精霊の涙 〜機械の精霊〜




Days 2

鳥の囀りが聞こえ、朝日が舞い降りる。 その窓から入る日差しによって私は目覚める。 ・・・はずだった。 ゴンッ! 「はがっ!」 痛みで目を開けた私の前に、床があった。 「あ、あれ・・・?」 そういえば、夕べリチルを寝かせてから・・・。 どうしたっけ? 「おはよう、パパ。」 「あ、ああ。おはよう、リチル。」 ベッドに腰掛けているリチルに挨拶をし、朝食の準備に取り掛かろうとした。 はずだった。 「そうだった。レポートを書くはずだったんだ。急がなきゃ!」 時はすでに9時を回っていた。 今から取り掛かって間に合うだろうか・・・。 「リチル、おなかすいたよ〜!」 うぅ・・・。 こっちはそれどころじゃないというのに・・・。 「おなかすいた〜」 足をばたつかせながらお腹すいたを連呼するリチル。 「はぁ・・・。ちょっとまってなさい。」 たしか、まだあったはずだ。 一度キッチンまでいき、テーブルの下の木箱をあさる。 「あった。三つか・・・。何とかなるだろ。」 赤く熟れているのが二つ、まだ青いのがひとつのりんごを抱え、もう一度部屋へともどった。 「リチル。これをあげるから、少しの間、静かにしてくれないか。」 そういってりんごを渡す。 「もちろん、本当はキッチンへ行って食べるのだけども、今は特別にここで食べてもいいよ。」 でなければまた泣き出すだろう。「パパがいな〜い」とか言って。 「うん。ありがとう、パパ。」 リチルは教えたとおり、お祈りをした後、熟れたりんごにかぶりついた。 シャクシャクと音がするのを背に、私はレポートを書くことに専念することにした。 シャクシャクシャク・・・。 シャクシャクシャクシャク・・・。 シャクシャクシャクシャクシャク・・・。 ぐぅ・・・。 リチルの食べる音の間に、自分の腹の音が鳴った。 「そういえば、私も朝から何も食べていないな・・・。」 しかし、本日助成金をもらうまで、何も食べることができないのが現状だ。 りんごにしたってあれが最後だったのだ。 ぐぅ・・・。 またしても私のお腹が不満の音を立てる。 「うるさいな・・・。もう少しの辛抱だから・・・。」 もう少しの辛抱じゃない。 レポートが終わらない限り、私に助成金は舞い込んでこないのだ。 そうなれば、もう少しどころか永遠に我慢しなければならない。 「はぁ・・・。隣のリンさんに朝ご飯でも作ってもらおうか・・・。」 リンさんはうちの妻の妹にあたる関係の人で、うちの隣に住んでいる人だ。 もう少し詳しく言えば、マリーが私のところに嫁いできたときに、 リンさんも隣に引っ越してきたのだ。 愛する姉さんの為にとか言いながらね。 美しき姉妹愛というかなんと言うか・・・。 そんな行き過ぎた部分もあるが、彼女は本当にいい人なのだ。 マリーが安静にしている状態の時には、迷わず私の手助けをしてくれたし、 私一人の時でもご飯を作りに来てくれたりなど、私達の為に色々と世話を焼いてくれる。 実際にマリーが亡くなった今でも、たまに食事を作りに来てくれるのだ。 余計なお世話だが、彼女もいい人を見つけて結婚をすればいいのにとつくづく思う。 以前、彼女にそれを話したら、 「私のことはどうとでもなるけど、あなたはどうするの?」 と逆に問いただされてしまった。 おっと、話がそれてしまった。 とにかく今は、その弱音を吐くほど、空腹だったのだ。 さすがに、死んだ妻の妹に世話になりっぱなしというのも何かしら気分のいいものではない。 さすがにプライドもある。 しかし・・・。 「ちょっと出かけてくる。」 プライドは何処へやら。 外出用のローブを片手にリンさんの家に行く準備をした。 「じゃあ、リチル。これから、パパはお出かけしてくるから、  リチルはおとなしくお留守番しているんだよ。」 リチルの小さな頭を撫でながら、出かけるということを告げた。 おそらく、いっしょに行きたいという言葉が出ないことを祈りながら・・・。 「ねえ、パパ。リチルもいっしょに行っていい?」 言うと思った。 しかし、出かけるといっても隣だ。 しかも、逢うのはリンさんだし・・・。 「仕方ないか・・・。リチル、着替えをして来なさい。」 相手がリンさんだし、いずれ会うこともあるだろう。 だったら紹介は早いほうがいい。 そう思って今回はいっしょに行くことを了承した。 しかし、たとえ断ったとしても、また泣き出すだろう。 私はこの選択が正しいと思うことを祈るばかりだった。 着替えが済んだリチルの手を引きながら、私はリンさんの家に向かうことにした。

コンコン・・・。 私の家と同じ木製のドアを軽くノックした。 いつも思うことだが、同じ木製なのに、私の家とリンさんの家のドアとぜんぜん違う。 私のほうがボロい。 まあ、いつも爆発や薬品などで痛めつけられているので無理もないが。 つらつらと考えている間に、ガチャリとドアが少し開いた。 「どちらさまでしょうか?」 ショートカットに切りそろえたブロンドの髪がさらりとゆれて、リンさんが顔を覗かせた。 でも、私と確認したら、ドアを全開にして私を暖かく迎え入れてくれた。 はずだった。 「パパ・・・?だあれ、この人?」 「・・・・・・・。」 まずい。 いや、別に疚(やま)しいことはしていないのだが、下手に誤解されると言い訳が面倒くさい。 「誰?この子。」 ああ、やはり。 今まで温かみがあった口調が急に冷たくなってしまった。 「私、リチルって言います。」 「リチル・・・?」 しばらくリチルとリンさんとのにらめっこが続いた後、キッと私のほうを睨み付けてきた。 「どういうこと、ラルド。まさか隠し子って言うわけじゃないでしょうね?」 「誤解だよ、リンさん。詳しいことは家の中で話そう。  あまり公に話をできることではないので・・・。」 「ふぅん・・・。  理由はじっくり聞いてあげましょう。とんでもない理由だったら私は怒るからね。」 「わかったよ。」 なんとか、納得したようで、私達を居間へと案内してくれた。 もちろん、本人はあんまりいい顔をしなかったが。 「で、先にその理由と言うものを聞かせてもらいましょうか?」 椅子に腰掛けるやいなや、今にも襲い掛かろうとしている雰囲気で質問してきた。 「この娘は人工精霊なんだ。  一般にホムンクルスと同一視されているんだけど、理論上、火や水の精霊などと同じ種類なんだ。  ただ、この娘は何に属しているのかわからないけど。」 ホムンクルスは身体を構成している物質が極端に弱く、 常に小型の硝子瓶に入れておかなければすぐに蒸発してしまう。 (ホムンクルスの構成のほとんどは、人間と同じ水分でできているが、  特殊な液体の為にすぐに蒸発してしまうのだ。まあ、理論上消滅というわけだ) なおかつ短命なのだ(長くても人間の10分の1にも満たない)。 もちろん、ホムンクルスとの恋愛の話も聞くが、長続きしたという話は聞かない。 まあ、以上のことが当てはまるなら無理もない話だが。 もちろん、今でもホムンクルスの研究は進んでいるが、 今度は、その人権や命の尊さを訴える人たち(私達は人権尊重団体ピースメーカーと呼んでいる)が デモを始めだしたのだ。 「人工精霊・・・。これが・・・?」 まじまじとリチルを見つめている。当の本人はにこにことリンさんを見つめている。 「まだ、どの錬金術師もこれに関しては誰も成功していない。  それに、ピースメーカーがうるさいだろう。だからあまり公にできないと言ったんだ。」 事を公にしてしまえば、ピースメーカーの連中が黙ってはいないだろうし、 また、誰かが真似をして大量生産に乗りかかるだろう。 「普通の人間っぽいけど・・・。ほんとに人工精霊なの?いや、信用できないわけじゃないわ。」 「まあ、無理はないか。私もこの娘に関しては何も知らないんだし。」 正直こういうしかない。 人工で精霊を造るなんでばかげたことを本当にする人間はそうはいない。 しかもそれを作るための詳しい本など一つもないのだ。 何処も信憑性にかけるものばかりで、妖精物語や神話のほうがよっぽど頼りに見えたくらいだ。 自慢じゃないが、偶然の産物に対しての説明は私にはできない。 「ふぅ・・・。まあ、あなたが言うんだから、それを信用するしかないわね。」 半分あきらめムードで信用されてしまった。 そんなに私は信用できないのか・・・? 「私はリーズティ=バロック。私のことはリンって呼んで、リチルちゃん。」 「は〜い、リンさん!」 お互いに手を差し出しあい、握手を交わした。 普通ならほほえましい光景なのだが、やっぱり相手が相手だ。 顔は笑っていたが、少々肩が震えていた。 「まあ、見た目は普通の女の子だから、仲良くしてやってくれ。」 その時、 ぐぅ〜。 私のお腹の音だ。 「はいはい、わかってますよ。簡単にハムエッグとサラダでいい?」 昨日の晩と同じメニューだが、この際気にしない。 「頼むよ。」 その返事を聞いて彼女はキッチンへと向かって行った。 「リチル。リンさんのお手伝い、できるかい?」 「うん、できるよ。」 「じゃあ、お皿を出したりしてきなさい。」 「は〜い。」 元気にキッチンへと向かうリチル。 まあ、子供はこうでないとな、とふと思う。 ましてや、本当に私の子供なら・・・。 ガチャン。 何かを割る音がして私は現実に戻された。 大抵予想はできるが。 「リチルッ!」 ほおって置こうかと思ったが、やはり気になってキッチンへと向かった。 だが、そこで見たものは、泣きじゃくるリチルを必死であやそうとしているリンさんの姿だった。 「うわあぁぁぁぁっ!!」 「リチルちゃん!お皿はいいから、パパの所でゆっくりしてて!」 ぶるぶるぶるっ! 何か言いたげに必死で首を振るリチル。 私も親だ。少しは助け舟を出してやらねば。 「リチル、こういうときはなんと言うんだい?」 私はそっとリチルの方に自分の手を置いた。 「うぐっ・・・えぐっ・・・。ごめんなさい・・・。リンさん・・・。」 きちんと謝ることを教えていたのだが、どうやらショックで忘れていたみたいだ。 「気にしなくていいから、ね。  リチルちゃんはお客さんなんだから、ゆっくりしてていいのよ。」 少しづつ泣き止むリチルだが、何故かこの事に関して首を縦に振ろうとしない。 まあ、手伝いをしろと言った私が原因なのだが。 「リチル。お手伝いはいいって言ってるし、パパと一緒に椅子に座っていよう。」 だが、この私が言っても首を縦に振ろうとはしない。 「リチル・・・。どうしてもお手伝いしたい・・・。やり遂げたい・・・。」 このことにため息をついたのは、私ではなくリンさんだった。 お手伝いするのはいいが、その度に皿を割られてはどうしようもない。 仕方がない・・・。 「リチル。リンさんはコップを持っていって欲しいそうだ。持っていけるかい?」 リチルが持っていけそうな手ごろなコップを差し出して、それを持たしてあげた。 それでもうれしそうにうなずいて、居間の方へと向かっていった。 「ふぅ・・・。リンさん、すみません。皿代は弁償しますから。」 割れた皿をほうきで掃くリンさんに向かっていったが、リンさんはそのことに対して大笑いを始めた。 「あはは、期待はしていないよ。それにこれくらいなら銅貨1枚で買えるから平気だって。」 「しかし・・・。」 リンさんの人差し指が<気にしなくていいよ>と言っているかのように、私の口へと当てた。 「リチルちゃんがオロオロしないうちに居間に戻りなさい。ね。」 こういわれてしまっては、私も引き下がるしかなかった。 先ほどリチルに持たせたコップがひとつだけぽつんとテーブルの上にある光景を浮かべながら。 というか、まさにその通りだった。 ただ、違うのは、それが私のテーブルの前にあることだった。 「パパ!きちんとお手伝いできたよ!」 さっきまで泣いていたリチルは何処へやら。 達成感を感じて、笑顔で私を迎えてくれた。 「よしよし。えらいぞ、リチル。」 私はリチルの頭を撫でてやり、そっと抱き上げた。 そして、そのまま椅子に腰掛けた。 もちろん、リチルは私の膝の上だ。 「わーいわーい!パパの上だ〜!!」 「こらこら、はしゃぐんじゃない。」 まったく・・・。 「あらあら、仲のよろしいこと。」 気が付かなかったが、いつのまにか目の前にサラダとパン。 傍には、そのサラダを配る笑顔のリンさんがいた。 「まるで本当の親子みたいね。」 「そうだな・・・。」 その返事がどんなに重い意味であったか、リンさんはわかっていたらしい。 「・・・ごめんなさい。」 さっきまで笑顔だった顔を曇らせ、口元を抑えながら小さくお辞儀をした。 「じゃあ、ハムエッグ作ってくるからサラダとパン、先に食べてていいよ。」 「ああ、先にいただいているよ。」 私はリチルを隣の席に移し(もちろん椅子の高さをあわせている)お祈りをするように言った。 リチルは言われたとおり、きちんとお祈りをやってくれた。 昨日とは違い、一言もつまらずにお祈りの言葉が言えたのだ。 そのことを誉めようとしたが、私のその考えはもろくも崩れ去った。 昨日学んだテーブルマナーをすっかり忘れて、パンをそのまま口へを持っていったのだ。 叱るべきことなのだろうが、今回はパス。 私もおなかが減っているのだ。 実は言うと、私もリチルと同じようにパンを丸かじりしていたのだ。 はぐはぐ・・・。 ハグハグ・・・・。 かじったパンが口からなくなると、今度は皿を口に持って行ってそのままサラダを流し込んでいった。 もちろん、リチルも真似をしてサラダを流し込んだ。 「こら、お行儀の悪い!一体誰に教わったの!?」 3人分のハムエッグを持ってきたリンさんが、こんな台詞をいうのが目に映る。 「こら、お行儀の悪い!一体誰に教わったの!?」 3人分のハムエッグが乗った皿を持ったまま、リンさんが居間の入り口に立っている。 怒っているように見えたが、顔も声もあきれていた。 「はぁ・・・。リチルちゃん、女の子がこんなおじちゃんの真似したらダメよ。」 リンさんがリチルの頭を撫でながら言った。 「おじちゃんじゃないよ。パパだよぅ。」 負けずとリチルが反撃する。 ・・・・・・。 この勝負、リチルの勝ちだ。 リンさんは何も言わないまま、そのまま席についた。 「・・・リンさん、ごめん。私が悪かった。」 この気まずい雰囲気から脱出したいが為に、私はおとなしく謝ることにした。 リンさんは何も言わなかった。 静かに微笑を返し、そのまま食事を始めた。

「ふぅ・・・。ご馳走様でした。」 「ごちそうさまでしたっ!」 カランとフォークを置いた音が、食事の終わりを告げた。 「おそまつさまです。あ、食器類はそのままでいいわ。」 「しかし・・・。」 「いいのよ。食器よりも、やることあるでしょう?」 そういえば、レポートの提出があったのをすっかり忘れていた。 柱にかかっている時計を見る。 10時半を少し回ったところだ。 多分、間に合わない・・・。 それに、リチルのこともある。 書類収集担当の錬金術師にはリチルを見せたくはない。 「あの、リンさん。食事ついでに、もう一つ頼みがあるんだが・・・。」 リチルを同僚が帰るまで預かってもらおう。 ここなら、見つかることもないだろうし、静かにレポートを書くことができる。 ちらりとリチルを見る。 リチルは何もわからないかの如く、にこにこと笑っていた。 「リチルちゃんの事でしょ。いいわ、しばらく預かってあげるわ。」 私のしぐさを察してか、リンさんもリチルを見て言った。 きちんと事情を説明してから。という条件付で、了承してくれた。 どう説明しろと言うのだろうか? 仕事の邪魔だからリンさんの家にいろ。と父親らしく言えばいいのだろうか? 仕方ない、時間も時間だ。こう言おう。 「リチル。お父さんはこれから仕事をするから、リンさんの家にしばらく居てくれないか?」 「ふぇ・・・?」 「お父さんね、お仕事が忙しいの。リチルちゃんはお父さんの邪魔をしたくないでしょ?」 リンさんも加勢してくれて説得してくれる。 でも、リチルの顔には、泣くぞ泣くぞオーラが見え始めてきた。 「リチル、いい子だからパパの言うことを聞いてくれないか?」 「やだ・・・。パパといっしょがいい・・・。」 ああ、こうなることは目に見えていた・・・。 仕方がない。リチルを連れて帰ろう。 ここで泣かせてリンさんに迷惑をかけるわけにはいかないし。 「仕方ないか・・・。」 「仕方なくない!」 リンさんは、リチルの手を取ろうとした私の手を止めさせた。 「リチルちゃん!  パパがお仕事できなくていいの?パパが好きなら、パパの事も少しは考えなさいっ!」 「いいよ、リンさん・・・」 ものすごい剣幕でリチルを怒るリンさんをなだめようとしたが、その矛先は私にも向けてきた。 「だいたい、あなたもあなたよっ!  一度は子育てを経験しておきながら、きちんと”しつけ”をしていないなんて、どういうことっ!?」 ああ・・・。 なんで首を突っ込んでしまったのだろう・・・。 リチルに向けられたはずの矛先が、私を集中非難する。 それによって、リチルがかばいにくる。 また矛先がリチルに向けられて、それが”また”戻ってくる。 しまいには、リチルが泣き出してしまい、事態は大混乱になってしまった。 もっとも”大混乱”と思っているのは私だけだと思う。 時間をみる。 11時。 ああ、担当さん・・・。ごめんなさい。 結局すったもんだの挙句、リンさんがリチルにご馳走を作ってあげることと、 お土産のおもちゃを買ってくることで、双方とも(2対1だけど)同意してくれた。 「お昼過ぎくらいには迎えにきます。それまでよろしくお願いします。」 「ええ、まかせといて。」 まだしゃくりあげているリチルを背に私は自宅へと向かった。

10分前・・・。 5分前・・・。 時は刻々と迫っている・・・。 昨日のレポートの内容を思い出せる範囲内で書き綴り、 わからないところが出てくると、 あいまいな供述(大抵細かな時間だが、この辺は少し大目にしておいた)をした。 コンコン・・・。 とうとう来たか。 そう思いドアを開けた。 案の定、そこには書類収集担当の錬金術師が立っていた。 「ラルド=クレリック=ヴァレリーヌさん。レポートを回収しに来ました。」 「あ・・・その・・・できていないのです。なのでもう少し待っていただけないでしょうか?」 黙っていても仕方がない。 先に素直に謝っておこう。 しかし、担当さんは甘くはなかった。 「では、本日の日が落ちるまでに王宮の錬金術研究所まで”自分”で届けてください。」 そう言ってスタスタと別の錬金術師のところへと向かっていった。 自分という所を強調されてムッとしたが、自業自得だったのでこの人を責めるわけにはいかない。 追いかける事もなく、自分の部屋へと戻っていった。 「ふぅ・・・。」 その後は時間に追われる事はなかったが、とにかく急いでレポートを仕上げる事にした。 ごまかしが所々あるが、まあいいだろう。 なにせ、実験している事は間違いではないのだから。 私はできたレポート(担当が帰って15分くらいでできた)をもって王宮へと向かう事にした。 皮肉だな・・・。と思いながら。 王宮までの道のりは片道30分程度。 担当を追ってもいいかな?と思ったが、多分追い返されるのがオチだろう。 というわけで、ごつごつした道路をとぼとぼ歩いていった。 パン屋や装飾品屋を通り越し、舗装された道路に出る。 そこにでれば、王宮までもうすぐだ。 兵士に身分証明書を見せ、王宮特有の大きな門をくぐり、 そのまままっすぐに行かず(まっすぐ行くと謁見室がある)離れに向かった。 2棟くらい離れた(それでも結構歩く)所に私が所属している錬金術研究所がある。 昔はここで働いていたのだが、今は自宅勤務。 誤解があるようだが、ここの仕事に嫌気がさしたわけではない。 この錬金術研究所には、王宮や錬金術企業向けに開発している企業開発勤務課と、 家庭用備品(フライパンや鍋など)や個人用の錬金術向けに開発している、家庭開発勤務課がある。 もちろん、細かい課(営業など)はあるがそれは省こう。 企業開発勤務課の研究は、主に研究所内の設備でなければ十分な研究ができない。 国の信用問題にかかわるからだと聞いた。 しかし、家庭開発勤務課は個人用の錬金術設備で十分すぎるほどの研究ができる。 だから、わざわざ研究所まで訪れなくともレポートを出すだけで十分なのだ。 ちなみに、この課には飛ばされたわけでなく、自分から志願したのだ。 私は久々の研究所に入り、受付に用件を言う。 そして、そのまま研究室に入ることなく受付にレポートを渡し、ここを出る事にした。 もちろん、給料はしっかりこの手に持っている。 リチルが待っているんだ。 私はもう一度兵士に身分証明書を見せて、門を出た。

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シナリオは出来次第、続きをアップする予定です。 ご意見やご感想、イラストも大歓迎です。

  lute@do7.enjoy.ne.jp 虎神 竜斗(こがみ りゅうと)

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