あかねと友雅が兄妹となったのは、親同士の再婚の為だった。
あかねが8才、友雅が23才の時。
友雅はすでに大学病院にいて、一人暮らしをしていたのであかねと暮らしたことはほとんどなかった。
しかし友雅の父は女の子のあかねを実の母以上に可愛がり、何かと友雅に逢う機会を作ってくれていた。
友雅も歳の離れた素直な少女を可愛がり、暇があればあかねと遊んでくれた。
あかねも綺麗で格好良く優しい兄を慕い、「友雅兄さんのお嫁さんになる!」と言って、友雅を苦笑させていた。
その関係が崩れたのは、あかねが13才の時。
ある雪の日の夜、高速道路で事故に巻き込まれた両親は帰らぬ人となった。
残されたのは中学生のあかねと、研修医の友雅。
葬儀の後、あかねは友雅の勧めに従い寮のある私立学校へ転校した。
たった一言、
「あなたを許さない!」
友雅にそう言い残して・・・・・・
「疣贅・・・、いぼみたいだが、検査してみないとはっきり言えないねぇ」
いくつかの問診とあかねの頬を診た友雅は、カルテに横文字をサラサラと書き込みながら言った。
「・・・・・・ヤブ医者・・・」
「何か言ったかい?」
あかねが小さく吐き捨てたのを、耳聡い友雅が笑いながら聞き返す。
だが、あかねはツンっと顔を逸らしただけだった。
相変わらずのつれない態度に苦く笑いながらも、友雅はDrとしての仕事を続ける。
「あかね、それを切って検査に出したいんだが、どう?」
「切る〜!!」
予想外の言葉に、思わずあかねは声を上げた。
切る・・・。すなわちメスを入れる事。
あろうことか女の子の顔に、である。
これには、意地を張っていたあかねも慌てた。
「ちょっと、何考えてるのよ!年頃の娘を傷物にする気!?」
「大袈裟だねぇ。ちょっと切るだけだよ。大丈夫、綺麗に縫ってあげるから」
「信用できるもんですか。お嫁に行けなくなったらどうしてくれるのよ」
「ははは、心配いらないよ、あかねが売れ残ったら私がもらってあげるから」
「・・・・・つまらない事言うと、暴れるわよ?」
あかねの冷たく鋭い眼差しに、友雅はやれやれと肩をすくめた。
「どうしても嫌かい?」
「・・・・・・・」
「あかね?」
昔と変わらない友雅の呼び声。
誰があかねの名を呼ぶより、甘さを含んだ独特の呼び方。
血は繋がってなくても、たった一人のあかねの家族。
それだからこそ、許せない。友雅のあの一言が・・・
何年経っても許せない。
「綺麗に治るのね?」
しばらく考えていたあかねは、睨みつけるようしてに友雅に訊ねた。
「疑り深いねぇ・・・。大切なあかねに傷など残すわけないだろう?」
「・・・・傷が残ったらただじゃおかないからね!」
「はいはい、分かったよ。では、これを貼って30分後に処置をしよう」
友雅は看護婦から受け取った透明なシートをあかねの頬に貼り付けた。
「麻酔が痛くないように、表面麻酔をするからね。しばらく待合室で待っていなさい」
あかねが出て行った後、友雅は微かに笑みを浮かべ誰の耳にも届かない小さな呟きを落とした。
「さて・・・、楽しい日々になりそうじゃないか・・・」
そして友雅は受話器を取ると、どこかへ電話を掛けはじめた。
<続>
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