乗せられた車のなかで友雅は一切口を開かず、またあかねも雰囲気的に質問する事が出来なかった。
運転する鷹通も一切何も言わない。
沈黙が支配する居心地の悪い時間。
あかねは友雅を見ないよう、車窓に顔を向けていた。
その態度がより一層、友雅の怒りを煽るとも知らずに・・・。
やがて車は見慣れたマンションの地下駐車場へと滑り込んだ。
「ではね、鷹通」
「きゃっ!」
友雅はあかねを乱暴に車から引き降ろし、後ろ手にドアを閉めた。
「友雅」
少しだけ助手席側の窓を開け、覗き込むようにして鷹通は友雅を見上げた。
「・・・らしくないですよ」
「よけいなお世話だね」
クルリと背を向けた友雅に、鷹通は深い溜息を落とした。
見慣れた友雅の部屋。
なのに今は初めて来た時よりも緊張していた。
立ち尽くすあかねの真正面のソファーに、友雅が無言で身を沈める。
やがて沈黙に耐えかねたあかねが恐る恐る口を開いた。
「友雅さん・・・・、やっぱりコンパの事、怒ってる・・・よね?」
「・・・怒られる覚えはあるわけだ」
冷たい言葉。
あかねを見つめる眼差しは、今まで見た事が無いほど綺麗に感情を消している。
だからこそ、怖い。
友雅の視線に耐え切れず、あかねは俯いてしまった。
「ごめんなさい・・・・。でも、前から約束していたの」
「だったら最初からそう言えばいいだろう?」
「だって・・・・」
「言える訳ないかな?男を探す為だとはね」
「そんな!」
友雅のあまりの言い様に、あかねは声を上げた。
「違います!私は人数合わせで呼ばれただけだもの」
「そのわりにはとても楽しそうにしていたようだけど?他の友達よりずっとね」
友雅の脳裏に見たことの無い少女の朗らかな笑顔が甦る。
あかねに悪気がないのは十分分かっているのに、感情はそれを許せないのだ。
あかねも自分の言い分を一切聞かない友雅に逆ギレしてしまいそうだった。
だから自然と口調も刺々しくなる。
「じゃあ、私に男の子達を無視していろって言うんですか?そんなこと出来る訳ないじゃない!」
「最初から行かなければいい」
淡々と答える友雅に益々腹が立ってくる。
あかねはカッとなって叫んだ。
「私にだって付き合いがあります!何よ!友雅さんの方がまだ酷いじゃない!」
突然の非難に友雅が微かに眉を寄せた。
「いつもいつも綺麗な女性と一緒なのスクープされて!私が黙っていたら知らん顔。それなのに私の事だけ責めるんですか!!」
「・・・・・・」
「この前だって女優と噂になって・・・・。たった一度義理でコンパに参加した私を責める資格なんて友雅さんにはないわ!」
「・・・・ずいぶんと言ってくれるね」
抑揚の無い低い声だった。
だが感情的になったあかねは、常とは違う友雅に気付く余裕はなかった。
「いつも女性に囲まれてる友雅さんに、私の事をどうこう言わないで欲しいです。私を責める前に自分を振り返ったらどうですか!」
一気に今まで胸に溜めていた不満を友雅にぶつけたあかねは、涙が零れそうなほど潤んだ瞳で友雅を睨み付けた。
その視線を受け友雅が微かに笑う。
あかねが見たことの無い、酷薄な笑み。
「とも・・・まささん・・・?」
スッと昂っていた精神が冷たくなる。
伸ばされた友雅の手をあかねは恐れのあまり、一歩下がってよけてしまった。
そんなあかねに友雅は一つ舌打ちをし、力ずくで少女をその胸に引き寄せたのだった。
抱きしめる腕の強さが怖い。
腕の中で震える少女の頤を指先一つで上向かせ、噛み付くようにキスを落とした。
「・・・・っ・・・!」
あかねの目じりから涙が一筋流れ落ちた。
あかねのすべてを征服するように激しいキスなのに、冷たくて恐ろしくて・・・・。
やがてゆっくりと唇を離した友雅は、抱きしめていたあかねの体を吹き飛ばすように解放したのだった。
「きゃっ!」
乱暴な扱いにあかねは床に手を着いて倒れこんだ。
しかし友雅はあかねを冷たく見下ろして、立ち上がり背を向けた。
「友・・・」
「あかねが私をどういう風にみていたか、よく判ったよ」
「友雅さん!?」
「ここまで信用されてないとは思わなかった。・・・しかも私が何に怒っているか分かろうとしないまま私を非難するとはね。興ざめだ」
冷ややかに吐き捨てられた言葉に、あかねの体温が下がる。
僅かに開いた唇からは、ショックのあまり掠れた吐息しかこぼれなかった。
「・・・・どこに・・・」
かろうじて搾り出した言葉は、涙まじりの小さな声・・・
友雅はドアに手を掛け、背を向けたまま告げた。
「酒を飲みたくなっただけだよ・・・・。君は酒の相手さえまともに出来ないから、お望み通り誰かを誘うとするよ。女には不自由してないからね」
あかねを傷つけるためだけの言葉。
冷たい言葉の刃にざっくりと切られたあかねが泣き伏すのもかまわず、友雅は乱暴にドアを閉め姿を消した。
<続>
02.06.24
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