ある日のこと、車でナホトカからボストーチンへ帰る途中、バス停でバスを待っている母娘を見つけた。
お母さんの女性の方は、マーマチカの知り合いらしい。やさしいマーマチカは車を止めて、
この母娘を乗せてあげることにした。
この女性、ロシアではどこでも見かける定番の毛皮の帽子(コサックハットというらしい)に、
毛皮のコートというスタイルだった。
関係ないがこの毛皮の帽子、頭が相当大きく見えるので身長の低い人には似合わない。マーマチカが
一度もこのタイプの帽子を被っているところを見なかったのも分かる気がする。
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ところでこの女性、長身で美人だったがツンとした冷たい感じの人だった。車に乗せてもらった
のに、「ありがた迷惑よっ!」といった様子で、なくあまり喜んでいないようだ。
僕がズドラストビーチェ(こんにちわ)と挨拶しても、殆どシカト状態。・・・感じ悪っ!!
(但し、僕のこの”ズドラストビーチェ”も発音が悪いらしく、初対面のロシア人に通じないことも
多かった。・・・それを割り引いても何か自分に向かって言われているのは分かったろうに。)
まあ見慣れない東洋人に愛想振り撒くような人にも見えないが。
しばらくするとこの母娘が会話しているのが聞こえた。娘はまだ幼児であり、簡単な内容
だったので僕にも理解することが出来た。
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娘が車の窓ガラスに積もった雪を指差して聞いた。
娘: 「ママ。これなあに?」
母: 「これは雪よ。」
娘: 「う(ゆ)き?」
母: 「そうよ。雪。」
娘は明らかに幼児式の発音になっている。母はともかく、この娘はとってもかわいい。
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バス停で親子を乗せてから、しばらく走ったところで、車は急なカーブに差し掛かった。
ここで突然、凍結した路面に、タイヤがスリップをし始めた。
車はコントロールを失い、対向車線に、はみ出した。マーマチカは、車の姿勢を立て直そうと、ハンドルを
操作するのだが、車は蛇行を繰り返し、とうとう路肩の外に突っ込んで、やっと停止した。
対向車がなくて幸いだった。僕自身はスキーなどで雪道の運転も、よくしており、もっと危険な場面も
経験していたので、大して動揺することはなかったが、マーマチカは少し、ショックを受けている
様だった。
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マーマチカは、ショックでハンドルの上にしばらく突っ伏していた。そして胸の上で十字を切った。
十字を切る仕草をはじめて生で見た。いまどき映画でも、なかなか見られない。
20秒くらい突っ伏していて、やっと我を取り戻したのか、後部座席を振り返り、
「だいじょうぶだった?」と聞いて来た。
僕は慰めてあげたくて「ニチヴォ、ニチヴォ」と繰り返した。「何事もなかったよ!」と言いたかったのだ。
同乗していた母娘の娘のほうは、状況を理解していないのであろう、キョトンとしていた。
でもお母さんのほうは、「もう、いいかげんにしてよ!、ふんだりけったりだわ!」と、
いわんばかりである。はっきりと口に出して言っているわけではないのだが表情や、仕草で伝わって来る。
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