シルクロード写真館 (黄河溯行・炳霊寺への船旅編)

黄河の清濁の境目

 黄河の水は、ダムで塞き止められて土砂が沈澱するため、名とは裏腹の冴え渡る青色をしていますが、北からの青河が黄河本流に合流する地点に近づくと、突然前方に黄色の水の帯が現れます。青い水に黄濁の水が混ざり合い、やがて黄河本来の黄濁の水の色に変わっていきます。それ以外はまったく変化がなく、船のエンジンの音だけが単調に響いています。

浅瀬を航行

 船が速度を緩めはじめました。すると一人の水夫が竹棹を手に取り、船べりから棹をさして河の深さを確認し始めました。その水夫の指示にしたがって、操縦室の船長は船を進めていきます。河の水深が見る間に浅くなり、デッキの上から濁流の河底が見えるほどです。炳霊寺へは増水期の9月以降でないと行くことが困難と言われた地元の情報の意味が、ここに来てはじめて実感として理解できました。

浅瀬に乗り上げた船

 ところどころに中洲も見えてきました。よその船はあえなく浅瀬に乗り上げ、乗っていた人たちが河の中に入ってロープで船を引っ張っている光景が見えます。私たちの船も船底を擦りながら、ズズズーッと無気味な音を立てて進んでいます。炳霊寺を訪れることは長年の夢でした。もし船がここで止まったら、水の中を歩いてでも行きたい心境になります。

河畔の小積石山系

 浅瀬を脱すると、両岸の山々の景色も奇観に変わっていきます。この桂林に似た千山連なる奇岩は専門的には小積石山系と呼ばれるものです。それを古記録『水経注』は、「河の北には重層する山が聳え、はなはだ秀麗である。山峰の上には数百丈におよぶ立石が、亭亭とそば立ち、勢を競い高きを競う。その下には厳(いわ)また厳が峭(けわ)しく重なり、壁岸をよじ登るべき足場はない」(平凡社訳本)と記しています。

炳霊寺石窟の船着場付近

 峡谷が急に狭くなり、黄河が大きく右に流れを変えると、いよいよ炳霊寺石窟に到着です。炳霊寺は唐代には龍興寺、宋代には霊厳寺と称されていました。かつてシルクロードの旅人は、この辺りで黄河を渡ったようです。地元ではここを「大寺溝」という地名で呼んでいます。今は渇水期のため、石窟のかなり手前で船を降りなければなりません。船着場の奥に巨大な仏像の雄姿が見えます。
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