この想いは、いつ生まれたのだろうか・・・・。
 いつもの気まぐれだった。これも何かの縁だろうと。
 可愛い義妹。それ以上でもそれ以下でもなかった。





「ねえ、兄様。これをご覧になって。帝が素晴らしい絵巻物を下さったのですよ」
 幼さの残った少女は、ふわりと笑って兄を見上げた。





 これが最善。最良の道。
 そう言ったのは、他の誰でもない、自分だったはず。





 入内は嫌だと言い張った義妹を叱ったのは、自分ではなかったか・・・・。
 それが今、静かな笑顔で入内の調度品を眺める義妹を素直に祝ってやる事が出来ないのは何故だろう。





『友雅さん・・・』





 柔らかな少女の声音が、心地よく男を酔わせたあの日。
 義妹であり、義妹でなかった少女。
 もう二度と聞くことはない言葉。





 指を絡め、互いの体温を分け合った一瞬。





 何がすべてを狂わせたのか。
 この想いはどうして生まれてしまったのか。
 




 だが、もう遅い。
 数日後の吉日。義妹は・・・・、白雪の君と呼ばれる妹は華やかに入内する。
 それは誰にも変えられないこと。





「兄様?」
『友雅さん?』
 義妹の声が、もういない少女と重なる。
 彼女は消え去り、あとに残されたのは何も知らない無垢な少女。
 




(あれは夢だったのだ・・・・。泡沫の夢・・・・)





 黙ったままの自分を不思議そうに見上げる少女。
 友雅は、微かに口の端を上げ、微笑を形どった。
 笑えないのに、笑える自分に安堵しながら・・・・。





「帝のご寵愛を沢山お受けなさい・・・・・。あかね・・・・・」
 義妹の真名を呼べるのも最後。
 




 これが少女にとって一番幸せな運命なのだと、分かってる。




 恥じらいに頬を染める仕草も、二度と見る事は出来ない。





「幸せにおなりなさい・・・・」
「・・・・・はい、兄様」





 入内の日が近づく。





 永久の別れが・・・・・・・。




 愛しいとう想いはどこから生まれるのか。
 そして行き場のない想いは、どこへ行くのか。







 すべては十二年前の春から始まった・・・・・。






03.02.21




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