「ごめんなさいって言ってるじゃない!」
あたりが薄闇に包まれる頃、屋敷中に響き渡る少女の声。
しかしそれは、謝っているというより怒っていると言っていい口調だ。
少女は自分の目の前でのんびり酒杯を傾けている男を睨みつけていた。
だが、男は少女の精一杯の反抗に唇の端を上げて笑うだけだ。
しばらく男を睨みつけていた少女だったが、男が動かないと分かると小さく
息を吐き、顔を伏せる。
そして今までとは打って変わった声で男に哀願を始めた。
「ねえ、もう絶対にしないから・・・だから、お願い許して・・・」
怒ってだめなら甘えてみろ作戦。
幼さの抜けない少女だが、さすがは女。
変わり身の早さには、女に慣れた男も感心させられる。
少女は男を涙と甘さに潤んだ瞳で、上目遣いにみつめた。
「ねぇ・・・・・」
「ダメ」
冷たい男の一言に、とうとう少女は本気で泣きを入れた。
「翡翠さ〜ん・・・。もう許してよ〜。悪かったって思ってる。反省してるからぁ・・」
少女には甘いといわれる翡翠だが、今回は少女の涙にもその怒りを解くことは
なかった。
「花梨の『ごめんなさい』、『反省してる』は聞き飽きたよ。君も言い飽きただろう?」
「・・・・・」
「何度言っても分からないから、体に教えてるんだよ」
微かに笑みを含んだ言い回しは、なんだか他の事を指しているようで・・・。
花梨は赤くなった顔がばれないように、ぷいっと顔を背けた。
「・・・・なんかその言い方いや」
「おやおや、何を想像したのかな?」
あげあしを見事にとられ、花梨の頭に血が上る。
「体罰反対!!」
「体罰?それが?私は自覚を促しているだけだよ、花梨」
「う〜・・・」
所詮口で翡翠に勝てるわけがなく・・・。
花梨は涙目で翡翠を睨んだ。
そんな表情がまた可愛くて苛めたくなるのけれど・・・。
笑顔の下で、翡翠がそんな事を考えているなど、花梨には分かるはずもない。
「お頭」
不意に部屋の外からかけられた声。
翡翠の部下だ。
「何だ?」
「少しお話が・・・」
「やれやれ・・・」
面倒くさそうに立ち上がり、部屋を出て行きかけて花梨へと振り返った。
それはそれは綺麗な笑みを浮かべて。
「花梨はそのままでね。私が帰って来るまで動くんじゃないよ」
そう言い置いて去っていく翡翠に、思いっきり舌を出して、さっさと立ち上がろうと
した。
「え?うそ!?」
花梨は自分の体の変化に声を上げる。
罰と称し、長時間板間で正座させられていた足は見事に感覚を無くしていたのだ
った。
しかもつま先をついて立ち上がろうとしたのに、足首が曲がらない。
スカッと床を掻いて伸びてしまうのだ。
「なんなのよ〜。これ・・・」
そうこうしているうち、じわじわと感覚が戻ってくる。
「し〜び〜れ〜た〜!」
花梨はバタンとその場に倒れ伏し動かなくなってしまった。
否、動けなくなったのだ。
じっとしているだけでも、無数の針に刺されているかのような痛みなのに、少しで
も動けば息が出来ないほどの痛みがはしる。
「う〜・・、翡翠さんのばかぁー!意地悪!いじめっ子ー!!!」
痛みをまぎらわす為、花梨は思いつく限りこんな目に遭わせた翡翠を詰った。
「足の形が悪くなったらどうしてくれるのよ!翡翠さんのばか〜。家出してやる〜」
「・・・まだ懲りてないのかな、この姫君は」
上から降ってきた声の主はどう考えても翡翠。
花梨の血の気が一気にさがる。
「私は動かないように言わなかったかな、花梨?」
嫌味ったらしく確認するのが翡翠らしい。
逃げたいのに痛みで動けない花梨はとりあえず死んだふりなんかしてみる。
「花梨。君は何故罰を受けていたのかい?」
「・・・・」
「答えないと足を踏むよ?」
「黙って一人で抜け出したからです!!」
この足を踏まれたら堪らないと、花梨は叫ぶように答えた。
にっこり翡翠が笑う。
「忘れてなかったようだね・・花梨。で、君はさっきなんて言ったかな?」
「・・・・・・・・・・・・」
「花梨?」
「・・・家出してやる・・・・・」
「ふふ・・罰はなまぬるかったようだ」
「嫌〜!!痛い!痛〜い!!」
翡翠は軽くだが、花梨のふくらはぎを踏みつけた。
とたんに上がる花梨の悲鳴。
「やめて、やめてよ!翡翠さん!!痛いってば!」
「生半可な事では反省しない姫君に合わせているだけだよ」
花梨は痛みのあまり、バンバンと床を叩く。
「ごめんなさい!もう絶対に一人で抜け出さないから!二度としないから。」
「本当だね?」
グッと力を入れれば花梨の目から涙と声にならない叫びが上がった。
「誓います!もういいつけを破ったりしないよ〜。許して〜」
「そう・・・」
翡翠は花梨から足を上げ、彼女の側に膝を付き、泣きじゃくる花梨の髪を優しく
撫でた。
「酷いよ、翡翠さん」
「酷いのは花梨の方だよ」
優しいいつもの翡翠の声に、花梨は涙に濡れた顔を上げた。
「私かどんなに心配しているのか分かっているのかい?」
「あ・・・」
「ここは君が思っているほど安全な所ではないのだよ。それを肝に銘じて欲しいね」
決して強い口調ではなかったが、花梨を想う気持ちは痛いほど伝わってきた。
花梨はゆっくり翡翠へと腕を伸ばした。
「ごめんなさい、翡翠さん」
翡翠は花梨をその胸に抱き寄せる。
そして濡れた頬に軽く口付けた。
「分かればいいのだよ、花梨」
「うん、本当にごめんなさい。もう心配かけないから・・・」
大好きな翡翠の香りに包まれて花梨はそっと目を閉じた。
しかし再び花梨の悲鳴が屋敷に響くのは遠いことではなかった。
終
長くなってしまった・・・・。
翡翠さん、酷いですか?
でも私のイメージとしては、これでも花梨に甘いと思うんです(笑)
いや、だって海賊だし。
これは、サイト開設記念としてお世話になった方に差し上げようと
思い書きました。
フリーではないです。
あくまで、いつも遊びに行ったとき優しく相手をして下さる方に差し
上げました。
って、いうか貰って頂きました(笑)
これからも、よろしくお願いします。
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言い付け