ズンズンと地響きを上げながら近寄ってきたチャットは僕と少年の間に立つと,ぶっきらぼうにこう言った。
「さっさといくぞ!イオン!!」
「う、うん。」
ぱっと僕の腕を握ったチャットは少年を一度にらみつけ早足に歩き出した。
だけど……。時間はだいぶ過ぎてしまってる。太陽が西に傾いてきたみたいだし。
不安そうに太陽を見つめる僕に気付いたのか、少年は僕に助け舟を出してくれた。
「良かったら森の外まで案内しようか?」
「え?いいの?!」
ぱっとチャットの顔をみたが不満そう。何が気にくわないのかな?
「ふん。勝手にしろ。」
うーん…勝手にしろっていわれたから勝手にしよう。
「それじゃ、案内よろしくお願いします!」
あー、気にいらねぇ…。あの女たらし…。それに、それにぃ………!
イオンに気安く触りやがってぇ!!
ジトーっと後ろからにらんで見たりするが、全然気にしてねーし。
あー、ムカツク、ムカツクゥゥゥゥ!!
「僕の名前はイオン・ハーティア。で、後ろのはチャット・クロック。」
名前なんて教えなくていいんだよ。まったく。
「僕はリノ。この森に住んでるんだ。」
くそぉ。仲良く二人並んで歩きやがって。なんで俺が後ろなんだぁ!
「うわっ!」
イオンが勢いよく根に引っかかる。
「おっと。気をつけなよ?イオン。」
パシッと受け止めるリノ。
「ご、ごめん。リノ。」
あぁ!もう見てられん!!
「おいそこ!いーかげんにしやがれぇ!!」
『え?』
僕とリノが同時に降り返ると、大きな光の玉を空中に4つ浮かせたチャットがいた。か、髪が逆立っているような…。
もしかしてチャットの魔法…。でもなんで彼は魔法が使えるわけ?!
「こー‐れーーでーーもーーくーーらーーえーー!!」
ビシィッとリノを指差したチャット。同時に光の玉はリノに向かって飛んで行った。
「チャットッ!!何してるんだよ?!」
しかし、僕に彼を止めるすでもなくリノに向かって勢いよく玉たちは突き進んで行く。
「リノォ!!」
叫び声をあげた僕は、また叫び声を上げてしまった。
「ふー、びっくりしたぁ。」
「リ、リノ?!」
手で4つすべての電気のボールを弾き飛ばした彼は、すこし驚いたようにその場に立っていた。弾き飛ばされた電気のかたまりは地面に大きな穴をあけている。
「な、なんでだ?!かなり強力な電気だったのに!?!?」
「フツウに弾き飛ばしただけだけど?」
いや、全然フツウじゃないんですけど.
「リ、リノ…。キミは一体……。」
「え?だからこの森に住み着いてる『緑龍』さ。」
『えぇぇぇぇぇ?!』
お、おい!ほんとかよ?お前が龍神の一人『緑龍』って言うのか?!」
「うそついてどうなるのさ?」
信じていいものか…。が、どうしても俺はヤツが龍神だと信じなければならなくなってしまった。
「でもさ、リノは龍の格好してないじゃない?」
龍を絵本か何かで見たのだろう。確かにあのイカツイ格好してない。
「あー、あの格好ださいから。まぁ、どうしてもイオンが見たいって言うんなら…考えない事もないな。」
「見たい見たい!!」
「それじゃ特別に見せてあげよう♪」
そういうとみるみるうちに彼の身体は大きくなってゆく。
もしろん人間と身体とは言えない、緑色のうろこに覆われた龍の姿に…。
―――――これで信じてくれるかな?
頭の中にリノの声が響いてくる。どうも龍神の姿だとしゃべれないらしい。
イオンの方にぐるりと振り向いた緑龍。って、俺はムシか。
「うん、信じる!」
「それじゃ戻るよ……。」
今さっき見たものを巻き戻すように、緑龍の姿が小さくなってゆく。
「すごい、すごいよ!本当に龍神なんだ〜♪」
耳まで真っ赤にして喜んでいた。
あ、そーだ。龍神の祈り…。でもなんかこいつにもらうのヤダ…。
「ねーね、緑龍なら『龍神の祈り』の1つ、持ってるよね?」
うまいタイミングで,イオン。
「あぁ、これ?」
リノがポケットから取り出したのは輝くグリーンの宝石。
「それ、くれない?」
んな、唐突な。そんな「ハイどうぞ」って渡せるものじゃ…。
と、思ったのは俺だけだった。
「イオンはカワイイから特別にあげちゃおう。」
あーー、たらしたらし…女たーらーしー♪曲に乗って歌ってみた俺。何してるんだ…。
「わーい♪ありがとうリノ〜♪」
が、どうも自分の指輪の穴にはまらなかったらしい。
で、いきなり俺の指をひっつかんで、俺の指輪にカチカチと入れ始めた。
「あ、入った。」
そ、そんなぁ!俺ってこんなキザで女たらしの龍神からゼッタイもらいたくなったのに!
しかし石はぴったりはまり、取れる気配はなかった。
「僕はイオンにあげたかったんだけどなぁ。まあいっか。」
「あ。あと少し行けば森を出られるよ。」
リノが指差した方向を見ると、確かにランプの明かりが見えた。
「それじゃ、そろそろ僕は変えるよ。」
くるっと森の方へ向いたリノにイオンは叫んだ。
「ありがとう、、リノォ!」
俺は礼なんか言いたくないが言うしかないだろう…。
「世話になったな……。」
だいぶ森の奥へ入った彼に聞こえたかはわからなかった。
が、
―――――イオン、君は本当に母上に似ているよ…
「えっ?」
頭に響いたリノの声に降りかえったイオンだが、もうそこには彼の姿はなかった。
「どう言う意味だろ?ん…?チャット…?」
茫然と森を抜けた彼が見たものは意外なもので、そして今一番見たくないものだった。
「どうしたの、チャット?」
彼は茫然とつぶやいた。
「王都、グレイゴルだ………。」
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