対等でいたい。
子供扱いして欲しくない。
あなたの想像通りになんて行動してあげない。
私は私。
どこにいても誰といても、私は私の思うまま生きていくの。
「鷹斗さ〜ん」
聞き逃してしまいそうな程小さな声で呼ばれ、鷹斗は歩を止めあたりを見回
した。
「こっちですよ」
ちらちらと目の端に映るもの。
それは生い茂った庭木の陰で隠れるように膝を抱え、鷹斗を手招きする少女だった。
「花梨様?」
数ヶ月前鷹斗達の頭、翡翠が突然京から連れて来た幼い奥方、花梨。
人の目を避けるように身を潜ませている花梨に、嫌な予感を覚えながらも鷹斗は彼女の前に膝を付いた。
「このような所でいかがなさいましたか?」
今、翡翠は屋敷から出かけているので花梨も自由に遊んでいられるのだろうが、どうも何かを企んでいるような気がしてならない。
しかし訝しく思いつつも、翡翠の右腕鷹斗は表情に出すなどという間抜けなことはしない。
ニコニコと笑いながら花梨の言葉を待っていた。
「今ね〜、情報収集してるんだ〜」
声を潜め花梨が悪戯めいた上目遣いで鷹斗を見つめる。
「鷹斗さんも協力して?」
可愛らしく小首など傾げてみせるが、果てしなく嫌な予感がする。
「・・・・・・・つかぬ事をお尋ねしますが、花梨様は何の情報を集めてるのですか?」
「翡翠さんのだよ」
「お頭の・・・」
大当たりだ。
鷹斗が呆れたように息を吐く。
そのとたん馬鹿にされたと思ったのか、花梨がプーッと頬を膨らませた。
「ムカつく」
「はっ?」
「何でもない、こっちの話。」
よく花梨は鷹斗達の分からない言葉を使う。
花梨も分かって使っているから、通じなくても気にしていない。
「お頭の何の情報ですか?」
とりあえず聞いてみなければ始まらない。
鷹斗の問いに、花梨はにーっこり笑ってガシッと彼の腕を掴んだ。
「翡翠さんの弱点、教えて!」
「はぁ?」
「だーかーらー、翡翠さんの弱点だって!教えてよ〜」
鷹斗の腕を揺すっておねだりしてくる花梨に、開いた口が塞がらない。
いったいこの少女は何を企んでいるのか・・・・
「・・・お頭の弱点ですか?」
「そう!」
花梨が力いっぱい頷いてますます身を乗り出してきた。
「苦手なものとか、嫌いなものとか無い?食べ物の好みでもいいの。とにかく翡翠さんの弱点、知らない?」
「知ってはいますが」
「教えて!!」
鷹斗が皆まで言わないうちに花梨が喰いついてきた。
大きな瞳をキラキラさせて、心からうれしそうな花梨についつい口が滑りそうになったがそれはまずい。
鷹斗は苦笑して首を振った。
「私も命が惜しいので・・・」
「え〜、鷹斗さんも〜」
今までの勢いはどこへやら。花梨の肩がガックリと落ちる。
「私も、ということは、まさか他の者に・・」
「うん、聞いたよ。鷹斗さんと同じこと言って教えてくれなかったけどさ」
「それは、まずいですね?」
「まずい?何で?」
他の者が花梨の『情報収集』を知っている意味に気付いていない彼女は、不思議そうに首をひねった。
まあ、今更気付いても仕方ないので鷹斗は黙っておくことにする。
「それより、何故お頭の弱点を知りたいのですか?」
当然といえば当然な鷹斗の問いに、花梨は喉の奥で低く笑った。
「復讐よ」
「復讐・・・ですか?」
「そう!!翡翠さんに復讐するの。だって酷いと思わない?私、いっつも苛められてるんだよ?この前とか、立てなくなるまで正座させられた挙句にしびれた足を思いっきり踏まれたんだよ?痛いって言ってるのに楽しそうに笑ってるし。ムカつくったらありゃしない!だから復讐するの!」
「・・・・・・」
呆れて言葉も無い鷹斗の前で立ち上がり、拳を突き上げ花梨は吠えた。
「翡翠さんの嫌いなものてんこもりにして嫌がらせしてやる!復讐よ!この恨み思い知れ!!」
「それは楽しみだねぇ。花梨?」
すぐ真後ろから聞こえたしっとりとした美声。
拳を突き上げたまま花梨は、じっとりと背に伝う冷たい汗を感じた。
目の前の鷹斗が笑いをこらえた、どこか変な表情で頭を下げる。
間違いであって欲しいのに、聞き違えるはずのない声と鷹斗の態度で後ろの人物が今一番会いたくない人だと確信した。
「面白いことをしているそうだね、花梨?私について情報収集しているそうじゃないか」
「ははは〜、何のことだか・・・・」
「みずくさいねぇ。直接聞いてくれればいいのものを・・・。それとも私には聞けないことなのかな?」
すべて知っているくせにジワジワと花梨を追い詰めるのが嫌味ったらしい。
花梨は心の中でチッと舌打ちし、覚悟を決めてにっこり笑って振り返った。
予想通りそこには美丈夫が立っていた。
女の花梨がうらやましく思う翠の黒髪をなびかせた美しき海賊。
だがしかし、今はうっとりと見とれている場合ではないのだ。
「翡翠さんが気にすることないから。、鷹斗さんありがとね。私はこれで。じゃっ!」
すちゃっと敬礼をして踵を返し、すばやく駆け出した。
しかし・・・・・・
「きゃー!、いや〜ん、放して〜」
ネコの子よろしく、花梨の首根っこを掴んだのは翡翠。
「この悪戯な姫にはお仕置きが必要のようだね?」
「必要じゃなーい!バカー!!放してよ!」
「口の利き方も知らないようだ」
「うわっ!」
翡翠は軽々と荷物のように花梨を肩に担ぎ上げたのだった。
「放してよー!」
目の前の広く逞しい背中を拳で叩いても、翡翠にとっては痛くもない。
「鷹斗さーん、笑ってないで助けてー!」
「・・・私の腕の中で他の男の名を呼ぶとは・・・・。いい度胸だ」
低い囁き声に花梨の体がピタリと凍りつく。
花梨はどうやら地雷を踏んだようだった。
まだ命が惜しい鷹斗は密かに花梨の無事を祈りつつ、二人を見送った。
<終>
翡翠さんお誕生記念(?)です。
どの辺が記念か聞かれると困ります(笑)
ほのかに「言い付け」続編テイスト。
お楽しみ頂ければうれしいです。
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オマケがあったりして(笑)