精霊の涙 〜機械の精霊〜




Days 3

今日は癒しの日。 つまり休日だ。 私は、リンさんに朝ご飯をごちそうになった(またか)後、自分達の家へと帰った。 今日は、午前中に家の掃除、午後からはリチルの為に時間を使おう。 早速、私ははたきとほうきを持って、居間の掃除を始めた。 もちろん、リチルはどたどたと周りを走り回っている。 掃除がはかどらないのは言うまでも無い。 「リチル。パパが何しているかわかるかい?」 「わかんないー。」 掃除した所としていない所をぐるぐる駆け回り、笑いながらリチルは答えた。 「お願いだから、リチル。じっとしていてくれないか?」 これじゃあ、いつまでたっても掃除が終わらない。 「はーい。」 リチルはおとなしく、椅子に座ってくれた。 私は、それじゃあ退屈だろうと思い、 リンさんの所から貰ってきた赤く熟れたリンゴを一つ渡してあげた。 「食べてていいから、おとなしくしてるんだよ。」 「はーい。」 明るい返事が返ってきた後、私は再び居間の掃除に取り掛かった。 もちろん、リチルを横目で追いながら。 しかし・・・。 なんだこの汚さは。 埃は積もるし、ゴミは溜まってそこらへんに蝿が飛んでいる。 そういえば、ゴミなんて1週間ほど捨ててなかった気がする・・・。 最悪だ・・・。 リチルが暴れなくとも午前中には終わりそうに無かった。 そうだ、リチルに掃除を覚えさせよう。 手伝い程度でいい。覚えてくれれば私も助かるし、リチルの為にもなる。 「リチル、こっちへ来なさい。あ、リンゴを食べ終わってからでいい。」 食べかけのリンゴを持ってこようとするリチルを引き止めて、 私はリチルに渡す掃除道具を自分の部屋で探していた。 確か、ほうきはもう一つあったはずだ。 私は、ゴミがあふれて散乱するゴミ箱の傍を探した。 あった・・・。 まだ使った形跡がほとんど無いほうきを、ゴミ箱の中から引っ張り出した。 何故、ゴミ箱の中に新品同様のほうきが入っていた理由は、さすがに詮索しなかった。 怖かったから・・・。 それをもって、リチルが待っている居間に向かった。 リチルはおとなしく居間で待っていてはくれなかった。 リンゴを食べ終わるや否や、どたどたとまた駆け回っていた。 「リチル、こっちへ来なさい。」 走っている方向をそのまま私のほうへと向けさせた。 リチルは私の前まで来ると、上目遣いで「何するの?何するの?」と訴えかけてきた。 「リチル。これからリチルも掃除をするんだよ。」 「そうじ・・・?」 「いいかい、こうやってこの部屋を綺麗にするんだよ。」 そういって、私はリチルにほうきとちりとりの使い方を、実際に使いながら説明していった。 「覚えたかい?」 「うんっ!」 私はその自信有り気な返事を信用する事にし、リチルにこの居間の床を掃除させる事にした。 もちろん、昨日のリンさんの件という前科がある。 でも、リチル一人でやらせたほうが良いんじゃないか?という考えも頭にはあった。 結局、私は、リチルと一緒に掃除をする事を選んだ。 ただ、お互いのエリアを決めておいて、干渉しないという条件をだして (リチルには「ここまでが、リチルのする所。リチルのする所は、パパは手を出さない」と  分かりやすく説明してあげた) 納得させた。 リチルには、障害物がほとんど無い埃だけの場所を選んであげた。 これに慣れてから難しい場所へと移ろう。 「じゃあ、このパパとリチルの場所のまんなかに箱を置いておくから、  そのちりとりに溜まったゴミはここに入れるんだよ。」 「はーい。パパ、入ってきたらダメだよっ。」 「わかってるって。じゃあいくよ。よーい始めっ!」 結果は目に見えていた。 あれだけのハンデがあったにもかかわらず、私の半分も終わっていなかった。 手伝わないと約束したので、リチルのエリアに入るわけにはいかない。 しかし、リチルの様子をずっと見ていると日が暮れてしまう。 手伝わせないほうが良かったのかもしれない、と思うくらいだった。 リチルには失礼だが。 でも、このままじっとリチルを見ているわけにもいかず、私はキッチンの掃除に向かった。 「リチル、キッチンに行っているから。何かあったらキッチンにきなさい。」 「はーい。」 返事だけは一人前だった。

キッチンの掃除が終わろうとした頃、キッチンにリチルの姿が見えた。 でも、居間を掃除していた頃の元気な姿は微塵も無かった。 「パパぁ・・・。」 「リチル、また何かしたのかい?」 ぶるぶるぶるっ・・・。 「じゃあ、終わったのかい?」 ぶるぶるぶるっ・・・。 両方とも首を横に振った。 じゃあ、どうしたのだろう・・・? 私はありとあらゆる可能性を考えていたが、リチルはその考えを全て吹き飛ばしてくれた。 「おなかすいた・・・。」 「リチル、もうすぐできるからな。」 私は今、遅い昼ご飯を作っている最中だ。 現在午後2時。 ほぼ綺麗になったテーブルに、人参が氷山のように顔を出している野菜スープ、 焼きたての食パン、たくさんのリンゴを使ったサラダ、 そして、今作っている鮭(切り身をリンさんに貰った)のムニエルをのせる皿が所狭しとのっている。 リチルは自分の皿の前で「まだなのまだなの?」と私に文句を言っている。 「もうすぐだから静かに待っていなさい。」 私はそういうしかなかった。 でも、静寂は5秒も持たなかった。 騒ぐリチルに対して、後ろめたい気持ちで目の前の鮭と格闘した。 鮭が焼きあがり、皿に置いたとたん、リチルがかぶりついた。 それを注意し、お祈りをしたあと、私達の食事の時間が始まった。 「ごちそうさまでした。」 「ごちそうさま・・・。ん?まちなさい。リチル。」 席を立って片付けをしようとするリチルを呼び止め、 テーブルに残ってある底の深い小さな皿を指差した。 その中の隅に寄せてある物をみて、リチルの顔色が変わった。 「どうして人参だけ残すんだい?きちんと食べないとダメじゃないか。」 「だってぇ・・・。苦いし、おいしくない・・・。」 私は、ためしに皿から一つフォークでさして食べてみた。 ガリガリ・・・。 と、野菜スープの具にしては普通はしないような音が、口の中で発生した。 不味かった・・・。 私は、あまった野菜スープの鍋からいくつか人参を取り出して、フォークで刺していった。 やわらかいものをいくつか取り出して、リチルの皿の中に置いた。 もちろん、元々残っていたものは全て私の皿に移し変えた。 「さあ、食べてごらん。これで不味いなら今日は食べなくていいから。」 良いわけが無い。でも、今回は特別だ。私も認める。 「でも・・・。」 「じゃあ、パパも食べてあげよう。  それならいいだろう?パパもおいしくなければ食べるのを止めるから。」 渋るリチルを説得し、人参を食べさせようとした。 最初は応じる気配が無かったが、少しずつだが人参を食べようと努力し始めてきた。 スプーンでひとかけらすくい、口に運ぶ。 「・・・。甘い・・・。」 口の中の人参が無くなって、私に言ってくれた。 よかった・・・。 リチルの喜ぶ声に、私の心は、ほっとした。

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  lute@do7.enjoy.ne.jp 虎神 竜斗(こがみ りゅうと)

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