シルクロード写真館 (チベット編)
現在の中国・チベット自治区の南東部に位置するロカ(山南)地区は肥沃な大地に恵まれ,「チベットの穀倉地帯」と呼ばれています。ヤルツァンポ川に沿って展開するこの地域は,チベット人発祥の伝説や建国の神話などが生まれたところで,それらを裏付けるかのように史跡や建物が数多く残されています。そして,チベット国開闢(かいびゃく)以来,2000年にわたり連綿と続く人々の営みと暮らしが見られます。 そうした風景のいくつかを,2001年9月に撮影した写真で紹介します。
ゴンカル空港

 チベット・ラサの空の表玄関です。海抜は3600mの高地にあるため、空気は平地の3分の1と稀薄です。ラサから南東へ約100kmのところにあり,中国では町から一番遠く不便な空港です。
 しかし,空気は澄みきって,青い空と白い雲が山々の連なりに溶け込み,「チベットへ来た」という実感が湧いて来る空港です。

ヤルツァンポ川

 西チベットの聖山カイラスの麓を東流する馬泉河を源流と発し,やがてはブラマプトラ川と名前を変えて,インド洋のベンガル湾に注ぐチベットの大河です。5000万年前の昔,インド亜大陸がユーラシア大陸にぶつかった衝突地点といわれています。それはインダス−ツァンポ縫合帶と呼ばれ,カイラスの西を流れるインダス川とこのヤルツァンポ川とで約2400kmの大断層帶をチベット高原に形成しています。
 ヤルツァンポ川に沿って連なる山々やポプラの木々が水面に映え,周囲の自然ともマッチした美しい景観は,静粛な「サウンド・オブ・サイレンス」の幻想的な世界に包まれ,一瞬月に降り立ったような錯覚にとらわれます。
ヤルルン渓谷

 ヤルツァンポ川に広がる田園地帯で,その中心にツエタンの町があります。
 ヤルツァンポ川の支流シャンポ川に展開するヤルルン渓谷は,チベット文明発祥の地といわれ,日本でいえば飛鳥の地にあたるところです。チベット人の主食であるチンコー麦(大麦の一種)の栽培が盛んで,9月には畑一面が黄金色に色づき収穫の季節となります。刈り取り,脱穀といった昔ながらの手作業がいたるところで行われ,かつて日本の農村で見られた懐かしい光景が,目の前によみがえってきます。
ガムポ・リからツェタン(沢当)の町

 ガムポ・リは古くからのチベットの民間宗教であるボン教の聖山とされており,東側の山頂近くには,仏教伝説によるとチベット民族の祖先である観音菩薩の化身の猿が、岩の精女と結婚する前に修行をしていたとされる猴子洞と呼ばれる祠があります。また,この山のどこかに楽園に通じる秘密の扉が隠されているという言い伝えもあります。
 山のいたるところにタルチョ(祈祷旗)がはためく積石塚が見られます。そこからは眼下にヤルツァンポ川やツェタンの町が望まれます。
蔵王墓

 ツエタンの南28km,チョンギェの村にあります。ここは7世紀の初め頃,古代チベット(吐蕃)国の王ソンツェン・ガムポがラサに遷都するまで治めていたところです。かつてソンツェン・ガムポの先祖たちは,部族単位でこの地一帯を治めていましたが,やがてソンツェン・ガムポ父子の代になって周辺の部族を統一し,古代チベット王国を建国したとされています。
 村の南の道路のそばにソンツェン・ガムポの墓陵があり、その東側一帯の麦畑のなかに歴代の王墓が点在しています。
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