いつも、心の中にあなたがいる…。





 聡美と見に行ったトーク番組が放映される日、あたしは家であらためてそれを見た。
 カメラが、スタジオに颯爽と登場した依織くんと100人近い女性観覧者をざっと映した時、端っこに座っていたあたしも小さくフレーム内に入っていた。




 
 依織くんと同じ空間にいる。
 そう思うと、少しだけうれしくなった。





 そんな些細な事で喜べるくらい、依織くんが好きなんだなと自嘲してしまう。





 依織くんが特集されている雑誌とか出演してるドラマを、ついつい買ったり録画したりするのはファン心理だと思っていたけど、
ただ諦めきれてないだけなのかもしれない。





 依織くんが夢に向かって歩いている姿を見られるだけで幸せだと思い込んでいた。





 そう思い込まなかったら、切なすぎたから。





 ようやく落ち着いたと思ったのにな。





 遠い存在になった依織くんを見れば、ひとつの区切りをつけられると思っていたのに。





 現実は、あの日よりずっと深くなった想いを自覚しただけだった。







『恋についてですか?……そうですね、恋はいくつかしました』



 依織くんが司会者の読み上げた、視聴者から届いた質問に、少し思案しながらゆっくりと言葉を紡ぐ。
『その中で忘れられない恋ですか………。忘れられないというより、ひとつだけ後悔している恋がありますね』
 目を伏せて、穏やかに話す依織くんは淡く切ない笑みを浮かべた。





 依織くんが思い出す恋の中に、あたしとの想い出は入ってますか?
 依織くんは、少しでもあたしを恋人として思い出してくれますか?





 依織くんが大好き。
 でもいつかこの想いに終止符を打たないと、あたしは前に進んでいけない。
 依織くんを嫌いになるとか、忘れるとか、そんなことじゃなくて、依織くんと過ごした素敵な時間を思い出としていきたい。
 今はまだ、依織くんへの想いは現在進行形だから。
 好きって想いは、止めようと思っても止められない。
 それでもその想いが叶わないなら、どこかで終わらせないといけないんだ。






 叶わない恋を終わらせて、あたしは依織くんに貰ったあたたかな想いを胸に、歩きだしていきたい。





「合コン?」
「そ!今回はオススメ〜、いい男ぞろい〜!」
「…いつも同じようなこと言ってない?」
 友達の香奈の誘いに、あたしはちょっと意地悪に返してみる。
 すると香奈は、両手を合わせてあたしを拝んだ。
「お〜ね〜が〜い〜!!むぎを連れて行くって言っちゃったんだ」
「言っちゃったって、誰に?」
「向こうの男子に。この前も一緒にコンパした人がいるんだよ」
「……香奈〜?」
「ごめんって。でもさ、私も気になる人がいて、もう一度会いたかったんだよ。連絡先聞いてなかったし。お〜ね〜が〜い〜!!」
「う〜ん、どうしようかな〜?」
 あたしはわざとらしく、しかめっ面をして腕を組んだ。
 すると香奈は、ピッと人差し指を立てて厳かに言った。
「ランチ一回」
「のった!」
「ありがと〜。じゃ、詳しい時間と場所はまた決まったら教えるね」
 あたしから了承の返事を取ると、香奈は次のメンバー探しに飛んでいく。
 その背を見ながら、あたしは笑ってしまった。





 依織くんは、今でも好きだけど、そのままではいられないから。
 




 多くの人と出会っていこうと思う。
 




 そしていつか、付き合う前のように拘りなく会いたいね。
 




 5人で暮らした楽しい日々のように、笑って会えるといいね。




 
 時間が経てばきっと笑って依織くんに会える日がくると思うから。
 だから、もう少しだけ時間を下さい…。





 依織くんへの想いが、幸せな片想いだと思えるようになるまで……。











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