(あれ?いつの間に眠っていたんだろう・・・)
半覚醒状態で目を閉じたまま、あかねはぼんやりと考える。
(今日は何してたんだっけ?)
ゆっくり戻ってくる意識と記憶。
(ああ、今日は物忌みだったんだよね・・・。外に出られなくて退屈で、友雅さん
にお願いして琵琶を奏でてもらってたんだ・・・)
それがすごく綺麗な優しい響きで、気持ちよく聴き惚れてて、それから・・・・・
覚えていない。
あれからどのくらい経ったのだろう?
目蓋に映る日差しはやわらかく、日が傾きかけているのが分かった。
でもまだ少しまぶしく、あかねは日差しを避けるように寝返りを打とうとして、
ふと違和感を覚えた。
頬に感じる温もり、あかねの体を包みこむような侍従の香り
(・・・もしかして、もしかするわけ??)
一瞬にして冴えた意識。
信じられない自分の考えにドキドキしながら、ゆっくりと目を開ける。
すると、視界に飛び込んできたのは、友雅の端正な面差し。
「!!」
至近距離で見るその美貌の迫力に思わず声を上げそうになり、あかねは慌
てて手で口を押さえた。
なんとあかねは、友雅の膝枕で眠っていたのだ。
そして友雅も・・・・。
友雅は立てた片膝に肘を付き、まるであかねを覗き込むようなかたちで眠っ
ている。
最初の衝撃が去ると、あかねは詰めていた息をゆっくりと吐き出した。
少しでも動いたら友雅が目を開けそうで怖かったから。
初めて見る友雅の寝顔。
いつもいつもあかねを慌てさせる眼差しも、あかねをからかってばかりの唇
も、今は閉じられたまま。
あかねは恐る恐る手を伸ばして、友雅の肩から滑り落ちていた髪に触れ
た。
それは思っていたよりも柔らかく、サラサラとした手触り。
きっと友雅の意識がある時には、こんな風に触れることなど出来ないだろ
う。
「ふふっ・・」
あかねが照れくさそうに小さく笑う。
「疲れてるよね・・・」
それは当然だろう。
京の散策には、必ずと言っていいほど友雅と一緒だった。
最初は本心を見せない友雅が苦手だったのに、いつの頃からか誰と一緒
にいるよりもリラックスしている自分に気付いた。
龍神の神子という重責に押しつぶされそうになった時、さりげなく手を差し
伸べてくれたのが友雅だった。
甘えすぎているのは分かっている。
でも、この心は止められない。
龍神の神子と八葉である間は、我儘だと分かっていても独占したい。
「どうしてこんなに好きになっちゃったんだろう・・・」
何度も何度も自問した。
多くの美しい女性を虜にするほどの魅力的な男。
子供の自分が誰よりも友雅の近くにいることを、疎んじる女性がいる事は
事実。
そして、友雅が自分をひとりの女性と見ていないのも哀しい事実だ。
だから少しだけ夢を見させて欲しい。
龍神の神子である間は、自分一人だけを見つめてもらいたい。
すべてが終わったら、きっと夢から覚めるから・・・・せめてそれまでは甘い
夢を見ていたい。
胸の奥からあふれる切なさに、指先で唇を押さえた。
目の前には、変わらぬ友雅の寝顔・・・
あかねは唇を押さえていた指先を、そっと友雅へ伸ばした。
かすかに触れた友雅の唇。
そのぬくもりを盗むように触れた指先で、自分の唇をなぞった。
キスをする度胸はない。
だから・・・・。
「これくらい、いいよね」
あかねは切なげな微笑をうかべ、もう一度目を閉じた。
友雅が起きてしまえば、この時間は終わるから・・・
だからもう少し夢をみていたい。
あかねは、友雅の直衣の端を握り締め深く息をついた。
終
初の遙か創作です。
なんだか当初考えていたものと、ちょっと違ってしまいました(笑)
指でキスするのが、とてもセクシーだと考えるのは私だけでしょうか?
ネタは、仕事中に乾燥した自分の唇に触って思いついたという色気のないもの。
指先のネタは、もう少し続けられたらいいな、と思ってます。
でも、きっと無理でしょう(爆)
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