Harry Potter's Room

HARRY POTTER and the Order of the Phoenix


あらすじ

第1章 Dudley Demented

これまでの中で最も暑い夏の日、プリヴェット通りの大きく、四角い家々は閉ざされた、物憂い沈黙に覆われていた・・・戸外にはたった一人、10代の少年が、4番地の花壇の外であおむけに寝転がっていた。
彼は窓のすぐ下のあじさいの藪の中にいたので、通り過ぎる人からは見えにくかった。
部屋の中ではダーズリー夫妻がニュースを見ていた。
ハリーはミセス・フィグがフジ通りから歩いてくるのを見た。しかめつらでぶつぶつ言っているようだった。最近彼女はハリーを見かけるといつでもお茶に誘うので見つからなくてよかったと思っていた。

そんな時間が過ぎていく中、大きく銃声のような音がけだるい静けさを破った。まるでこの合図を待っていたかのようにハリーは飛び起き、剣をさやから抜くかのように杖をベルトから抜いた。
すると、窓から2本の大きな腕がハリーの首をつかんだ。
「それを・・しまえ!」
「外でピストルのような音を出しおって、何をするつもりだ!」
「何もしてないよ」
「こんな窓の下で何をしてたんだ」
「ニュースを聞いてたんだ」

ハリーはさっきの音は誰かが瞬間移動した音だと確信していた。ドビーが消える時に出す、正にその音だった。しかし、ドビーがプリヴェット通りに・・・?
ハリーはだるく、憂鬱な気分がお腹の方に来るのを感じた。それは夏中彼にのしかかっていた。
ロンとハーマイオニーは一緒に隠れ穴で楽しく過ごしているくせに、「今はとっても忙しいので、詳しいことはいえない・・・」「あのことについては、多くを語れないわ、もちろん・・・」などと言う手紙を送ってきていた。ハーマイオニーは「もうすぐ会えるのを楽しみにしています」とかいていたけど、「もうすぐ」ってどのくらいすぐなのか・・・

ダドリーは相変わらず巨大だったが、長年のダイエットと新たな才能のおかげで肉体的には大きな変化が表れていた。彼はいまや、ジュニアヘビー級のボクシングでサウスイースト地区のスクールチャンピオンになっていた。
彼はそんなに大きくて、手下を引き連れてバイクを乗り回していても、ハリーの魔法を恐れていた。ハリーはそれをよく知っていた。
ダドリーが友人たちと別れたのを見て、ハリーはダドリーに近づいた。
ハリーは初め、ダドリーをからかっていたが、ダドリーが言った。
「夜はこんなにいばれないだろう?うなされてたじゃないか。セドリックを殺さないで!だれだよセドリックって・・・お前のボーイフレンドか?」
それを聞いたハリーは杖をまっすぐダドリーの心臓に向けた。
「二度とそのことを言うな。わかったか?」
「どけろよ」
「言っただろ、分かったか?」
そのとき、町のすべての明かりが、星や月の明かりさえも消えて真っ暗になった。

何も見えない。ダドリーは恐怖で大声で叫んでいる。ダドリー、黙れ!と叫ぶハリーのそばを何かが通り過ぎた。彼は地面にひどくたたきつけられた。
ハリーが杖でルーモスの明かりをつけると、そこには黒いフードをかぶった足も顔も見えないそれが、彼に向かって滑空してきた。
ハリーは何とか「エクスペクト・パトローナム」の呪文で、自分とダドリーに向かってきた吸魂鬼を追い払った。だが、ダドリーは真っ青になって震え、自分の力では動けないほどになっていた。そのとき、ハリーは新たな音を聞き、杖を構えた。
それは、ミセス・フィグだった。彼女は髪を振り乱して、スリッパも脱げそうになってやってきた。ハリーは杖を下ろそうとした。
「しまうんじゃないよ、ばか!まだ何かあるかわかんないだろう!マンダンガス・フレッチャーめ、殺してやる!」

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第2章 A Peck of Owl

「鍋を見に行ってしまって!見てごらん!吸魂鬼だよ!あいつめ、殺してやる!」
この猫好きな昔ながらの隣人が、吸魂鬼を知っている、という事実にハリーは驚いた。実はミセス・フィグはスクイブであり、ダンブルドアからハリーを見守るよう頼まれていたのだ。
ハリーはダドリーを抱えて、ミセス・フィグと一緒に家へと向かった。家に着いたとき、ミセス・フィグはまだこれから指示を待つ必要がある、というので自分の家へ帰ってしまった。
ハリーは呼び鈴を鳴らした。迎えに出てきたペチュニアおばさんはわきで倒れているダドリーを見ておじさんを呼んだ。おじさんはだれにやられたのか、ダドリーに聞いた。
「あいつ」
ダドリーはハリーを指差した。おじさんはハリーが何をしたのか聞いたが、ハリーは何もしていない、と答えた。
そこにふくろうが飛んできて、手紙を落としていった。
それは魔法省の魔法不適使用事務局からの手紙だった。前回の警告にもかかわらず魔法を使用したことで、ホグワーツを退学、杖を破壊処分する、というものだった。ハリーは、杖を壊される前に逃げようと思った。
おじさんが事件の真相を説明しろ、と迫る中、別のふくろうがやってきて、手紙を落とした。それは、ウィーズリーおじさんからで、「そこを出てはいけない」という忠告の手紙だった。
不意にダドリーが話し出した。「魔法をかけられたんだ」
「だから、ぼくじゃない。二人の吸魂鬼だってば!」
「なんだ、その吸魂鬼とやらは?」
「魔法界の刑務所、アズカバンの監視人よ」
答えたのは、ペチュニアおばさんだった。
「何年か前に、あの怖い子が彼女に言うのを聞いたのよ」
ペチュニアおばさんが言うのを聞いて、おじさんもとうとうそういう類のものが存在すると信じる羽目になった。
さらにふくろうがやってきた。魔法省からで、事情聴取をするまで罰の履行はお預けになったと書いてあった。シリウスからも手紙がきた。
ハリーは、おじさんやおばさんになんで吸魂鬼が現れたのかを説明した。自分の両親を殺した魔法使い、ヴォルデモートが復活したからだ、と。
それを聞いたペチュニアおばさんは、今まで決してしなかったことをした。ハリーをまっすぐ見つめたのだった。おばさんの目は恐怖で大きく見開かれていた。
おじさんは、そんな問題をしょいこみたくないために、「出て行け!」と叫んだ。そこに5羽目のふくろうがやってきた。真っ赤な封筒だった。ハウラーだ。それはペチュニアおばさん宛だった。おばさんは、怖くて開けることができなかった。そしてそれは燃え出し、声が響き渡った。
「わたしの最期を思い出して、ペチュニア」
それを聞いたおばさんは、気絶するかのようだったが、おじさんに向かって、
「あの子はここにいさせるべきよ」
と告げた。

第3章 The Advance Guard

「僕はたった今吸魂鬼に襲われ、ホグワーツを退学になるかもしれません。ここを出る前に何が起きているのか知りたいのです」
こんな文面の手紙を3通書いて、シリウスとロンとハーマイオニーに送った。どうして、魔法を使うな、とかそこにいろ、とか言ってくるだけで何も教えてくれないんだろう・・・・

ヘドウィグを使いに出して4日後の夜、バーノンおじさんは一番いいスーツを着て、家族と出かけていった。ハリーの部屋に鍵をかけて。
しばらくの後、ハリーは台所の方でかちゃり、という音を聞いた。おじさんたちにしては早すぎる。しばらくの沈黙の後、声が聞こえた。「泥棒だ」とハリーは思い、杖を構えた。
そのとき、彼の部屋の鍵がはずされ、ドアが大きく開いた。ドアの向こうに8,9人の人影があった。
「杖をおろしなさい」
この声を知っている。しかし彼は杖を下ろさなかった。その声は、ムーディだった。
「大丈夫だよ、ハリー。僕たちは君を連れに来たんだ」
この声にも覚えがあった。「ル、ルーピン先生?」彼はかなり若かったけれども、疲れたような、やや病気のような面差しをしていた。
彼らは、ダーズリー一家に偽のコンテストの授賞式の招待状を送りつけて家を空けさせ、ハリーを連れに来たのだと言う。彼らのほかにも続々と魔術師や魔女が紹介された。彼らはハリーの護衛だった。ここから安全にあるところへ行くための。
彼は瞬間移動はできないし、フルー・ネットワークは見張られてるし、無認可のポートキーを立ち上げるには危険すぎる。箒で飛んでいくしかない。
急いで荷物をトランクに詰め、出かけた。初めは、再び飛ぶことができる喜びと、プリヴェット通りから出られる喜びではちきれそうだったが、人間に見つからないように高度を上げていくと、やがて凍りつきそうな寒さに耐えられなくなりそうになった。
数時間の飛行の後、ハリーたちは地面に降り立った。
ムーディはダンブルドアから借りたと言う火消しライターでそこら辺の灯りを消してから、光る文字が書かれた紙をハリーに差出して読んで覚えるように言った。そこには見慣れない書き文字でこう記されていた。
「フェニックスの騎士団本部はロンドンのグリモールド・プレイス12番地で見つかるだろう」

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第4章 Number Twelve Grimmauld Place

部屋の中に入ったのに、人々は声をひそめるようにしながら話すので、まるでお葬式の家に来たような妙な感じがした。
その家は古臭く、はげかかった壁紙、糸のほつれた絨毯、長く陰気な廊下、年代不明な肖像画が壁にかかっていた。シャンデリアと壊れそうなテーブルの上にある燭台はともに大蛇の形をしていた。

そこにロンの母親、ウィーズリー夫人がやってきた。前に見たより、ちょっとやせて青白くなっていることにハリーは気がついた。
「ロンとハーマイオニーが上にいるわ。でもホールで声は小さくしててね。後でわけは話すから」
階段を上がっていると、額に入っているしなびた頭が壁に並んでいた。よく見ると、それらは屋敷しもべ妖精たちの頭だった。どれもみんな同じように鼻が大きかった。ハリーは、こんな闇の魔法使いの家のようなところでみんなが何をしているのかますますいぶかしんだ。

ハリーは部屋に入って、ロンとハーマイオニーと再会した。ロンはしばらく見ないうちに数インチ背が伸び、ますますひょろ長い感じになっていた。
「話したいことはたくさんあるのよ、でもダンブルドアに黙っておくようにって言われて・・・」
「ぼくも返事は出したかったんだ、でも・・・」
ハリーは話をするうちに、自分に見張りがつけられていることを自分以外の人が知っていたこと、何も知らないのは自分だけだということがわかって、怒りがこみ上げてきた。そして、いつのまにか叫んでいた。
「キミらはずっとここに一緒にいて、僕よりもたくさんのことを知ってるなんて!ぼくはダーズリー家で数ヶ月も耐えていたのに!だれが賢者の石を守ったんだよ!だれが・・・!」
気まずい沈黙が流れた。ハリーはここぞとばかりに叫び続けた。ハーマイオニーは目に涙を浮かべて詫びた。

フェニックスの騎士団とはダンブルドアが以前「例のあの人」のために組織した秘密の団体であり、ここがその本部であること、しかし、何をやっているかは会議に参加させてもらえないので詳しいことは分からない、ということだった。
フレッドとジョージが、拡声耳を発明したおかげで、騎士団はデス・イーターたちを監視している、ということが分かったが、最近ウィーズリー夫人に見つかって使用を禁止されてしまったらしい。騎士団のメンバーにはスネイプも、ロンの兄、ビルとチャーリーも入っていることも分かった。
「パーシーは?」
尋ねたハリーに対し、一同は暗い視線を交し合った。
ヴォルデモートの復活を信じないファッジは、パーシーを自分の所に入れて、ウィーズリー家の動きとダンブルドアについてスパイさせようとしているのだという。でも、魔法省に忠実なパーシーはその役を気に入っているので、両親と断絶状態になって、今は家を出ているのだ。

夕食のために下に降りていくと、トンクスが傘立てにつまずいて、大きな音が響き渡った。すると、耳を劈くような恐ろしい叫び声が響き渡った。その声は、等身大の肖像画の老女が発しているのだった。よだれを流し、白目をむいて叫んでいた。叫び声を何とかしようとルーピンとウィーズリー夫人がカーテンを閉めに行ったが、彼らの顔を引き裂くかのように爪の長い手を振り回して、叫んでいた。
「くそったれ!穢れたやつらめ!混血のくず!出て行け!なんだってあたしの家にいるんだい!」
そして、さらに
「裏切り者め!恥を知れ!」と指差したのはハリーの名付け親、シリウスだった。
「やあ、ハリー、うちの母親に会ったようだね」

第5章 The Order of the Phoenix

この家はシリウスの両親の家だった。しかし、シリウスの母親が亡くなったので、ブラック家の唯一の生き残りであるシリウスのものになった。しかし、母の死後10年間、だれも手入れをする者もなく放っておかれたのだが、シリウスがダンブルドアに騎士団の本部として提供したのだ。そうじするのがそりゃあもう大変だったが。

ホールでは、ルーピンやビル、ウィーズリーおじさんたちが何か話し合いをしていた。その中には例のマンダンガスも含まれていた。
夕食も済み、「そろそろベッドの時間よ」とウィーズリー夫人があくびがてらに言ったが、シリウスが反論した。
「いや、まだだ。わたしは驚いてるんだが、ハリー、君がここに着いたら、最初にヴォルデモートについての質問をすると思ったんだがね」
「したよ!だけど、ロンもハーマイオニーも騎士団に許可されてないからって何も話してくれないんだ」
「その通りよ。まだ15なんだから」
「でも、彼はもう子供じゃない!」
「大人でもないわ!あの子はジェームスじゃないのよ、シリウス!時々、自分の親友が戻ってきたように話してるじゃない!」
ウィーズリー夫人とシリウスはしだいに激昂し始めた。そこに、ルーピンが静かに言った。
「個人的に言えば、ハリーは事実を知っておいたほうがいいんじゃないかな。他の人から変な事実を知らされるよりは。すべてじゃなくてもいい、全体像をね」

ヴォルデモートの復活を聞いて、ダンブルドアはフェニックスの騎士団を再結成した。人々にその復活を知らせ、ガードするように広めようとしたが、魔法省が邪魔をしているという。自分の地位をダンブルドアに奪われるのでは、と恐れたファッジが、ダンブルドアが自分を脅かそうと嘘をついていると、日刊予言者新聞に記事を載せているからだ。
何人かの騎士団員は魔法省にスパイとして働いている。闇祓い師は何かと役に立つ。キングスリー・シャックルボルトはシリウス追跡の仕事をしているので、「彼はチベットにいる」なんていう偽情報をまくこともできた。
ヴォルデモートは自分の支援者を増やすことが唯一の楽しみだが、今はそれ以外に秘密裏に進めているものがあるのだ。それは、以前彼が持ち得なかった武器のような・・・
「どんな武器なの?アバダ・ケダブラの呪文よりも悪い・・・・?」
「十分です」ウィーズリー夫人は言った。「たくさんの情報を与えすぎだわ。騎士団にひきこまんばかり」
「なんでだめなの?入るよ、入りたいよ、戦いたい!」
「だめだ」答えたのはルーピンだった。
「騎士団には学校を卒業した、規定年齢以上の魔法使いで構成されてるんだ。キミたちの想像できないほど危険なことも含まれてるんだ・・・モリーの言ったとおりだよ、シリウス。十分話したよ」

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第6章 The Noble and Most Ancient House of Black

寝室に戻ってから、ハリーたちはその「武器のようなもの」について話し合った。アバダ・ケダブラの呪文より悪いって・・・死よりも恐ろしいものってあるだろうか。それはどこにあるのだろうか。賢者の石の時のようにホグワーツのどこかに隠されているのか・・・

翌日、朝食の後、ハリーたちはウィーズリー夫人から応接間に潜んでいるドキシー退治を手伝うよう頼まれた。応接間の天井は高く、オリーブグリーンの壁は汚いタペストリーで覆われていた。
「顔を覆って、スプレーを取って。これは殺ドキシー剤よ。こんなにドキシーだらけなの、見たことないわ。この10年、クリーチャーは何をやってたのかしら」
シリウスがバックビークに餌をやるのにそこを通りかかると、部屋にあった机に近づいてきた。鍵のかかった引き出しがかすかに震えている。「まね妖怪だ。だが、私たちが出すより、マッドアイに任せたほうがいいだろう」
そして、ドキシー退治が始まった。おもしろいようにつかまる。フレッドたちは夫人の目を盗んでドキシーをポケットに入れた。ドキシーの毒が商品開発に必要らしい。二人は互いに実験しながら質の向上に努めているらしい。夫人は2人がデュエルをしていると思っているようだ。

お昼の休憩をとっていると、呼び鈴が鳴り、ブラック夫人が叫びだしたのでウィーズリー夫人は部屋を出て行った。ジョージがドアを閉めようとすると、屋敷しもべ妖精が入ってきた。彼は、ハリーたちに全然気づかない様子でしゃべりだした。
「裏切り者めが、奥様の家をめちゃめちゃにしおって。奥様に知れたら、クリーチャーはなんと言われようか。穢れた血に人狼、裏切り者に盗人。かわいそうなクリーチャーはどうしたらいいのやら・・・」
「彼女を穢れた血と呼ぶのはやめろ!」ロンとジニーが怒って言った。
「気にしないわ。正気じゃないのよ。きっと自分が何を言っているか・・・」
「冗談じゃない、ハーマイオニー、あいつは自分が何を言ってるか”ちゃんと”知ってるさ」フレッドが言った。「ところで、何がしたいんだい?」
「クリーチャーは掃除をしております。気高く由緒あるブラック家にお仕えするために・・・」
「お前はうちのものを捨てられないように掃除をするふりをしてこそこそしてるだけだろう」
「7世紀に渡って代々伝わるこのタペストリーを捨てさせるわけには参りません」
シリウスはクリーチャーが守ろうとしていた壁いっぱいの長さのタペストリーのところに行った。ハリーたちもついていった。それは、「最も由緒ある旧家ブラック家」と記された家系図だった。しかし、その中にシリウスの名はなかった。シリウスは16才の時に家を出て、そのときに母親が抹消したのだ。ほかにも抹消されている名前がいくつかあった。そして、驚くべきことに、ブラック家はマルフォイ家とも親戚だったのだ。「純血」の家系はみんなつながりがあるのだ。なぜならその血を守るためには、選択が限られるからだ。その血族の裏切りがあるとすれば、・・・ウィーズリー家だ。

ハリーは、大好きな人たちのところに戻れてすっかり忘れていたが、審問の日が迫っていた。ハーマイオニーとウィーズリー兄弟を見ながら、自分をおいてホグワーツに行ってしまったらどんな気がするだろう、と考えていた。
「もし、ぼくが退学になったら、ここに戻って一緒に住んでもいい?」
シリウスは悲しそうに微笑んだ。「ああ、いいとも」

3日かかって応接間はあのタペストリーとがたがたする机以外はきれいになった。一同は応接間からダイニングルームへ移動した。
1日に数回呼び鈴は鳴り、その度にシリウスの母親は叫んだ。ハリーたちは訪問者たちの話を盗み聞きしようとしたが、ウィーズリー夫人に呼び戻されるので成果はあまりなかった。時に変化術の先生、マクゴナガル先生もマグルのドレスとコートを着て現れたが、忙しそうだった。
そんな日々の中でも夜はなかなか眠れなかった。いまだに廊下と鍵のかかったドアの夢を見て、傷が痛むのだった。
ある水曜日の夕食の時、ウィーズリー夫人が静かに言った。「明日の朝のために一番いい服にアイロンをかけておきましたからね。第1印象は大切よ」
「どうやって行くの?」
「アーサーが仕事に行くのに一緒に連れてってくれるわ」

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第7章 The Ministry of Magic

次の日の朝5時半に飛び起きたハリーは、だれも台所にいませんように、と思いながら階段を降りた。しかし、ウィーズリー夫妻、シリウス、ルーピン、トンクスが彼を待っていた。
ハリーはトーストだけをもらって黙っていた。ウィーズリー氏が言った。
「審問はうちの階のアメリア・ボーンズの事務室で行われるんだ」
「彼女は公平だからいいわよ」とトンクスも付け加えた。
「かんしゃくを起こすなよ。礼儀正しく、事実をはっきりさせて」シリウスも言った。
「法は君の味方さ。未成年だって命の危険にさらされたら魔法を使うことは許されてるんだから」静かにルーピンが言った。

日頃はウィーズリー氏は瞬間移動で仕事に行くが、ハリーはまだできないので、地下鉄に乗ってロンドンに出かけた。来客用玄関なんて使ったことがないから、と言いながら地図を見て歩き、「ここだ」と言ったのは、古めかしい赤い電話ボックスの前だった。受話器を取って、「6・・2・・4・・4・・2・・」とダイヤルすると、オペレーターの声が聞こえてきた。
「魔法省へようこそ。お名前と御用件をどうぞ」
そこで、名前と用件を言うとお金の返却口から「ハリー・ポッター 懲罰審問」とかかれたバッジが出てきた。そして、電話ボックスの床がぐらぐらしたかと思うと、それはゆっくり地下へと沈み始めた。1分ぐらいして電話ボックスのドアが開くと、そこは魔法省のエントランスホールだった。
金色の格子のついたリフトに乗って、ハリーたちはアーサーの事務所のある2階へ降りた。「闇祓師本部」と書かれた区域の前を通ると、壁一面にたくさんの指名手配の魔術師や魔女の写真が貼ってあった。奥のほうには一面にシリウスの写真が貼ってあり、ハリーは少々ショックを受けた。
アーサーの事務所に着いて一息入れていると、同僚のパーキンが、息を切らしてやってきた。
「アーサー、10分前に魔法省から緊急メッセージが届いたんだ。審問の場所と時間を変えるって・・・8時から下の旧10番法廷で・・・」
ウィーズリー氏は時計を見て、息を呑み、いすから飛び上がった。「急げ、ハリー、そこに5分前にはついとかなきゃならんかったのに」
リフトに乗りながら、ウィーズリー氏は怒ったように言った。「あの法廷はもう何年も使ってないのに、なんでそんなところで・・・」
リフトを降りると、2方向に分かれた廊下があった。窓もドアもなく、真っ黒い壁が延々と伸びていた。ハリーはそっちへ行くのかと思ったが、ウィーズリー氏に腕を掴まれ、「左だ」と階段を1段抜かしで降りていった。階段を降りると、ホグワーツのスネイプの地下室に続く廊下に良く似た道が続いていた。
「ここだ。入って」親指でドアを指差していった。
「一緒に・・一緒に入らないの?」
「だめだめ。許可されてないから。がんばって!」

第8章 The Hearing

中に入って、ハリーは息を呑んだ。なぜなら、ハリーはここに見覚えがあったからだ。いや、それだけでなく、ここに来たことがあった。ここはかつて、ダンブルドアのペンシーヴ(記憶の石)で、レストレンジがアズカバンで終身刑を受けのを見たところだった。
いすに座るように言われ、鎖が出てくるのでは、と恐れながら座ったが、鎖は恐ろしげに鳴ったものの縛りはしなかった。
見上げると、見た限りでは、左胸に銀色のWの刺繍のついたプラム色のローブを着た人たちが50人くらい彼を見下ろしていた。ど真ん中に魔法省大臣、コーネリアス・ファッジが座っていた。彼の右側にはもう一人魔女が座っていたが、後ろにもたれているようだったので顔は影になっていた。

「始めよう。尋問者:コーネリアス・オズワルド・ファッジ、魔法省大臣。アメリア・スーザン・ボーンズ、魔法法律施行局長。ドロレス・ジェイン・アンブリッジ、魔法省高級次官。書記:パーシー・イグナチウス・ウィーズリー。弁護人:アルバス・パーシヴァル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア」
藍色のローブを着たダンブルドアが、落ち着き払って入ってきた。ワイゼンガモットのメンバーはぶつぶつ言っていた。ハリーはフェニックスの歌が聞こえたかのように、勇気が湧いてきて、ダンブルドアの目を捉えようとしたが、ダンブルドアは彼の方を見ようとしなかった。
「ダンブルドア。あなたは・・・ええ・・・審問の・・・・ああ・・・時間と場所が変わったという・・・・メッセージをうけとったのかね?」ファッジが狼狽して尋ねた。
「ラッキーなことに、間違えて3時間も早くここに着いてしまってのう。大丈夫じゃったよ」

ファッジがハリーに質問する。ハリーの名前、住所、何をしたか。
「17歳以下では学校の外での魔法の使用は禁じられていることは知っていたね」
「はい、でも・・・」
「そこはマグルがたくさんいる場所だと知っていたね」
「はい、でも・・・」
そこに、ファッジの左側に座っていた魔女が大きな声で聞いてきた。
「あなた、完全なパトロナスが出せるんですって?」
「はい」
「15歳なんでしょ?学校で習ったの?」
「はい、ルーピン先生が3年生の時に・・・」
「感動的だわ。その年でねぇ・・・」
「問題はそこではなく、マグルの前で魔法を使ったということだ!」ファッジが不機嫌に言った。
「吸魂鬼がいたからです!」
しかし、人間界に吸魂鬼が現れるなどということをだれも信じなかった。そこで、ダンブルドアが目撃者を呼ぶことを提案した。入ってきたのは、ミセス・フィグだった。
ミセス・フィグは見たことを話した。しかし、ファッジはそんな吸魂鬼が人間界でたまたま魔法使いに会うなんていう偶然的なことがあるか、と信用しなかったが、ダンブルドアは「誰かに命令されたのじゃろ」と言った。「魔法省の誰かが、なぜ2人の吸魂鬼を送り出すよう命じたのか?」
そのとき、ファッジの右側にいた魔女が身を乗り出してきたので、初めて顔を見ることができた。まるでカエルのようだった。妙に甲高い幼女のような声でしゃべった。「まるで、魔法省がその子を襲わせた、というようにきこえますけど?」
その後もファッジとダンブルドアのやり取りが続いた。どうにかハリーを有罪に持ち込みたいファッジの言い分を次々と論破していくダンブルドア。

声がやんだ。「無罪だと思う人?」半数以上が手を上げた。「有罪だと思う人?」ファッジと6人ぐらいが手を上げた。その中にはファッジの右側に座っていた魔女もいた。
ファッジは見回して、言った。「結構結構・・・無罪だ」
「大変よろしい」とダンブルドアは言って、「では、やることがあるんでの。ごきげんよう」とハリーのほうをちらりとも見ずに出て行ってしまった。

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第9章 The Woes of Mrs. Weasley

審問の済んだハリーにはだれも目もくれないので、部屋を出た。ウィーズリー氏は先に出てきたダンブルドアが何も言わなかったので心配していたようだった。ハリーの無実を知り、喜んだが、そのそばをパーシーがまるで2人がそこにいないかのように通り過ぎていったので、唇をかんだ。
2人は階段を上がると、そこにルシウス・マルフォイとファッジが話している姿を見かけた。この間ルシウスはデス・イーターだと言ったのに何でこんなところでファッジなんかと話してるんだ?

グリモールド・プレイスに帰ると、みんな喜んでくれた。シリウスももちろん喜んでくれたのだが、そのうちに口数が少なくなり、気分にもむらが出てきて、1日の時間の多くを母親の部屋でバックビークと共に過ごすようになった。
ハリーは夏休みの終わりが近づくにつれてホグワーツのことをあれこれ思いめぐらしていた。ハグリッドのこと、クィディッチのこと、など。
いよいよ夏休みも最後の日、ふくろう便が届いた。教科書のリストだった。今年は新しいのは2冊のようだった。「基本魔術 5」と「魔法防御論」だった。そこにフレッドとジョージが現れた。
「俺たち、前に母さんと父さんがしゃべっているのを覚醒耳で聞いたんだ」
「ダンブルドアが今年、その授業をやってくれる先生を見つけるのに本当に苦労してるって」
「そりゃ、今までの4人に何が起こったか考えれば驚くことじゃないけどね」
「一人はクビになって、一人は死んだ。一人は記憶を消去され、残りは9ヶ月もトランクの中に閉じ込められてた、と」
と、ハリーが答えているそばで、ロンが固まっていた。
「どうしたんだよ?」と傍らから覗き込んだフレッドは手紙を見て信じられない声を出した。
「監督生だって?」
ハリーがバッジを手にとって眺めていると、ハーマイオニーが封筒を手にしてやってきた。
「分かってたわ!わたしもよ!ハリー、私もよ!」
「いや、これは、ロンのなんだ」
「ロン?でも、・・・ほんとに?・・・まあ・・・・おめでとう、ロン」
ウィーズリー夫人もそれを知ってとても喜んだ。
しかし、後でハリーは一人きりになったとき、自分のところに監督生のバッジが来なかったことを気にしていた。

夜はパーティーだった。
ムーディーの姿を見て、ウィーズリー夫人は例の机の件を持ち出した。「そりゃ、まね妖怪じゃ。退治してこようか?」と尋ねるムーディーに対して、「いいえ、後で自分でやりますわ」とウィーズリー夫人は答えた。
ハーマイオニーとロンの監督生のお祝いムードなので、ハリーは気まずかったが、シリウスが「だれも俺を監督生にしようとはしなかったなぁ。ジェイムズと一緒に罰ばっかり受けてたからなぁ。ルーピンはいい子だったから、バッジをもらったけどな」というのを聞き、自分の父親も監督生になってないことを知って心が軽くなった。
途中でウィーズリー夫人が、まね妖怪をどけに台所から出て行った。ムーディーがハリーに近づき、1枚の写真を見せてくれた。それは、騎士団の一期生が写った写真だった。一人一人を指差しながら話してくれたが、半数以上はもういない人となっていた。
ハリーは、まだ片付けが済んでないので、と言い訳をして2階へ上がることにした。だれかのすすり泣きが聞こえる。「あの・・?」返事はない。部屋を開けると、だれかが杖を持って、壁にもたれてすすり泣いていた。月明かりに照らされて、だれかがじゅうたんに倒れている。明らかに死んでいる、その人はロンだった。
ハリーの胸は空気が抜けたようになり、脳は凍ってしまいそうだった。そんな馬鹿な・・・!
いや、待てよ、ロンの筈がない、ロンは下にいる。
「おばさん?」
「り、り、リディキュラス!」おばさんは泣きながら、ロンの死体に杖を振った。それはビルの死体になった。 おばさんは、何度も杖を振ったが、そのたびに、それは双子の死体、パーシーの死体、ハリーの死体へと変わった。
「おばさん、ここを出て!」様子を聞きつけて、みんながやってきた。ルーピンがまね妖怪をやっつけた。おばさんは、泣きながら訴えた。家族の半分以上が騎士団に入ってしまったら、みんなが無事でいられる保障がないこと、パーシーが口を聞いてくれないこと、もし、自分たちに何かあったら、ロンやジニーの世話はだれがしてくれるのだろうか、ということ、それらがいつも心配なのだと・・・

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第10章 Luna Lovegood

その夜、ハリーは嫌な夢を見た。両親は何度も現れるが、決してしゃべらなかったし、ウィーズリー夫人がクリーチャーの死体の前で泣いているのを王冠をかぶったロンとハーマイオニーが見ていたり、ハリーはまたしても鍵のかかったドアに通じる廊下を歩いている、というのだったり・・・・

キングズ・クロス駅に行くのに、護衛がつくと聞いてハリーは驚いた。ヴォルデモートが襲ってくるわけでもなし、なんでそこまで・・・
多くの人に見送られながら、ハリーたちは汽車に乗った。シリウスも犬になってついてきていた。汽車が走り出した時、その犬はしばらく汽車を追いかけ、見送りの人たちに笑われていた。
部屋を探そう、とロンたちに声をかけると、ロンとハーマイオニーは、まずは監督生の仕事があるから今は一緒に座れない、と言って後で会う約束をして、二人で監督生専用の車両に行ってしまった。
ジニーと2人で部屋を探していると、乗客たちが、興味津々で彼を見たり、隣の人と何かこそこそ言ったりしているのに気づいた。夏中日刊予言者新聞が書きたてている記事をみんなが信じ込んでいるのかと思うとハリーは気が重くなった。
最後の車両で、ネビルに会った。「どこもいっぱいで・・・・空いてる席がないんだ・・・」というネビルに、ジニーが答えた。「なに言ってるの。ここ空いてるわよ。この部屋にはルーニー・ラブグッドしかいないじゃないの」
ネビルはそれでもぶつぶつ言っていた。 3人はその部屋に入った。「ここに座ってもいいかしら?」
その少女はなんだか風変わりな感じだった。それは左の耳に杖をはさんでいたり、バタービールのキャップで作ったネックレスをしていたり、雑誌をさかさまに読んでいたりするところから受けるものだった。
彼女はうなずいた。
席に座ると、ネビルは誕生日にもらったと言う「ミンブルス・ミンブレトニア」というたいへん珍しい植物を見せてくれた。身を守る機能があるというところを見せようとして、その植物のある部分を羽ペンの先で突っついた。すると、その植物は濃い、深緑色の液体を噴射した。それは天井や窓、ルナの雑誌に飛び散った。ジニーは手で顔にかかるのを防いだので、緑色のねばねばする帽子をかぶっただけに見えたが、ハリーはトレバーが逃げないように持っていたので顔中にそれを浴びてしまった。
ちょうどそのとき、部屋の入り口が開いた。「こんにちは、ハリー。あら、いけなかったかしら?」
それは、チョウだった。
「や、やあ・・・」とハリーは呆然として答えた。
「ただ、あいさつに来ただけだから・・・」と言って、出て行ってしまった。
その液体は、ジニーの「スクージファイ」の呪文ですっかりきれいになった。
そのあと、ロンたちも戻ってきて、他の寮ではだれが監督生になったか教えてくれた。
ルナの持っていた雑誌「クィブラー」を見て、「なんかいいこと書いてあるの?」とロンが聞いた。「ある訳ないわよ。クィブラーは馬鹿馬鹿しいってだれもが知ってるわ」とハーマイオニーが答えたが、ルナが言った。
「失礼だけど、うちの父が編集長なの」

それからお決まりのようにマルフォイたちがやってきて、嫌味を言っていった。
やがて汽車は駅に着いた。ハリーはプラットホームに降りながら、おなじみの「1年生はこっち」という声を聞こうとした。だが、それは全く違う声だった。声の主は、ハグリッドの代理の先生をしていたグラッブリー・プランク先生だった。「ハグリッドはどこだろう?」風邪でもひいたのかな?
いつものように2年生以上を城まで連れて行ってくれる馬のついていない馬車のところに行った。
しかし、いつものように馬なしではなく、馬と言えば馬、爬虫類とでもいえそうな生き物が馬車にはつながれていた。肉はなく、骨格に黒い皮がぺったりとはりついており、すべての骨が見えるのだ。頭は龍のようで、瞳のない白い目が見つめていた。さらに、こうもりのような黒い羽が両脇についていた。ハリーにはなんでこんなおそろしい馬が馬車を引いているのか信じられなかった。
しかし、他のみんなはいつものように振舞っていた。ハリーはロンに聞いた。「何、あれ?」
「あれって?」
ロンにはまったく見えていないようだった。逆に「気は確かか?」と聞かれる始末だった。
「大丈夫よ。あなたは気がおかしくなったりなんかしてないわ。私にも見えるもの。ここに来た最初の日から見えていたわ。心配ないわ。私と同じになっただけなのよ」
答えたのはルナだった。

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